05 急がば回れぬ
――山下友哉と伊藤明香の場合⑤――
人はそう簡単には変われないらしい。
「山下くん、私は思うんだよ」
「どうしたの、また何かあったの」
先日の頭ぽんぽんからこっち、若干気まずい空気だった私と山下くんだが。
また少しずついろいろ話すことで、ずいぶんと元に戻ってきた。
とはいえ、何だか山下くんを男の子だと意識してしまったことは変えられないらしく、愚痴を言うにも若干の羞恥心が生まれてしまったのは確かだ。
間違っても、山下くんを相手にトイレトイレと連呼するような真似はできまい。おそらく二度と。
「やっぱり怒らないのって無理じゃない?」
「おっと? 急に僕の人格を否定してきたぞ?」
「ああいや、そういうつもりではないんだけど!」
あわあわと手を振ったら、山下くんは相変わらず優しそうにくすくすと笑う。
何故だかそれだけで言葉が詰まってしまう。
「えっと、ほら、やっぱり理不尽なことってあるじゃないですか」
「急に敬語?」
「例えばですよ? 例えば私などは毎週月曜に発売のとある週刊少年誌を愛読させていただいているわけですが」
「ああ、もうその情報だけで特定できるね」
「先日の放課後、それを求めてコンビニへ向かった次第ですよ」
え? 女子高生が少年誌を読んでいることに対しての羞恥心はないのかだと?
あるわけないだろ! 少年漫画は最高だ! いいんだ、私は少年の心も持ち合わせてるから!
「するとなんということでしょう!」
「何があったの」
「残り少ない某週刊少年誌はすべて読み倒されてボロボロに……なんとかきれいなものがあったかと思いきや、それは日曜発刊の別雑誌という罠!」
「罠過ぎる」
ばんっ、怒りに任せて膝を叩いた。
痛い。
「私は仕方なく、端のよれた可哀相なやつを買って読んだよ……面白かった」
「ならよかったね」
「だがしかし! こういうのってやっぱり腹立つよ! ね!」
ずいっと山下くんに詰め寄ると、困ったような笑顔。
ポリポリと頬を掻いた後で、山下くんは思いついたようにこう言った。
「まあ、確かに読み倒された本を買うっていうのは抵抗があるし、それはわかるけど」
「だよね!」
「普通の本屋なら立ち読み禁止のところも多いし、そっちに行った方がいいんじゃないかな」
「……」
正論だ。
ぐうの音も出ない正論が返ってきてしまった。
だが、しかし。
「だって帰り道に本屋がないんだもんよ!」
「遠回りするとか」
「帰りが遅くなったら読む時間が減るだろ!」
「伊藤さん落ち着いて」
結論。
基本的に、私には山下くんのような気の長い考え方をできないことが分かった。




