01 やる気のなさ
――渡辺亮と西村葵の場合①――
どうせいつか終わる人生に、熱意を傾けるなんて馬鹿馬鹿しくないか。
桜がもうじき満開を迎えるらしい。
特にそれを気にする理由も見当たらないので、いつも通りグラウンドに向かって歩く。
すでに部活を始めているらしい運動部員が何人か、俺の横を駆け抜けていく。
「あら」
ふと、俺の後ろから聞こえた声。
声だけで誰かわかった。なんとなく眉間にしわを寄せて振り向けば、思った通りの見知った顔。
「西村」
「誰かと思えば渡辺くんじゃない。こんなところで何をしているの」
「今から部活だ」
何を考えているのか、西村はスピードを落とし、俺の横を歩き出した。
「野球部はロードワークに行っているはずよ」
「戻ってきたら混じる」
「そう」
「それよりお前、ランニング中だろ」
「そうよ。でももう終わるところだもの」
「あ、そう」
ぐっと伸びをしながら俺の横を歩く西村から視線を外して、グラウンドの方。
サッカー部、野球部、ソフトボール部…あと、ランニングコースを駆け回るのはテニス部か。
「渡辺くん」
「何だ」
「あなた、いつもやる気がないように見受けられるのだけど、どういう気持ちで生きているの」
思った以上に重い質問が来た。
「唐突に何てこと言うんだ」
「なんだかんだ、あなたとは1年の頃からの付き合いだけれど、私にはいまだにあなたという人物がよくわからないわ」
「俺はそのセリフをそっくりそのままお前にぶつけたい」
「なら私はそのセリフをまたあなたに向かって打ち返すわ。みぞおちを狙ったピッチャーライナー」
「殺す気か」
「大丈夫よ、あなたなら受け止めてくれると信じているわ」
「どんな信頼だ」
おかしな方向に向かっていく会話。
思わずため息を一つ吐いて、西村の方を向いた。西村はといえば、俺の方をじっと見ている。
凝視するな、怖い。
「ま、それはそれとして」
「あら、はぐらかすの」
「答える義理がない」
「そう、残念」
たいして残念じゃなさそうな顔で、西村はようやく俺から視線を外した。
「とりあえず、俺は部室に行って着替えて部活行く」
「そうね、それは大事よ」
「どうせ今年も予選敗退だけどな、弱小校だから」
鼻で笑ってそう言うと、西村は真顔で俺の方を見て、口を開いた。
「目指せ甲子園、とか言わないの」
「誰が言うか。面倒くさいし、今さら行けるはずもない」
「最初からあきらめているようじゃ、高が知れるわね」
ふん、なんて、今度は西村が鼻で笑う。
「目標は大きく持つべきよ。ソフトボール部の目標は『目指せ、日本一』」
「デカすぎる」
「だってその方が、必死になれるじゃない」
そう言って、西村は数歩俺の先を行く。
「じゃあ、私は部活に戻るわ。またね、渡辺くん」
「……ああ」
駆けていく西村の後姿を見送ってから、ガシガシ、頭を掻く。
「……やっぱりあいつ、よくわからん」
冷静なのか熱血なのか、ぜひともはっきりしていただきたいところだ。




