05 脳に住み着く
――渡辺亮と西村葵の場合⑤――
俺が一体何をしたと言うんだ。
「人生って何なんだ」
「は?」
ある昼休みのこと。
親父の手作り弁当を食らう俺の目の前で、そいつは言った。
「唐突にどうした、哲学者にでもなるのか」
「いや、そこまで突き詰めたいわけじゃない。人生とは何ぞやと考え続ける人生なんて求めてない」
「じゃあ何で聞いた」
「何となく」
「何となく」
「そう、何となく」
目の前のそいつ、クラスメートの藤田はそう言うと、おにぎりを一口かじった。
「後輩がさ」
「おう」
「なんかこう……人生がすっげー楽しくて仕方ない、みたいなやつがいる」
「あー、前向き」
「ポジティブ」
「ポジティブシンキング」
「やりたいことがいっぱいで、時間が足りないんだと」
「好奇心旺盛」
「それ」
話を聞きつつ、唐揚げを口に放り込む。
「対して俺は、そこまでやりたいことがあるわけでもない。時間は有り余ってる」
「いつも死んだような顔してるもんな、お前」
「俺って基本的にいつも死んでると思うんだよね」
「それは過言だろ」
「心臓とか動いてるかどうかわからなくなる時がある。……動いてたわ」
「よかったね」
自分の左胸に手を添えていた藤田は、小さくため息をつき、食べかけのおにぎりを口に放り込む。
意外と一口がデカい。
「俺が言いたいのはつまり何かというと」
「ん」
「何で、あんなにも時間が必要なあいつも、こんなにも時間が有り余ってる俺も、同じ寿命で生きてんだろう、と」
「おっと、おかしな話題になってきたぞ」
「別にさ、俺みたいに時間が有り余っちゃうような奴の寿命は二十年くらいでよくない? それでも多いくらいだわ」
「マジか」
「逆にああいういろんなことがしたいやつは千年とかあっていいと思うんだよね」
「格差」
「何かそういう具合に上手いことできないですか? 渡辺くん」
「俺にできてたまるか、神か俺は」
「オゥ、ガッド!」
「無駄な発音のよさ」
しかしながら、まあ、全面的に意味が分からないというわけでもない。
俺自身もどちらかと言えば時間が余っている方で、余った時間で部活をしているくらいだし。
「こう、俺たちの有り余ってる時間を誰か時間の足りない方々に分け与えたい」
「ああ、うん」
「何とかしてくれ」
「無理」
余っている時間を、時間の足りない誰かに分け与えることができるとしたら。
そう考えた時、何故か真っ先に浮かんだ顔が西村だった。
思わず咳き込んだら、目の前の藤田が目を丸くした。
「どうした?」
「脳内で不測の事態が起こった」
「は?」
いやいや、本当、勘弁してくれよ。
何を、当然のように俺の脳内に住んでやがるんだ、あいつは。




