06 君に会う口実
――加藤順太と後藤舞依の場合⑥――
本当は、口実なんてなくたって。
「なあ、加藤」
「何」
「私は今、とんでもない問題に気付いてしまった」
梅雨も明け、夏休みはもう目の前まで迫っている。
そんな中、私はものすごい、それはもうとんでもない、まさに由々しき問題に直面している。
「そんなことより、持ってきたプリント出してくんない?」
いつも通りの面倒くさそうな顔を浮かべる加藤の手に、持ってきたプリントを差し出した。
プリントを受け取った加藤は、やはり面倒くさそうな顔で目を通していく。
「これはもう死活問題と言ってもいい。それほど重大な問題だ」
「俺には関係ない」
「いや、大いに関係ある! むしろお前のせいだと言っても過言ではない!」
「はあ?」
眉間のしわを一層深くして、加藤が顔を上げた。
そんな加藤の目をじっと見て、私は切実に、切々と、訴えかけるように口を開いた。
「夏休みに入ったら、加藤の家に来る理由がなくなってしまう」
沈黙がしばらく。
それから加藤は、とても脱力した様子で、たいへん深いため息を吐いた。
「それは俺のせいじゃないだろ」
「む、それもそうかもしれないな。ではこの世の中のせいということにしよう」
「それは世の中に謝れ」
目を通し終えたプリントを持ったまま、加藤は呆れたような顔で私を見る。
「理由がないなら来なければいいだろ」
「そう言うわけにはいくまい! 一日に一度は加藤のその面倒くさそうな面を拝んでおかないと、何だか寂しいじゃないか!」
「俺の顔は見世物じゃない」
「見ものではあるぞ!」
「うまいこと言ったつもりか、そのドヤ顔をやめろ」
ため息交じりにそう言って、さらに深めのため息を一つ。
「そんなに呆れることはないじゃないか」
「呆れもするわ。お前さ」
眉間にしわを寄せた、不機嫌極まりない表情。
私の好きなその表情で、加藤は呆れた様子のまま、心底不思議そうに言った。
「何でそんなに俺に会いたいわけ?」
こいつは、何を今更そんなことを聞くんだろうか。
前からずっと言っている。
お前の不機嫌そうな顔を見るのが楽しいからだ。
いつもそう言っているはずなのに、まったく何て今更なことを。
あと、最近はお前の入れるコーヒーも好きだな。
でも、どれも口に出すのは憚られるな。
「強いて言えば、そうだな」
眉間にしわを寄せる加藤の顔に、ついつい顔が緩んでしまう。
そんな私を見て、加藤はなおさら眉間にしわを寄せる。
「私はきっと、お前が好きなんだと思うよ」
おっと?
何やら、言う予定のなかったことを言ってしまった気がするな。




