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セイレン党組曲  作者: くつぎ
Case 09~感情が薄い彼と表情豊かな彼女~
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01 頭上から天使

 ――小川(おがわ)(いつき)三浦(みうら)綾乃(あやの)の場合①――


 不思議な子と出会った。


 それはある昼休みのこと。

 中庭、いつものベンチに座って、購買のパンを食べる、いつもの行動。


「……今日、紅ショウガ多いな」


 いつもより少しだけ辛い焼きそばパンを食べながら、上を見る。

 相も変わらず空は青くて、春と言えば俺の出番だと言わんばかりに桜が咲く。


 花見、なんて風習がある。

 桜を見て、綺麗だねぇなんて言い合う、よくわからない会合。

 毎年咲く花が、いつも通り咲いただけ。

 何をそんなに騒ぐことがあるんだろう。


「ご馳走様」


 食べ終わったパンの袋を、近くのゴミ箱に投げ入れる。


 あ、のどが渇いた。

 ジュースでも買いに行こう。


 欠伸を一つしてから、立ち上がって自販機のほうへ。

 歩いていく途中、ガサガサ、木の上の方から音がした。


「え」

 

 俺が顔を上げたのと、木の上から人が落ちてきたのが、同時。

 当然避けられるはずもなく、俺はその人に押し倒されるような形で倒れこんだ。


「っ、たたた……ああっ、だ、大丈夫ですか! ごめんなさい!」

「っあー……頭は打ってない、かな……」


 俺の上に落ちてきたその人、その女子は、すぐに俺の上から退くと、オロオロとした様子で俺の顔を覗き込んだ。


「ご、ごめんなさい、私、そのっ……こ、子猫が、その、あのっ」 


 聞いているこっちが申し訳なくなるほど焦った様子のその子。

 とりあえず、その子の肩をぽんぽんと叩いてみた。


「大丈夫、大丈夫だから落ち着いて。深呼吸」

「はっ、……は、はいっ」


 言われた通りに深呼吸を繰り返してから、その子はふうっと息をついた。


「その、ごめんなさい。お怪我はありませんか?」

「大丈夫だと思う。痛いところはないよ」


 笑って見せれば、その子はほっとしたように表情を緩めた。


「子猫がどうしたって?」

「あっ、はい! あの、子猫が木の上で、降りられなくなってるみたいで……って、あれ?」


 その子が指差した先、木の枝に引っかかっているのは、どうやら猫ではなく。


「タオルかなんかじゃない?」

「……」

「……?」

「……み、見間違えてた、みたい……です」


 その子は両手で顔を覆うと、恥ずかしそうにうつむいた。

 それから大きく息をついて、もう一度、顔を上げた。


「でも、降りられなくなっている子猫がいないのなら、それはそれでよかったです」


 今度は、ほっとしたように笑う。


 表情が、くるくると変わっていく。

 この短時間で、俺はこの子の表情を、いくつ見ただろう。


「っと、じゃあ俺はそろそろ行くよ。じゃあね」

「あっ、待ってください」

「?」

「あの、私、一年一組の三浦と申します! あのっ、もし実はお怪我があったとかそういうことがあれば、すぐに言ってください! 精一杯のお詫びはさせていただきますので!」


 その子は早口でそう言うと、立ち上がってスカートについた土を払う。


「あの、お名前を伺ってもいいですか?」

「……ああ、二年二組の小川だよ」

「小川先輩! 今日は本当にすみませんでした。本当に、何かあったら言ってくださいね!」

「わかった。じゃあね」


 手を振って、背中を向ける。


 笑った顔、泣きそうな顔、ほっとした顔。

 あの短時間で、よくあそこまでくるくると表情を変えられるものだな。


「面白い子」


 三浦さん。だっけ?

 一応、覚えておこう。



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