04 毒を吐く理由
――小川樹と三浦綾乃の場合④――
この人はきっと、いろいろと欠けているんだ。
「あれ、三浦さんだ」
「! 小川先輩」
ある日の放課後、図書室へ向かう途中の出来事。
後ろから声をかけてきた小川先輩は、私に向かってひらひらと手を振った。
「こんにち、うわっ」
「あ」
振り向いた拍子に何故か足がもつれて、転んだ。
何故だ。
「大丈夫?」
「だ、大丈夫です……鼻が痛い……」
血が出ていないかなど確認しつつ起き上がると、小川先輩が腰をかがめて手を差し出した。
きょとんとしていたら、小川先輩はいつも通りにこにこと笑ったまま。
「ほら、手」
「え、あっ、はい、ありがとうございます」
差し出された手を取って、立ち上がる。
制服に着いたほこりを払っていたら、上からくすくすと笑い声が聞こえてきた。
「三浦さんってドジだよね」
「す、ストレートに言わないでください……!」
さすがに傷つきます。
小さくため息をついたら、小川先輩は相変らず笑ったままで、私の頭をポンポンと撫でた。
「これから部活?」
「あ、はい」
「部活は何?」
「文芸部です」
「ああ、やっぱり運動部は無理だよねぇ」
「うっ」
小川先輩は笑顔で毒を吐くのでとても心に刺さります。
痛いです。
でも、先輩のにこにこ笑った顔を見ると、何故かホッコリしてしまう私がいる。
「先輩はどうしていつもそんな笑顔で毒を吐くんですか」
「へ」
少しだけムッとした顔をして言い返したら、先輩がきょとんとした顔をした。
それから考え込むように顎に手を当てて、小さく首を傾げた。
「どうしたんですか?」
「……おかしいなぁ」
「何がです?」
「いや、俺は毒なんて吐かないよ」
「何を今さら!」
少なくとも、私に対してはいつも毒舌だったように思う。
いや、まあ、初対面の頃はそうでもなかったけれど。
「ま、いいか」
「いいんですか」
「じゃあね、三浦さん。階段から落っこちないように気を付けるんだよ」
「そういうとこ! そういうとこです先輩!」
「あれ」
指摘してみせたら、先輩はまたきょとんとした顔をしてしまう。
無意識なんでしょうか。だとしたらなおのこと性質が悪い。
「……参ったなぁ」
「何がですか」
むくれる私に、小川先輩は困ったように笑いながら言った。
「意地悪したいわけじゃないはずなんだよ」
「は、はずって何ですか」
「自分でもよくわからないんだけど」
困ったような苦笑を浮かべたまま、小川先輩は首を傾げる。
そして。
「三浦さんと話してると、なんか調子が狂うんだ」
その言葉、私はどういう気持ちで受け止めればいいんでしょうか?




