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セイレン党組曲  作者: くつぎ
Case 08~あがり症な彼と口下手な彼女~
43/70

03 口が回らない

 ――村上海斗と田中朋絵の場合③――


 この声はいつも、うまく言葉を紡げない。


「む、村上くんっ、おはようっ」

「あ、お、おはよう!」


 最近になってようやく。

 出会ったのは四月だというのに、衣替えの時期になってようやく、だ。

 ようやくこうして、挨拶ができるまでに至った。


 頑張ってる! 私、頑張ってるよ!


「きょ、今日は暑いね!」

「そ、そうだね! 天気もいいし、洗濯物とかすっごい乾きそうだよね……!」

「だね!」

「うん!」

「……」

「……」


 玄関から教室までの距離、短い時間だけれど、村上くんと話すのは好きだ。

 だけど口下手がたたって、いつも話したいことの半分も言えない。

 こうしていつも、途中で話題が尽きていく。


 今日こそはもっと会話をつづけよう、って。

 毎日そんなことを思いながら、それでもやっぱり、私にはハードルが高いようだ。 


「も、もうすぐ中間テストだね!」

「ああっ、そうだね!」

「村上くんって、成績とかは……あ」


 そんなことを言っている間に、いつも通り、中途半端なところで教室についてしまう。


「じゃ、じゃあまた!」

「あ、ああ、うん」


 手を振って教室に入りながら、内心でため息をつく。

 ああっ、緊張する! 楽しいんだけど、すごく緊張する。


「あの、田中さんっ」

「うわぁっ、はっ、はいっ!」


 後ろから聞こえた村上くんの声に、思わず声が上ずった。恥ずかしい。


「よかったら、……いやあの、本当、嫌だったら、いいんだけど……!」

「は、はいっ」

「その」

「う、うん」


 体ごと振り向いたら、村上くんが恥ずかしそうに頭を掻く。

 顔が真っ赤になってる。

 ……ああ、でも、私も人のことを言っていられない自信がある。


「今度、テスト勉強とか……い、一緒に」

「えっ!」

「ああいやっ、本当、嫌だったらいいんだけど! ……もしよかったら、って」


 ちらり、様子を伺うように、村上くんが私を見る。

 ばっちりと目が合ってしまった。

 恥ずかしくなって、目を逸らした。


「あ、や、やっぱり迷惑だよね……ごめん、今のはなかったことに」

「えっ、や、め、迷惑じゃないよ!」

「えっ」

「あ、あの……わ、私っ、そのっ」


 ああ、うまく口が回らない。

 伝えたいことが伝わらない。

 自分の口が、憎たらしいくらいに。


「……えっと」

「う、うん」

「だ、だいたい暇だし……いつでも、む、村上くんの都合に、合わせるし……!」


 そう言って顔を上げたら、村上くんがさらに顔を真っ赤にして、私から目を逸らした。

 それから。


「じゃ、じゃあっ……れ、連絡するから……連絡先、教えてもらってもいい……?」

「もっ、もちろん!」


 出会って二か月。

 私はそれだけかかってようやく、好きな人の連絡先をゲットした!


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