03 口が回らない
――村上海斗と田中朋絵の場合③――
この声はいつも、うまく言葉を紡げない。
「む、村上くんっ、おはようっ」
「あ、お、おはよう!」
最近になってようやく。
出会ったのは四月だというのに、衣替えの時期になってようやく、だ。
ようやくこうして、挨拶ができるまでに至った。
頑張ってる! 私、頑張ってるよ!
「きょ、今日は暑いね!」
「そ、そうだね! 天気もいいし、洗濯物とかすっごい乾きそうだよね……!」
「だね!」
「うん!」
「……」
「……」
玄関から教室までの距離、短い時間だけれど、村上くんと話すのは好きだ。
だけど口下手がたたって、いつも話したいことの半分も言えない。
こうしていつも、途中で話題が尽きていく。
今日こそはもっと会話をつづけよう、って。
毎日そんなことを思いながら、それでもやっぱり、私にはハードルが高いようだ。
「も、もうすぐ中間テストだね!」
「ああっ、そうだね!」
「村上くんって、成績とかは……あ」
そんなことを言っている間に、いつも通り、中途半端なところで教室についてしまう。
「じゃ、じゃあまた!」
「あ、ああ、うん」
手を振って教室に入りながら、内心でため息をつく。
ああっ、緊張する! 楽しいんだけど、すごく緊張する。
「あの、田中さんっ」
「うわぁっ、はっ、はいっ!」
後ろから聞こえた村上くんの声に、思わず声が上ずった。恥ずかしい。
「よかったら、……いやあの、本当、嫌だったら、いいんだけど……!」
「は、はいっ」
「その」
「う、うん」
体ごと振り向いたら、村上くんが恥ずかしそうに頭を掻く。
顔が真っ赤になってる。
……ああ、でも、私も人のことを言っていられない自信がある。
「今度、テスト勉強とか……い、一緒に」
「えっ!」
「ああいやっ、本当、嫌だったらいいんだけど! ……もしよかったら、って」
ちらり、様子を伺うように、村上くんが私を見る。
ばっちりと目が合ってしまった。
恥ずかしくなって、目を逸らした。
「あ、や、やっぱり迷惑だよね……ごめん、今のはなかったことに」
「えっ、や、め、迷惑じゃないよ!」
「えっ」
「あ、あの……わ、私っ、そのっ」
ああ、うまく口が回らない。
伝えたいことが伝わらない。
自分の口が、憎たらしいくらいに。
「……えっと」
「う、うん」
「だ、だいたい暇だし……いつでも、む、村上くんの都合に、合わせるし……!」
そう言って顔を上げたら、村上くんがさらに顔を真っ赤にして、私から目を逸らした。
それから。
「じゃ、じゃあっ……れ、連絡するから……連絡先、教えてもらってもいい……?」
「もっ、もちろん!」
出会って二か月。
私はそれだけかかってようやく、好きな人の連絡先をゲットした!




