04 隣り合う位置
――坂本大翔と清水由紀の場合④――
あれ、私、何か間違っただろうか。
「ま、まあ、ほら、上がれよ!」
「はーい、お邪魔します」
坂本くんに導かれるまま、本日私は坂本くんのおうちにお邪魔する流れになった。
それというのも、先日話していたテスト勉強の件が本格的に形になったというもの。
「ご家族は?」
「あー、両親も兄貴も働いてるし、5時半くらいまでは誰も帰ってこねえと思う……けど」
「じゃあ勉強し放題だね!」
「え。……あ、おう、ソウデスネ」
何故か坂本くんが微妙に片言になった。
解せぬ。
「あ、悪いちょっと待ってて」
「へ。ああ、うん」
坂本くんは私をその場にとどめると、部屋の中を覗き込んだ。
それから滑り込むように部屋に入り、それからしばらくドタバタとせわしない音。
……ああ、急に来ることになったから、今片づけてるんだなぁ……。
「よ、よし! 大丈夫! もう入って大丈夫だ!」
「ああ、はい、お邪魔します」
そろりと部屋を覗いてみた。
うん、片付いてる。片付いてるけど、学習机の引出しから雑誌らしきものがちらっとはみ出ているのが見えた。
慌てたのか。焦ったのか。とりあえずは見えていないことにしよう。
「えっと、私はどこに座ればよいので?」
「ああ、えっと、そこ、座布団あるし」
「はーい」
言われるまま着席して、すぐに鞄をあさる。
坂本くんは何やらそわそわとしつつ、私の向かいに座った。
「あ、なんか飲み物とか……インスタントでよけりゃたぶんカフェオレとかあるけど……!」
「あー、大丈夫、水筒のお茶あるし」
「あ、そ、そうですか」
何故敬語。
そんなことを思いながら顔を上げたら、坂本くんとばっちり目が合った。
勢いよく逸らされた。
え、傷つく。
「どうかしたの」
「や、なんつーか、その……」
ちらり、坂本くんが横目で私を見た。
首をかしげたら、坂本くんはガシガシと頭を掻いた。
「あー……ほら、あれだよ」
「うん?」
「女子が部屋にいるって、……すっげー緊張する」
そう言われて、ようやく気付く。
ああ、そう言えば私は今、男の子の部屋に来ているんだなぁ。
「あ」
ふと気づいて、立ち上がる。
そのまま座布団を持ち上げて、席を移動した。
正方形のテーブル、坂本くんのいる場所と、隣り合う辺。
怪訝そうな顔で私を見ていた坂本くんは、私が座るや否や、驚いたように後ずさった。
「えっ、ちょ、何でそっち座るんだよ!?」
「顔が正面に見えるから緊張するのかなと思って」
「いや、そういう問題じゃ……!」
顔を上げれば、意外と近い場所に坂本くんの顔がある。
少しだけ赤くなっている気がする。
あれ、おかしいな。
なんだか、余計に緊張してきた気がする。