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セイレン党組曲  作者: くつぎ
Case 08~あがり症な彼と口下手な彼女~
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04 優しい微笑み

 ――村上海斗と田中朋絵の場合④――


 やっぱり、俺には難しいことだ。


「村上くん!」

「あ、田中さんっ」

「委員会、久しぶりだね!」

「そ、そうだね!」


 テストが終わってしばらく。

 久しぶりの委員会活動、久しぶりの清掃活動である。


「やっぱりまともなゴミばさみは残ってなかったね」


 噛み合わせの悪いゴミばさみをカチカチと鳴らしながら、田中さんが苦笑する。

 つられて苦笑を漏らしながら、俺も同じようにゴミばさみを鳴らした。


「今日も頑張ろう!」

「うん!」


 二人並んで、移動する先は中庭。

 歩きながら校庭の方を見ると、部活動に勤しむ運動部員たちが見えた。


「そういえば田中さんって、部活は何をしてるの?」

「えっ? あ、えーっと、美術部だよ! 美術部!」

「あっ、そうなんだ!」

「う、うん。全然、上手ではないんだけど、」


 否定するように小さく手を振ってから、笑った。


「絵を描くのは好きなの」


 花が咲くような笑顔、っていうのは、こういうのなんだと思う。

 今までに見た田中さんの表情の中で、今の笑顔が一番、可愛かった。

 ……なんて、本人には言えるはずもないんだけど。


「そ、そっか」

「うんっ……あの、村上くんは、部活は?」

「あー、俺はその、野球、部」

「野球部?」

「う、うん」

「へえ! すごいね!」

「す、すごくはないよ。好きでやってるわけじゃ、ないし」


 俺は別に、野球が好きなわけじゃない。

 小さいころから、父親に言われて続けてきて、今さらやめられなくなっただけ。


「好きなことが分からないから、親に言われた通りやってるだけで」

「……」

「だから、すごくはないよ」


 そう言って苦笑して見せたら、田中さんは不意に真剣な顔をして、それから笑って見せた。


「それでもいいんじゃないかな」

「え」

「その、言われた通りにやってるんだとしても、今でも続けてるのは、決して嫌いじゃないからでしょう?」

「……それは」


 嫌いではない、と思う。


「嫌いではないなら、今はそれでもいいんじゃないかな」

「そう、かな」

「うん。これから少しずつ周りを見て、好きだと思うこと、見つけていければいいんじゃないかな」

「これから、少しずつ」


 少し考え込んでから、もう一度田中さんの顔を見た。

 田中さんは、俺に向かって微笑んで、頷いて見せた。


 なんだか、それだけで、頑張れる気がした。


「田中さん」

「ん、何?」

「なんて言うか……その、ありがとう」

「ううん、そんな、なんか変なこと言っちゃって、ごめんね」

「いやいや、変じゃないよ!」


 ブンブンと手を振ってから、田中さんに向かって笑って見せた。


「俺、頑張るよ」


 そう言ったら、田中さんも嬉しそうに笑ってくれた。


 ああ、この笑顔は好きだ。

 今、自信を持ってそう思えたけれど、それを口にはできない臆病な俺。


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