04 優しい微笑み
――村上海斗と田中朋絵の場合④――
やっぱり、俺には難しいことだ。
「村上くん!」
「あ、田中さんっ」
「委員会、久しぶりだね!」
「そ、そうだね!」
テストが終わってしばらく。
久しぶりの委員会活動、久しぶりの清掃活動である。
「やっぱりまともなゴミばさみは残ってなかったね」
噛み合わせの悪いゴミばさみをカチカチと鳴らしながら、田中さんが苦笑する。
つられて苦笑を漏らしながら、俺も同じようにゴミばさみを鳴らした。
「今日も頑張ろう!」
「うん!」
二人並んで、移動する先は中庭。
歩きながら校庭の方を見ると、部活動に勤しむ運動部員たちが見えた。
「そういえば田中さんって、部活は何をしてるの?」
「えっ? あ、えーっと、美術部だよ! 美術部!」
「あっ、そうなんだ!」
「う、うん。全然、上手ではないんだけど、」
否定するように小さく手を振ってから、笑った。
「絵を描くのは好きなの」
花が咲くような笑顔、っていうのは、こういうのなんだと思う。
今までに見た田中さんの表情の中で、今の笑顔が一番、可愛かった。
……なんて、本人には言えるはずもないんだけど。
「そ、そっか」
「うんっ……あの、村上くんは、部活は?」
「あー、俺はその、野球、部」
「野球部?」
「う、うん」
「へえ! すごいね!」
「す、すごくはないよ。好きでやってるわけじゃ、ないし」
俺は別に、野球が好きなわけじゃない。
小さいころから、父親に言われて続けてきて、今さらやめられなくなっただけ。
「好きなことが分からないから、親に言われた通りやってるだけで」
「……」
「だから、すごくはないよ」
そう言って苦笑して見せたら、田中さんは不意に真剣な顔をして、それから笑って見せた。
「それでもいいんじゃないかな」
「え」
「その、言われた通りにやってるんだとしても、今でも続けてるのは、決して嫌いじゃないからでしょう?」
「……それは」
嫌いではない、と思う。
「嫌いではないなら、今はそれでもいいんじゃないかな」
「そう、かな」
「うん。これから少しずつ周りを見て、好きだと思うこと、見つけていければいいんじゃないかな」
「これから、少しずつ」
少し考え込んでから、もう一度田中さんの顔を見た。
田中さんは、俺に向かって微笑んで、頷いて見せた。
なんだか、それだけで、頑張れる気がした。
「田中さん」
「ん、何?」
「なんて言うか……その、ありがとう」
「ううん、そんな、なんか変なこと言っちゃって、ごめんね」
「いやいや、変じゃないよ!」
ブンブンと手を振ってから、田中さんに向かって笑って見せた。
「俺、頑張るよ」
そう言ったら、田中さんも嬉しそうに笑ってくれた。
ああ、この笑顔は好きだ。
今、自信を持ってそう思えたけれど、それを口にはできない臆病な俺。




