02 上昇する運勢
――小川樹と三浦綾乃の場合②――
今になって思えば、それが縁だったのでしょう。
先日の昼休み、私はちょっとした事故に遭った。
木の枝に引っかかったタオルを子猫だと勘違いし、助けようとした結果、木から落ちるというコメディ色にあふれた展開を繰り広げてしまったのだ。
そしてその結果、ちょうど下にいた人を下敷きにしてしまうという、ベタ中のベタのような事態になってしまった。
「やあ、三浦さん」
そして今、私の目の前には、先日下敷きにしてしまった先輩がいるわけだが。
「こっ、こんにちは、小川先輩! その後、お加減はいかがですか?」
恐る恐る聞くと、小川先輩はにっこりと笑顔のままで、グルグルと腕を回す。
「残念ながら万全だよ。どこにも支障はないな」
「そ、そうですか!」
残念ながら、という言い方が気にならなくはないが、無事ならよかった。
ほっと息をつけば、小川先輩は笑顔のまま、私に向かって言った。
「怪我がないと、声かけちゃいけなかった?」
「いっ!? いえいえいえいえ、そんなことはないですよ、すみません」
あわあわと両手を振れば、小川先輩はくすくすと笑う。
楽しそうに、くすくすと。
「ちなみに、今は何をしているの?」
「へっ」
ああ、言い忘れていました。
現在地、中庭。時間は昼休み。
私は不注意で落としてしまった財布を探して、中庭をさまよっているところでした。
「じ、実はお財布を落としまして」
「財布?」
「えっと、折り畳みの、黄緑色の財布で……」
「もしかして、これ?」
そう言いながら先輩がポケットから出したのは、まさしく私の財布。
「拾ったんで、職員室に届けるところだったんだけど」
「そっ、それ! それですぅ!」
「そっか。じゃあ、はい」
にっこりと笑顔のまま、先輩は私に財布を差し出した。
それを受け取って、中身を確認。
お金は減ってないし、大事なものもそのまま。よかった、被害は何もない。
「あ、ありがとうございます!」
「いえいえ。それにしても、君は運がないね」
「え。……あはは、確かにそうかもしれません」
木から落ちるわ、財布は落とすわ。
このまま行くと、私はそのうち車にぶつかられるのではないでしょうか。
「気を付けて生きるんだよ」
ぽんぽん。
先輩は笑顔でそう言いながら、私の頭を撫でた。
あれ、何だろう。
顔が熱い。
「は、はい、ありがとうございます……!」
うつむきながら頭を下げれば、先輩はまたくすくすと笑う。
「じゃあね、三浦さん」
「はっ、はいっ」
ひらひらと手を振って去っていく先輩の後姿を、ちらり、横目で見てみた。
「……どうしよう」
さっきから、胸のドキドキがおさまらない。




