05 喜びを運ぶ花
――藤田健一と橋本未来の場合⑤――
俺も、ほだされたものだな。
「藤田先輩っ! 付き合ってください!」
ある放課後のこと。
梅雨もすっかり終わり掛け、ずいぶんと雨も緩んできた今日この頃。
「は?」
ここ数日、雨のせいか姿を現さなかった橋本が、花束と共に現れた。
しかも両手にいっぱいの、何やら白い、バラっぽい花。
さらにはそれを俺に向かって突き出しつつ、何故か本人はその場で片膝をついた。
「……何だ、今日はフラワーアレンジメント的なあれか?」
「えっ、いやいや、違うよ!」
何故か慌てた様子を見せてから、橋本は改めて俺に花束を差し出してくる。
受け取れと?
頑なに受け取れと?
「じゃあ何だよ、俺はどこに付き合えばいいんだ」
「違う、そうじゃない! そうじゃないよぉ!」
とうとう立ち上がった橋本は、ずいっと俺に近付いてきた。
思わず後ずさった。
というか、俺は何故こいつに花束を突き付けられているんだろうか。
「藤田先輩!」
「お、おう」
「今までずっと言うの忘れてて、そう言えばって思って」
橋本の顔を見ようにも、今は目の前の花束が邪魔をしてよく見えない。
眉をひそめて様子を窺っていたら、橋本が唐突に顔を上げた。
「そのっ……私、藤田先輩のことがふきです!」
あ、こいつどうやら大事なところで噛んだ。
本人も気付いたらしく、見る見るうちに真っ赤になっていく。
「う、あ……ちっ違う、好き! 好きですっ!」
叫ぶようにそう言って、橋本は花束で自分の顔を隠してしまった。
俺たちと同じく下校していく生徒たちが、不思議なものを見るような顔で通り過ぎていく。
何これ、何この状況。
俺はこれ、どうするのが正解なの?
「えーっと、」
困り果てて頭を掻けば、橋本が恐る恐る顔を上げる。
俺の様子を窺っているらしい。
普段のこいつなら、こうして俺の返事を待つようなことはしないだろうに。
「急に言われましても、何と言うかその……ねえ?」
「ねえって言われても!」
「どう返したものか」
こいつのことをどう思っているのかなんて、深く考えたことはない。
しかしながら何となく、分かっていたような気はする。
そして何となく、自分自身でそこから目を逸らしていたような気もする。
「……橋本、よく考えても見ろ」
「は、はい?」
直立不動の姿勢になった橋本から、花束を取り上げた。
「俺が、好きでも何でもない奴にいちいち付き合うと思うか?」
つまりは、それが答えである。
取り上げた花束を抱えて歩き出すと、少し経ってから背中に衝撃。
振り向いてみれば、俺の背中に飛びついたらしい橋本の姿が見えた。
「藤田先輩! 大好き! パフェ食べに行こう!」
「その前に花瓶だ、バカ」
ため息をつけば、橋本がいつも通り嬉しそうに笑う。
つられて顔が緩んだのは、内緒だ。




