04 くだらない話
――渡辺亮と西村葵の場合④――
どういうわけかは、分からないけれど。
「あら、渡辺くん」
声をかければ、渡辺くんはこちらを振り返って、小さくため息をついた。
「何、どうかしたの」
「いや、別に……やっぱり来たかと思っただけだ」
「嫌そうな言い方ね。どういう意味かしら?」
放課後、部活へ向かう途中のこと。
前方を歩いていた渡辺くんに気づいて声をかけてみれば、失礼な反応をされた。
「あー……なんつうか」
「何よ」
「そろそろお前が来るんじゃないかと予測できた自分が何か嫌だった」
「……それは私としてもなんだか嫌だわ」
まさか声をかけることを予測されていただなんて。
まるで、それが当たり前になるほど頻繁に、私が渡辺くんに声をかけているみたいじゃない。
「なんか心にダメージを負った。今日は部活サボって帰ろうかな……」
「いいえ、こういう時だからこそ体を動かして、嫌なことは一刻も早く忘れなければいけないわ」
「それも確かにそうか」
そんな会話をしながら、二人で並んで部室を目指す現在。
しかしそれにしても、何故私はごく当たり前のように渡辺くんの隣を歩いているのかしら。
不思議でならない。
かと言って、ダッシュで離れるほど嫌ではないと言う辺りも不思議でならない。
「それより渡辺くん」
「何だ」
「あなた、テストはどうだったの」
「愚問だな、言うまでもない」
「ああなるほど、今回もヤマ勘が外れたのね」
「お前はいったい俺を何だと思ってる」
「何に対してもやる気のないドライ野郎だと思ってるわ」
「思った以上に辛辣だなオイ」
いや、だがしかし、彼がテストに対して熱心に取り組む姿は想像ができないのだけど。
どう頑張っても、ざっと問題を解いてすぐに寝そうなイメージが強いのだけど。
……あら? でもちゃんと勉強しておかないとそれはできないような。
「結局、テストはどうだったの」
「あんなもの、授業さえちゃんと聞いとけば解けるだろ」
何、この男。
自慢?
天才自慢?
「……私、今あなたに対して苛立ちを覚えたわ。少しつねらせてもらってもいいかしら」
「何故そうなる」
「手の甲でいいのよ」
「意外と痛いやつだろ、それ」
手の甲を私から遠ざけながら、渡辺くんは嫌そうな顔で私を見た。
だから同じくらい嫌そうな顔をしてやった。
「嫌ね、冗談よ」
「顔が本気だったぞ」
「あら、それは失礼」
「それは本気じゃないな」
なんて、くだらない話。
けれど私は、彼とするこういうくだらない話は嫌いじゃない。
「何を笑ってんだ」
「さあ、どうしてかしらね」
きっと、相手があなただからよ。




