02 似てはいない
――渡辺亮と西村葵の場合②――
クールとドライの違いは、そこにあるのだと思う。
「今日も頑張ってんな」
「あら、渡辺くん」
放課後、部活でランニング中のこと。
野球部に所属しているはずの渡辺くんが、制服を着たまま玄関を出てきたところだった。
「どうしたの。野球部の練習ももう始まっているはずよ」
「今から行くんだよ」
「堂々とした遅刻ね」
「日直だったんだよ」
「あら、私もよ」
「……」
渡辺くんがため息をつく。
スピードを緩めて横に止まると、渡辺くんは不思議そうな顔で私を見た。
「ランニング中じゃないのか」
「ええ、そうよ。けれど、あなたが私を呼びとめたから」
「そんなつもりはなかった」
「そう」
無駄に止まってしまった。
せっかくなので一度屈伸運動をしてからまた行こう。
「お前って」
「何かしら」
「熱血なのか冷血なのかわからない」
見上げれば、渡辺くんは心底意味が分からないという顔で私を見ている。
渡辺くんらしからぬ質問に、つい体が止まってしまった。
「唐突におかしなことを言うのね」
「前から思ってたんだよ。やる気はあるはずなのに感じないというか」
「それは由々しき問題ね」
こんなにもやる気に満ち溢れているというのに、外側にそれが出ていないとは。
チームの士気にも関わってしまうかもしれないわ。
「でも、そうね。渡辺くんの質問に答えるならば、私は熱血だと思うわ」
「そうなのか」
「いわば……そうね、雪山の下にマグマみたいな」
「は?」
「内側が熱くて外側が冷えているという意味よ」
「例えが壮大すぎるだろ」
これ以上なくわかりやすい例えだったと思うのだけど。
「お前にこんな話をする義理はないんだが」
「あら、無理して言わなくていいのよ?」
「他に言う相手がいないからお前に言っておく」
「何かしら」
渡辺くんは本当に、心底意味が分からないというような顔のままで、小さく息を吐いた。
「俺とお前は似ていると思っていた」
「……それはなんだか、嫌な気分ね」
「俺も嫌だ。……でもお前と話していると、まったく似ていないと思う」
「でしょうね。私もそっちが正解だと思うわ」
「だから意味が分からない。俺は何故、お前が俺に似ていると思ったのかがわからない」
そんなことを言って、渡辺くんは腕を組む。
「そうね。私から言えるとしたら」
口を開けば、渡辺くんはこちらを見る。
確かに最初、私も思った。
この人は私に似ているかもしれないと。
けれど今は思う。
この人は、私とは似ても似つかないのだと。
「私がクールなら、あなたはドライなのよ」
つまり、そういうことなのでしょうね。




