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セイレン党組曲  作者: くつぎ
Case 09~感情が薄い彼と表情豊かな彼女~
50/70

05 くるくる回る

 ――小川樹と三浦綾乃の場合⑤――


 君が面白いから、仕方ないと思う。


 ある放課後のことだ。

 長引く梅雨はまだ終わらず、今日も外は土砂降りである。

 そんな折、肩を落として玄関にたたずむ後姿が目についた。


「三浦さん?」

「わっ! お、小川先輩」


 声をかければ、あわてたように振り返る。

 やはり間違いなく三浦さんだ。


「どうかしたの?」

「じ、実はそのぉ……大変、申し上げにくいことなのですが……」


 言いにくそうにごにょごにょしつつ、三浦さんは顔を伏せる。

 首を傾げていたら、うつむいたままの三浦さんがちらりとこちらを見た。


「傘を」

「傘? 忘れたの?」


 まさかこの梅雨の最中に?

 そんなことを思いながら玄関の外に視線を送る。


「いえ、忘れたんではなく……盗まれた、みたいで……」


 つぶやくような声に視線を戻せば、三浦さんは下駄箱の方へ視線を彷徨わせた。

 そして、深いため息。魂ごと出ていきそうなほどのため息。


「……それは、なんか……ドンマイ」


 掛ける言葉が見つからず、とりあえず肩をぽんぽんとしてみた。


「そろそろお祓いとか行ってきた方がいいんじゃない?」

「何だかそんな気がしてきました」

「梅雨が明けたらご両親にお願いしてみるといいよ」


 そんな話をしつつ、

 雨は相変らず強い。これでは、傘を差していても濡れそうだ。


「どうしたものか」

「どうしたものでしょうかねぇ」


 そんな間抜けなことを言い合って、二人そろって空を見る。

 かといって、雨が緩んでくるわけでもなく。


「三浦さんって、何通学?」

「何……ああ、電車です」

「駅までか。なら目的地は一緒だ」

「え、小川先輩も電車通学ですか?」

「まあね」


 しかし駅で鉢合わせたことがないので、三浦さんとは逆方向なんだろう、と予想。


「じゃあ、行こうか」

「え、行くって?」

「目的地が一緒なら、一緒に行けばいい」


 傘を開いて、半分を三浦さんに差し掛ける。

 三浦さんはぽかんとした顔で傘を見ていたけれど、やがて爆発するくらいの勢いで顔を真っ赤にした。


「せ、せせせせんぱい、それはそのっ、相合傘と、呼ぶのでは」

「ああ、そうだね。それがどうかした?」

「ど、どうっ……!?」


 真っ赤になってわたわたしている三浦さんが面白くて、思わず笑ってしまった。

 やっぱり、三浦さんの反応は見ていて飽きない。


 楽しいって、こういう感情なのかな。


 笑いながら三浦さんの顔を見た。

 しばらく膨れていた三浦さんは、やがてつられたように顔を緩ませて、とうとう笑った。

 そうそう、こうしてくるくると入れ替わっていく彼女の表情が、とても面白いんだ。


「小川先輩はやっぱり意地悪です」

「そうかもね」


 でもたぶん、それは君に対してだけだよ。



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