04 ただ気まずい
――山下友哉と伊藤明香の場合④――
どうしてか、調子が狂って仕方ない。
「喧嘩でもしたの」
伊藤さんの目の前にいた山本さんが、急にそんなことを言い出した。
「え、誰が?」
「いや、この間から気になってたんだけど、最近二人が話してるの見ないなぁって」
「え」
僕と伊藤さんを交互に指さしながら、山本さんは言う。
伊藤さんの方を向いたら、目が合ったけれど、すぐに逸らされてしまった。
「いやいや、そんなことないよ、喋ってるよ、ねえ?」
「なんで山下くんの方見ないの伊藤ちゃん」
山本さんの鮮やかなツッコミ。
思わず笑った。
伊藤さんに睨まれた。
何故。
「喧嘩でもしたの?」
「いや、してないよ。というか何も心当たりが……」
そこまで言ったところで、がたがたっ、と伊藤さんがあらぶった。
「あれ」
「……あれ?」
山本さんと二人、伊藤さんを見る。
伊藤さんは気まずそうにちらりとこっちを見てから、また目を逸らした。
「……うん、とりあえず伊藤ちゃん側に原因があることが分かった」
「なっ、そんっ、別に! 何もないよ! なーんにもないよ!」
「誤魔化し方が下手すぎる」
「下手すぎる」
「ねえ山下くん、本当に心当たりない?」
「うーん」
はて、僕は伊藤さんがこんなリアクションをするようなことをしただろうか。
まったくもって覚えがない。
「頭ぽんぽんしたくらいじゃないかな」
「!」
「あ、山下くんそれだ、確実にそれだ。今のリアクションでわかった」
「え、そうなの?」
伊藤さんの顔を見たら、思い切り逸らされた。
目を逸らすどころじゃない。顔ごと逸らされた。
「駄目だよ山下くん、不用意に女子の頭ぽんぽんしちゃ。ときめいちゃうよ」
「あれっ、僕が悪いの?」
「そうだよ、山下くんのせいだよこれは」
「えぇぇ……ごめん」
良かれと思ってやったことなのだけれど、あまりよくなかったらしい。
反省せねば。
「ち、ちがう! 山下くんが悪いってわけじゃなく……いや、悪いといえば悪いけど……!」
「ごめん」
「そうじゃなくて! あああっ、私もなんて言ったらいいのか!」
頭を抱える伊藤さん。
様子を見守っていたら、やがて伊藤さんは意を決したように僕の方を見た。
「もう、なんか悶々としてる方が私には向いてないから言う! もう言う! 聞いて!」
「き、聞くよ」
「え、それ私も聞いていいやつなの」
「山本ちゃんはどうでもいい!」
「ひどい」
「あのね!」
ようやく僕と目を合わせて、顔を真っ赤にして、伊藤さんは言う。
「てっ、照れすぎて! ……どんな顔で山下くんの顔見たらいいか、分かんなかったの!」
……あれ。
どうしよう、僕も今、どんな顔すればいいかわからない。




