05 君とジャノメ
――村上海斗と田中朋絵の場合⑤――
何だろう、心がすごくあたたかい。
ある休日のこと。
梅雨の終わりも近いと聞くけれど、雨はまだまだ降りやまない。
ふと、手元の携帯電話が小さく音を立てた。
画面を見れば、メッセージ受信の通知画面。
そこに映る猫のアイコンに、顔が緩むのが分かった。
「村上くんだ」
タップして画面を開く。
『おはよう!
雨すごいね!』
ものすごく雑談。
窓の外を見てみると、確かに外は土砂降り。
『本当だねぇ』
困った顔の絵文字を付けて、メッセージを送る。
少しだけ間を置いて、ぴこん、と村上くんからのメッセージが表示された。
『この天気なのに部活ある』
そのメッセージのあとに、悲しそうな顔の猫のスタンプがぺたり。
あまりの可愛さに、思わず声に出して笑ってしまった。
『気を付けてね!』
ガッツポーズの顔文字を付けて送ったら、今度は嬉しそうな猫が届いた。
やっぱり可愛い。また、にへらと顔が緩むのが分かった。
村上くんとこうしてやり取りをするようになって、気付いたことが一つある。
何かって言うと、こっちのほうが会話がスムーズってこと。
『大変だ、傘がない』
ぴこん、と出てきたメッセージ。
ぎょっとして返事を考えている間にもう一つ。
『父さんに間違って持って行かれたようだ』
傘立てを前にうなだれているだろう村上くんを想像して、つい笑ってしまった。
『ごめん、笑った』
『なんだと』
『いやもう、ごめん』
くすくすと笑いをこらえながらメッセージを送ると、少し経って写真が送られてきた。
ジャノメみたいなデザインの、骨の多そうな傘を開いた写真。
『母さんに押し付けられたコイツを使うことに』
赤と黒のジャノメ傘は、時代劇に出てくる和傘みたいでなんだか素敵だ。
『やだオシャレ』
『男子高校生がコレ使うってどうなの』
『村上くんなら使いこなせる!』
それが既読になってから、しばらくの間が空く。
学校へ向かって歩いているところなんだろう。一度画面から目を離して、窓から空を眺めてみた。
「……あれ」
よく見てみれば、さっきより雨が緩んできたような気がする。
心なしか、空も明るく見えるような。
『少しやんできた』
画面に目を戻せば、新しいメッセージが届いていた。
『このまま晴れるといいね』
『確かに!
でも、傘を忘れる危険性が』
『あー』
それからまたしばらくの間が空いて、またメッセージが届く。
『学校着いた!
行ってきます!』
『行ってらっしゃい!』
緩んだ顔で返事を送ってから、窓の外を見た。
雨はまだしばらくやみそうにないけれど、心はやけに晴れやかだ。




