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セイレン党組曲  作者: くつぎ
Case 10~自堕落な彼と多趣味な彼女~
55/70

05 喜びを運ぶ花

 ――藤田健一と橋本未来の場合⑤――


 俺も、ほだされたものだな。


「藤田先輩っ! 付き合ってください!」


 ある放課後のこと。

 梅雨もすっかり終わり掛け、ずいぶんと雨も緩んできた今日この頃。


「は?」


 ここ数日、雨のせいか姿を現さなかった橋本が、花束と共に現れた。

 しかも両手にいっぱいの、何やら白い、バラっぽい花。

 さらにはそれを俺に向かって突き出しつつ、何故か本人はその場で片膝をついた。


「……何だ、今日はフラワーアレンジメント的なあれか?」

「えっ、いやいや、違うよ!」


 何故か慌てた様子を見せてから、橋本は改めて俺に花束を差し出してくる。

 受け取れと?

 頑なに受け取れと?


「じゃあ何だよ、俺はどこに付き合えばいいんだ」

「違う、そうじゃない! そうじゃないよぉ!」


 とうとう立ち上がった橋本は、ずいっと俺に近付いてきた。

 思わず後ずさった。

 というか、俺は何故こいつに花束を突き付けられているんだろうか。


「藤田先輩!」

「お、おう」

「今までずっと言うの忘れてて、そう言えばって思って」


 橋本の顔を見ようにも、今は目の前の花束が邪魔をしてよく見えない。

 眉をひそめて様子を窺っていたら、橋本が唐突に顔を上げた。


「そのっ……私、藤田先輩のことがふきです!」


 あ、こいつどうやら大事なところで噛んだ。

 本人も気付いたらしく、見る見るうちに真っ赤になっていく。


「う、あ……ちっ違う、好き! 好きですっ!」


 叫ぶようにそう言って、橋本は花束で自分の顔を隠してしまった。

 俺たちと同じく下校していく生徒たちが、不思議なものを見るような顔で通り過ぎていく。

 何これ、何この状況。

 俺はこれ、どうするのが正解なの?


「えーっと、」


 困り果てて頭を掻けば、橋本が恐る恐る顔を上げる。

 俺の様子を窺っているらしい。

 普段のこいつなら、こうして俺の返事を待つようなことはしないだろうに。


「急に言われましても、何と言うかその……ねえ?」

「ねえって言われても!」

「どう返したものか」


 こいつのことをどう思っているのかなんて、深く考えたことはない。

 しかしながら何となく、分かっていたような気はする。

 そして何となく、自分自身でそこから目を逸らしていたような気もする。


「……橋本、よく考えても見ろ」

「は、はい?」


 直立不動の姿勢になった橋本から、花束を取り上げた。


「俺が、好きでも何でもない奴にいちいち付き合うと思うか?」


 つまりは、それが答えである。


 取り上げた花束を抱えて歩き出すと、少し経ってから背中に衝撃。

 振り向いてみれば、俺の背中に飛びついたらしい橋本の姿が見えた。


「藤田先輩! 大好き! パフェ食べに行こう!」

「その前に花瓶だ、バカ」


 ため息をつけば、橋本がいつも通り嬉しそうに笑う。

 つられて顔が緩んだのは、内緒だ。



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