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セイレン党組曲  作者: くつぎ
Case 01~不器用な彼と鈍感な彼女~
5/70

05 遠ざかる背中

 ――坂本大翔と清水由紀の場合⑤――


 どうしてこうも、うまく行かないんだろう。


「清水ってさ」


 放課後、ホームルームが終わった直後に声をかければ、清水はきょとんとした顔で俺を見た。


「部活、いつも何時くらいに終わんの」

「ん、結構まちまちだけど、大体六時前くらいには帰るかなぁ」

「ふーん」


 黒板の上にかかる時計を見る。

 ホームルームが終わったのは、四時。

 二時間ほどか。


「どうかしたの?」

「いや、別に。何でもねーよ」

「ふうん?」


 怪訝そうな顔をしつつ、清水は鞄に教科書類を詰める。

 それから立ち上がって、ちらり、俺の方を向いた。


「じゃあ、また明日ね、坂本くん」

「おお、またな」


 部活に向かう清水の背中を見送ってから、小さくため息をついた。


「二時間、かぁ……」


 帰宅部の俺にとっての二時間は長い。

 どうしたものか、腕を組んでしばらく逡巡した。


 季節は梅雨。

 そんな中で、今日はひどく天気がいい。

 いっそ暑いほどだ。


「よし!」


 鞄を引っ掴んで、教室を出た。


 作戦はこうだ。

 清水の部活が終わるまでの二時間、ゲーセンかどこかで時間を潰そう。

 そして学校に戻り、偶然を装って部活が終わった清水と鉢合わせる。

 何をしているのかと聞かれたら、忘れ物に気付いて取りに戻っていたとでも言えばいいだろう。


「完璧だ……!」


 廊下でガッツポーズをしたら、すれ違った生徒に変な顔をされた。


 ……さて、それが約二時間前。

 ゲーセンで時間を潰して学校へ戻って来た現在。


「…………まだか」


 時計を見れば六時二十分。

 下駄箱をちらりと確認すれば、まだ清水は校内にいるらしい。

 ストーカーとか言うな。


 途中のコンビニで買ってきたスポーツドリンクを飲みつつ、玄関先で待機。

 校門の向こう側を、部活帰りの運動部連中が歩いていくのが見えた。


「坂本くん?」

「ぶっ、ごほごほっ」


 唐突にかかった声に、思わずむせ込んだ。

 振り向いてみれば、驚いたような顔で俺を見る清水がいた。


「どうしたの、こんな時間に学校にいるなんて珍しい」

「忘れもんがあってさ、げほっ、さっき取ってきて、ちょっと休憩を……ごほっ」

「あああ、なんかごめんね、驚かせるつもりはなかったんだけど」


 そう言いながら、清水が俺の背中をさすった。

 頭の中で、『嫁』という単語がピカピカした気がする。


「あー、悪い、落ち着いた」

「そう? よかった」


 ほっとしたように笑ってから、清水は俺から離れ、腕時計に視線を落とした。


「っと、ヤバい急がないと! じゃあね、坂本くん! また明日!」

「えっ」


 清水はあわただしく手を振って、パタパタと走り去っていく。

 その後ろ姿を見送りながら、俺は力なくしゃがみこんだのだった。


「……こんな時に限って、用事かよ……!」


 なかなかどうして、人生はうまく行かない。



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