表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セイレン党組曲  作者: くつぎ
Case 11~一途な彼とひねくれた彼女~
56/70

01 白い板を汚す

 ――木村(きむら)大祐(だいすけ)青木(あおき)奈々(なな)の場合①――


 きっと、本当は気づいていたの。


 放課後、美術室。

 窓の向こうの風景を視界にとらえながら、キャンバスを汚す。

 グラウンドでは運動部が走り回っているけれど、私はそれを描かない。

 描くのは、風景だけでいい。


「青木せーんぱい!」

「うわぁっ!!」


 鉛筆を立てて窓の外を見ていたら、ひょっこり顔が出てきた。


「びっくりした? ドッキリ成功!」

「ちょっと木村くん、驚かせるのやめてよ」

「だって先輩、毎回きっちり驚いてくれるからさぁ」

「驚いてあげてるわけじゃないの、本当に驚くの!」


 窓の外でにっと笑って見せるのは、サッカー部の2年生。

 無邪気な笑顔から視線を逸らして、ため息をついた。


「どうして毎回毎回こんなところまで来て私に構うの」

「だって俺、青木先輩のこと好きだもん」

「またそういう変な冗談言う」

「冗談なんかじゃねーよぉ! 好きだぜ、青木先輩!」

「はいはい、ありがとうありがとう」


 軽くあしらえば、木村くんはむっと頬を膨らませる。


「せんぱーい、俺、本気だよ?」

「そんなチャラチャラした本気は認めません!」

「えー」

「そもそも私、年下に興味ないの」


 ふんっとそっぽを向いてから、再びキャンバスに視線を戻す。

 ちらり、もう一度窓の方を見たら、まだいた。


「まだいたの? 早く練習に戻らないと」

「なぁ、青木先輩」


 不意に少しだけ真剣な眼をして、木村くんが私を見た。

 不覚にも、心臓がどくんと鳴いた。


「な、なに」

「じゃあ俺って今、歳下ってだけでこんなにないがしろにされてるわけ?」


 不服そうな顔で、木村くんはため息をつく。


「歳なんて大した問題じゃねーじゃん。1歳差なんて学校出りゃ同い年みたいなもんだろ」

「と、歳だけとは言ってないでしょ、チャラチャラした人も嫌い」

「俺のどこがチャラチャラしてるって?」

「そういうとこ! 軽々しく女の子に好きだなんて言えるのはチャラい証拠よ」


 びしっと木村くんを指さしてそう言えば、木村くんはまたムッとした。


「何、青木先輩は俺がナンパ野郎だとでも思ってるの」

「どう見たってナンパ野郎じゃない」

「ひっでー! 俺だって吟味ぐらいするって」

「木村ァァア!! いつまでサボってんだァァア!!」

「ゲッ、コーチ」


 話しているうちにサボっていたのがばれたらしく、木村くんは肩を落として窓から離れた。


「じゃあ俺、練習戻るわ……」

「もう来なくていいよ」

「また隙みつけて来るから!」

「来なくていいよ」


 練習に戻っていく木村くんの後姿を見送ってから、溜息を一つ。

 窓を見て、キャンバスを見て、私はざかざかと鉛筆を走らせた。


 本当は気づいてる。

 私はきっと、あの子が嫌いではないんだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ