03 ご褒美に期待
――藤田健一と橋本未来の場合③――
ああいう馬鹿は、見ていて飽きない。
「ほらほらっ、見てよ藤田先輩! じゃーんっ」
きらきら、無駄に楽しそうな顔でそんなことを言ったそいつは、誇らしげにそれを掲げた。
ギターケース? いや、それにしては小さすぎるような。
「ウクレレ!」
「ギターじゃねーのかよ!」
つい先日、ギターを買うためにお小遣いを貯めているんだなどと騒いでいたそいつは、何故かギターからウクレレにシフトチェンジしたようだ。
いや、まあこいつだからそこまで不思議でもない思考の流れかもしれない……俺には理解できないが。
「お父さんが持ってたんだぁー、ギター買うまでこれで練習するの!」
「ウクレレってギターの練習になるのか?」
大きさとか弦の押さえ方とか違いそうなのに。
「これを続けることによって! 私はギターに対する情熱を絶やすことなくお小遣いを貯めるのです!」
「へえ、そうかい」
「藤田先輩、約束覚えてるよね! 私がギター買えたら譜面台だからね!」
「そんなことより橋本」
誇らしげにウクレレを提げている橋本には非常に申し上げにくいのだが。
「テスト勉強はちゃんとやってるのか」
瞬間。
一瞬よりも速いスピードで、それこそ刹那的な速さで、橋本から血の気が引いた。
「え、て、てすとって……だ、だって夏休み前だよね?」
「は? 中間試験は来週からだろ」
「中間……試験……!?」
「お前何で二年生なのにそんな新鮮なリアクションしてんの?」
さーっと青ざめた顔のまま、橋本は肩を震わせながら俺を見た。
「ふ、ふふふふふふ」
「おいどうした、故障か?」
「ふっふふ藤田先輩!」
「ふっふふ藤田先輩!?」
「わわわわたくしめに施しを! 助けてくれたら何でもするからぁー!」
「何でも、ねぇ」
こいつが「何でもする」などとほざいて本当に何でもしてくれたことがあっただろうか。
……いや、なかったな。うん。
「あえて言わせてもらおう」
「はっ、はひっ」
「俺はお前に何もしない」
「ええっ」
「だからお前も俺に何もするな」
「えええっ!」
「その代わり」
見下ろせば、涙目になって俺を見上げている橋本の顔。
ついため息が出た。ショック受けたような顔された。
「お前が俺に頼ることなく好成績を収められた暁には」
「あ、暁にはっ?」
「パフェをおごろう」
案の定、パフェにつられたらしい橋本は俄然やる気を出し、さっきまでの涙目が嘘のような笑顔に。
「約束だからね! 絶対だからね!」
「成績悪かったらおごらないんだからな」
「わかってる! がんばる!」
俺もずいぶん、こいつの扱い方を心得てきた気がする。




