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セイレン党組曲  作者: くつぎ
Case 10~自堕落な彼と多趣味な彼女~
52/70

02 笑顔が見たい

 ――藤田健一と橋本未来の場合②――


 ただ、あなたの笑顔が見たいだけ。


「藤田先輩! 一緒に帰ろう!」

「何でだ」

「方向同じなんだからいいじゃーん!」


 学校帰り、ご近所に住んでいる藤田先輩に声をかけるのが、日課だ。

 藤田先輩は人間関係を面倒くさがる人だから、私が声をかけなかったら、一日中誰とも話さない生活になってしまう。と思う。


「ねえねえ藤田先輩! 私、最近興味を持ち始めたことがあってね!」

「毎日言ってんな、それ」

「何だと思う!?」

「知るか」

「惜しい! 実はギターなんだよ!」

「どこが惜しいの? 何をもって惜しいと表現するのお前」


 なんだかんだ、藤田先輩は私の話に的確にツッコんでくれる。

 誰がお前なんか相手にするか、みたいな態度をしておいて、ちゃんと話も聞いてくれるし、相手もしてくれる。

 いつも気だるそうな顔をしているからみんな勘違いしがちだけど、藤田先輩って本当は優しいんだよ。


「アコギを買いたくて、今お小遣いためてるんだ!」

「その小遣いがたまる頃には興味が別のところに移っていると俺は予想する。何なら賭けてもいい」

「言ったな、藤田先輩! じゃあ私がちゃんとアコギを買えたら、先輩お詫びに私に譜面台を買ってね!」

「譜面台なんだ」

「もし先輩の言うとおり他のところに興味が移ってたら、先輩ちゃんと私にツッコミを入れてね!」

「何で俺が損するだけになってんの!? しかもなんでツッコミ!?」


 ほらほら、藤田先輩はちゃんと私の話を聞いてくれて、ちゃんとツッコミを入れてくれる。

 だから私は藤田先輩と話すのが楽しくて、大好きなんだ。


「じゃあ私がアコギ買えなかったら、先輩にジュースおごるよ……」

「せめて譜面台と等価にしろ!」

「譜面台と等価って、じゃあ先輩は何が欲しいの?」


 そう聞いたら、藤田先輩はうっと言葉に詰まって、私から目を逸らして、深いため息をついた。


 知ってる。

 先輩って、あんまり欲がないんだ。

 だから、欲しいものって聞かれてもすぐには思いつかないんだ。


「……思いついたら言う」

「わかった!」

「何にすっかなぁー」

「早く思いついてね!」


 藤田先輩は、何を欲しがるんだろう。

 私にとってそれは長年のミステリーで、ぜひ解決したい謎なのだもの。


「じゃあ、今日はとりあえず楽器屋に行こう!」

「行くのかよ」

「いろいろ見て回って、何を買うか決めておくんだよ!」

「へいへい、そうかよ」


 ため息をつく藤田先輩の横顔を見る。

 先輩はもしかしたら、自分でも気づいていないのかもしれないけれど。


「ったく、しょうがねーなぁ」


 そう言って私のわがままを聞く藤田先輩はいつも、すごく優しい顔で笑うんだよ。



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