05 くるくる回る
――小川樹と三浦綾乃の場合⑤――
君が面白いから、仕方ないと思う。
ある放課後のことだ。
長引く梅雨はまだ終わらず、今日も外は土砂降りである。
そんな折、肩を落として玄関にたたずむ後姿が目についた。
「三浦さん?」
「わっ! お、小川先輩」
声をかければ、あわてたように振り返る。
やはり間違いなく三浦さんだ。
「どうかしたの?」
「じ、実はそのぉ……大変、申し上げにくいことなのですが……」
言いにくそうにごにょごにょしつつ、三浦さんは顔を伏せる。
首を傾げていたら、うつむいたままの三浦さんがちらりとこちらを見た。
「傘を」
「傘? 忘れたの?」
まさかこの梅雨の最中に?
そんなことを思いながら玄関の外に視線を送る。
「いえ、忘れたんではなく……盗まれた、みたいで……」
つぶやくような声に視線を戻せば、三浦さんは下駄箱の方へ視線を彷徨わせた。
そして、深いため息。魂ごと出ていきそうなほどのため息。
「……それは、なんか……ドンマイ」
掛ける言葉が見つからず、とりあえず肩をぽんぽんとしてみた。
「そろそろお祓いとか行ってきた方がいいんじゃない?」
「何だかそんな気がしてきました」
「梅雨が明けたらご両親にお願いしてみるといいよ」
そんな話をしつつ、
雨は相変らず強い。これでは、傘を差していても濡れそうだ。
「どうしたものか」
「どうしたものでしょうかねぇ」
そんな間抜けなことを言い合って、二人そろって空を見る。
かといって、雨が緩んでくるわけでもなく。
「三浦さんって、何通学?」
「何……ああ、電車です」
「駅までか。なら目的地は一緒だ」
「え、小川先輩も電車通学ですか?」
「まあね」
しかし駅で鉢合わせたことがないので、三浦さんとは逆方向なんだろう、と予想。
「じゃあ、行こうか」
「え、行くって?」
「目的地が一緒なら、一緒に行けばいい」
傘を開いて、半分を三浦さんに差し掛ける。
三浦さんはぽかんとした顔で傘を見ていたけれど、やがて爆発するくらいの勢いで顔を真っ赤にした。
「せ、せせせせんぱい、それはそのっ、相合傘と、呼ぶのでは」
「ああ、そうだね。それがどうかした?」
「ど、どうっ……!?」
真っ赤になってわたわたしている三浦さんが面白くて、思わず笑ってしまった。
やっぱり、三浦さんの反応は見ていて飽きない。
楽しいって、こういう感情なのかな。
笑いながら三浦さんの顔を見た。
しばらく膨れていた三浦さんは、やがてつられたように顔を緩ませて、とうとう笑った。
そうそう、こうしてくるくると入れ替わっていく彼女の表情が、とても面白いんだ。
「小川先輩はやっぱり意地悪です」
「そうかもね」
でもたぶん、それは君に対してだけだよ。




