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セイレン党組曲  作者: くつぎ
Case 09~感情が薄い彼と表情豊かな彼女~
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04 毒を吐く理由

 ――小川樹と三浦綾乃の場合④――


 この人はきっと、いろいろと欠けているんだ。


「あれ、三浦さんだ」

「! 小川先輩」


 ある日の放課後、図書室へ向かう途中の出来事。

 後ろから声をかけてきた小川先輩は、私に向かってひらひらと手を振った。


「こんにち、うわっ」

「あ」


 振り向いた拍子に何故か足がもつれて、転んだ。

 何故だ。


「大丈夫?」

「だ、大丈夫です……鼻が痛い……」


 血が出ていないかなど確認しつつ起き上がると、小川先輩が腰をかがめて手を差し出した。

 きょとんとしていたら、小川先輩はいつも通りにこにこと笑ったまま。


「ほら、手」

「え、あっ、はい、ありがとうございます」


 差し出された手を取って、立ち上がる。

 制服に着いたほこりを払っていたら、上からくすくすと笑い声が聞こえてきた。


「三浦さんってドジだよね」

「す、ストレートに言わないでください……!」


 さすがに傷つきます。

 小さくため息をついたら、小川先輩は相変らず笑ったままで、私の頭をポンポンと撫でた。


「これから部活?」

「あ、はい」

「部活は何?」

「文芸部です」

「ああ、やっぱり運動部は無理だよねぇ」

「うっ」


 小川先輩は笑顔で毒を吐くのでとても心に刺さります。

 痛いです。


 でも、先輩のにこにこ笑った顔を見ると、何故かホッコリしてしまう私がいる。


「先輩はどうしていつもそんな笑顔で毒を吐くんですか」

「へ」


 少しだけムッとした顔をして言い返したら、先輩がきょとんとした顔をした。

 それから考え込むように顎に手を当てて、小さく首を傾げた。


「どうしたんですか?」

「……おかしいなぁ」

「何がです?」

「いや、俺は毒なんて吐かないよ」

「何を今さら!」


 少なくとも、私に対してはいつも毒舌だったように思う。

 いや、まあ、初対面の頃はそうでもなかったけれど。


「ま、いいか」

「いいんですか」

「じゃあね、三浦さん。階段から落っこちないように気を付けるんだよ」

「そういうとこ! そういうとこです先輩!」

「あれ」


 指摘してみせたら、先輩はまたきょとんとした顔をしてしまう。

 無意識なんでしょうか。だとしたらなおのこと性質が悪い。


「……参ったなぁ」

「何がですか」


 むくれる私に、小川先輩は困ったように笑いながら言った。


「意地悪したいわけじゃないはずなんだよ」

「は、はずって何ですか」

「自分でもよくわからないんだけど」


 困ったような苦笑を浮かべたまま、小川先輩は首を傾げる。

 そして。


「三浦さんと話してると、なんか調子が狂うんだ」


 その言葉、私はどういう気持ちで受け止めればいいんでしょうか?



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