03 転ばないでね
――小川樹と三浦綾乃の場合③――
彼女が視界に入ることが、嬉しいと思える。
「やあ、三浦さん」
「! 小川先輩! こんにちは!」
現在、登校中。
自分の少し前を歩く後姿に声をかけてみれば、やはりそれは三浦さんだった。
最近になって、それこそ俺が三浦さんの財布を見つけて届けて以来、三浦さんとのエンカウント率が高くなった。
たぶん、それまでも普通に顔は合わせていたんだろうけど、彼女の顔と名前を覚えたおかげで認識がしやすくなったんだろう。
「今日はまだ怪我とかしてない?」
「い、今のところ大丈夫です!」
「まあ、この段階で傷だらけだったら大変なことだよね」
「むっ……確かに……」
顔を膨らませてから、三浦さんは小さくため息をつく。
さて、桜の季節はすっかり終わり、気候は初夏。
学校行事という面で考えれば、そろそろ中間試験の頃だ。
「三浦さん、テスト勉強は順調?」
「そりゃもちろん! 私、成績だけはいいんですよ!」
「運は悪いけどね」
「そっ、それは自分ではどうしようもないので……!」
「開運のお守りとか買ってみる?」
「ま、まだ大丈夫です、まだっ」
意地になって拳を握る三浦さん。思わず笑ったら、さらにムッとされてしまった。
「先輩はいつも楽しそうでうらやましいです」
おそらく、嫌味を込めた一言。
ものすごく遠慮がちな嫌味に、今度こそ声を出して笑った。
「何で笑うんですかっ」
「いや、だって三浦さん、面白いもん」
「おもっ!? おおお、面白がらないでくださいっ!」
今度は顔を真っ赤にする。
表情が、くるくると変わる。
感情表現が豊かすぎて、感情の起伏が激しすぎて。
ねえ、三浦さん。
疲れない?
「小川先輩は意地悪です」
「そんなことないよ? 俺はいつでも優しいよ?」
「本当に優しい人はそんな優しいアピールしないと思います!」
びしっと挙手をしながら、真面目な顔をする三浦さん。
それすら、ただただ可愛い。
……ん、可愛い?
「? どうかしましたか?」
「いや? なんでもないよ」
いつも通り、三浦さんに向かって笑ってから、正面を向く。
はて、俺は一瞬何を思った?
「小川先輩っていつも笑ってますけど、真面目な顔とかしないんですか?」
「俺はいつでも真面目だよ?」
なんちゃって。
生まれてこの方、真面目だったことなんてあったかな。
「その言い方がもう真面目っぽくないですよ」
「あーあ、ばれた」
そんな話をしながら、校門まであと少し。
「今日は最後まで転ばずに行けそうだね」
「い、いつも転んでるみたいに言わないでください……!」
ムッと拗ねて見せる三浦さんの顔。
それがまた可愛く見えたなんて、きっと気の迷いだ。




