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セイレン党組曲  作者: くつぎ
Case 08~あがり症な彼と口下手な彼女~
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05 君とジャノメ

 ――村上海斗と田中朋絵の場合⑤――


 何だろう、心がすごくあたたかい。


 ある休日のこと。

 梅雨の終わりも近いと聞くけれど、雨はまだまだ降りやまない。


 ふと、手元の携帯電話が小さく音を立てた。

 画面を見れば、メッセージ受信の通知画面。

 そこに映る猫のアイコンに、顔が緩むのが分かった。


「村上くんだ」


 タップして画面を開く。


『おはよう!

 雨すごいね!』


 ものすごく雑談。

 窓の外を見てみると、確かに外は土砂降り。


『本当だねぇ』


 困った顔の絵文字を付けて、メッセージを送る。

 少しだけ間を置いて、ぴこん、と村上くんからのメッセージが表示された。


『この天気なのに部活ある』


 そのメッセージのあとに、悲しそうな顔の猫のスタンプがぺたり。

 あまりの可愛さに、思わず声に出して笑ってしまった。


『気を付けてね!』


 ガッツポーズの顔文字を付けて送ったら、今度は嬉しそうな猫が届いた。

 やっぱり可愛い。また、にへらと顔が緩むのが分かった。


 村上くんとこうしてやり取りをするようになって、気付いたことが一つある。

 何かって言うと、こっちのほうが会話がスムーズってこと。


『大変だ、傘がない』


 ぴこん、と出てきたメッセージ。

 ぎょっとして返事を考えている間にもう一つ。


『父さんに間違って持って行かれたようだ』


 傘立てを前にうなだれているだろう村上くんを想像して、つい笑ってしまった。


『ごめん、笑った』

『なんだと』

『いやもう、ごめん』


 くすくすと笑いをこらえながらメッセージを送ると、少し経って写真が送られてきた。

 ジャノメみたいなデザインの、骨の多そうな傘を開いた写真。


『母さんに押し付けられたコイツを使うことに』


 赤と黒のジャノメ傘は、時代劇に出てくる和傘みたいでなんだか素敵だ。


『やだオシャレ』

『男子高校生がコレ使うってどうなの』

『村上くんなら使いこなせる!』


 それが既読になってから、しばらくの間が空く。

 学校へ向かって歩いているところなんだろう。一度画面から目を離して、窓から空を眺めてみた。


「……あれ」


 よく見てみれば、さっきより雨が緩んできたような気がする。

 心なしか、空も明るく見えるような。


『少しやんできた』 


 画面に目を戻せば、新しいメッセージが届いていた。


『このまま晴れるといいね』

『確かに!

 でも、傘を忘れる危険性が』

『あー』


 それからまたしばらくの間が空いて、またメッセージが届く。


『学校着いた!

 行ってきます!』

『行ってらっしゃい!』


 緩んだ顔で返事を送ってから、窓の外を見た。

 雨はまだしばらくやみそうにないけれど、心はやけに晴れやかだ。



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