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セイレン党組曲  作者: くつぎ
Case 09~感情が薄い彼と表情豊かな彼女~
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03 転ばないでね

 ――小川樹と三浦綾乃の場合③――


 彼女が視界に入ることが、嬉しいと思える。


「やあ、三浦さん」

「! 小川先輩! こんにちは!」


 現在、登校中。

 自分の少し前を歩く後姿に声をかけてみれば、やはりそれは三浦さんだった。


 最近になって、それこそ俺が三浦さんの財布を見つけて届けて以来、三浦さんとのエンカウント率が高くなった。

 たぶん、それまでも普通に顔は合わせていたんだろうけど、彼女の顔と名前を覚えたおかげで認識がしやすくなったんだろう。


「今日はまだ怪我とかしてない?」

「い、今のところ大丈夫です!」

「まあ、この段階で傷だらけだったら大変なことだよね」

「むっ……確かに……」


 顔を膨らませてから、三浦さんは小さくため息をつく。


 さて、桜の季節はすっかり終わり、気候は初夏。

 学校行事という面で考えれば、そろそろ中間試験の頃だ。


「三浦さん、テスト勉強は順調?」

「そりゃもちろん! 私、成績だけはいいんですよ!」

「運は悪いけどね」

「そっ、それは自分ではどうしようもないので……!」

「開運のお守りとか買ってみる?」

「ま、まだ大丈夫です、まだっ」


 意地になって拳を握る三浦さん。思わず笑ったら、さらにムッとされてしまった。


「先輩はいつも楽しそうでうらやましいです」


 おそらく、嫌味を込めた一言。

 ものすごく遠慮がちな嫌味に、今度こそ声を出して笑った。


「何で笑うんですかっ」

「いや、だって三浦さん、面白いもん」

「おもっ!? おおお、面白がらないでくださいっ!」


 今度は顔を真っ赤にする。

 表情が、くるくると変わる。

 感情表現が豊かすぎて、感情の起伏が激しすぎて。


 ねえ、三浦さん。

 疲れない?


「小川先輩は意地悪です」

「そんなことないよ? 俺はいつでも優しいよ?」

「本当に優しい人はそんな優しいアピールしないと思います!」


 びしっと挙手をしながら、真面目な顔をする三浦さん。

 それすら、ただただ可愛い。


 ……ん、可愛い?


「? どうかしましたか?」

「いや? なんでもないよ」


 いつも通り、三浦さんに向かって笑ってから、正面を向く。

 はて、俺は一瞬何を思った?


「小川先輩っていつも笑ってますけど、真面目な顔とかしないんですか?」

「俺はいつでも真面目だよ?」


 なんちゃって。

 生まれてこの方、真面目だったことなんてあったかな。


「その言い方がもう真面目っぽくないですよ」

「あーあ、ばれた」


 そんな話をしながら、校門まであと少し。


「今日は最後まで転ばずに行けそうだね」

「い、いつも転んでるみたいに言わないでください……!」


 ムッと拗ねて見せる三浦さんの顔。

 それがまた可愛く見えたなんて、きっと気の迷いだ。



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