03 A定食に合掌
――渡辺亮と西村葵の場合③――
それは俺としても、分かっていたことであって。
「あら、渡辺くん。こんなところで会うのは奇遇ね」
「西村」
現在地、昼休みの食堂。
不覚にも本日、弁当を玄関先に忘れるという凡ミスを犯した俺は、不本意ながら定食でも食べようとここへ来た次第だ。
勘違いしないでほしい、うちの食堂の定食が口に合わないということではない。親父の作る弁当の方がはるかにうまく感じるだけだ。
「お弁当を忘れたの? それとも作ってもらえなかったの?」
「鞄に入れるのを忘れただけだ」
今頃俺の弁当は、おそらく家で家事に勤しんでいるお袋がほくほく顔で腹に入れているところだろう。
さっき、そんなメールが携帯に入っていた(亮くんのお弁当は私がいただいた!とかなんとか)。
「お前は……」
ふと、西村の周囲を見回して、思わず眉間にしわがよる。
何か言いたいことでもあるのか、とでも言いたげな西村の視線から逃れるように、目を逸らした。
「一人なのか」
「悪い?」
「悪いとは言ってない」
「そう。なら文句言わないでちょうだい」
「文句を言った覚えもない」
「そうかしら。とても文句を言いたそうな顔をしていたわ」
「もともとこういう顔だ」
そんなやり取りをしながら、きょろきょろと辺りを見回す。
空いている席は、少ない。
やはり食堂は混むから苦手だ。
「席がないなら、相席してあげても構わないわよ」
上から目線過ぎる言い方がなんか嫌だ。
だがここで、結構だ、他を探す、などと言うのはおそらく西村の思惑通りなので。
それもそれで、癪なので。
「そうか、なら失礼」
カツ丼を食べる西村の斜め向かいに、着席。
ああ、これなら真正面にあいつの顔を見なくて済むし、なんか勝った気分だ。
そう思いながら横目で西村の方を見ると、ぽかんとした顔で俺を見るそいつと目が合った。
「何だよ」
「いえ、まさか本当に座るとは思わなかったから、驚いたわ」
「たまにはお前の考えの裏をかいてやろうかと思ったんでね」
箸を手に持って、定食に向かって手を合わせる。
それから豚の生姜焼きを一口。
やはりまずくはない。
だがしかし、どうしても親父の手料理に比べると劣るわけで。
「渡辺くんって、ちゃんとご飯の前に手を合わせる人なのね」
「は?」
「なんだか、意外だわ」
「意外、か」
妙なところで意外がられても、勝った気にもなれなければ、負けた気にもならない。
というか、食事の前に手を合わせるのは一般的なマナーってやつじゃないのか。
「なんだか、新しい発見をした気分よ」
そう言いながら西村は、何故か妙に嬉しそうに笑った。
何が嬉しいのやら、そう言い返そうとして、気づいた。
俺の顔も、いつの間にか少しだけ緩んでいた。




