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セイレン党組曲  作者: くつぎ
Case 05~引きこもりな彼と元気な彼女~
30/70

06 君に会う口実

 ――加藤順太と後藤舞依の場合⑥――


 本当は、口実なんてなくたって。


「なあ、加藤」

「何」

「私は今、とんでもない問題に気付いてしまった」


 梅雨も明け、夏休みはもう目の前まで迫っている。

 そんな中、私はものすごい、それはもうとんでもない、まさに由々しき問題に直面している。


「そんなことより、持ってきたプリント出してくんない?」


 いつも通りの面倒くさそうな顔を浮かべる加藤の手に、持ってきたプリントを差し出した。

 プリントを受け取った加藤は、やはり面倒くさそうな顔で目を通していく。


「これはもう死活問題と言ってもいい。それほど重大な問題だ」

「俺には関係ない」

「いや、大いに関係ある! むしろお前のせいだと言っても過言ではない!」

「はあ?」


 眉間のしわを一層深くして、加藤が顔を上げた。

 そんな加藤の目をじっと見て、私は切実に、切々と、訴えかけるように口を開いた。


「夏休みに入ったら、加藤の家に来る理由がなくなってしまう」


 沈黙がしばらく。

 それから加藤は、とても脱力した様子で、たいへん深いため息を吐いた。


「それは俺のせいじゃないだろ」

「む、それもそうかもしれないな。ではこの世の中のせいということにしよう」

「それは世の中に謝れ」


 目を通し終えたプリントを持ったまま、加藤は呆れたような顔で私を見る。


「理由がないなら来なければいいだろ」

「そう言うわけにはいくまい! 一日に一度は加藤のその面倒くさそうな面を拝んでおかないと、何だか寂しいじゃないか!」

「俺の顔は見世物じゃない」

「見ものではあるぞ!」

「うまいこと言ったつもりか、そのドヤ顔をやめろ」


 ため息交じりにそう言って、さらに深めのため息を一つ。


「そんなに呆れることはないじゃないか」

「呆れもするわ。お前さ」


 眉間にしわを寄せた、不機嫌極まりない表情。

 私の好きなその表情で、加藤は呆れた様子のまま、心底不思議そうに言った。


「何でそんなに俺に会いたいわけ?」


 こいつは、何を今更そんなことを聞くんだろうか。

 前からずっと言っている。

 お前の不機嫌そうな顔を見るのが楽しいからだ。

 いつもそう言っているはずなのに、まったく何て今更なことを。

 あと、最近はお前の入れるコーヒーも好きだな。


 でも、どれも口に出すのは憚られるな。


「強いて言えば、そうだな」


 眉間にしわを寄せる加藤の顔に、ついつい顔が緩んでしまう。

 そんな私を見て、加藤はなおさら眉間にしわを寄せる。


「私はきっと、お前が好きなんだと思うよ」


 おっと?

 何やら、言う予定のなかったことを言ってしまった気がするな。



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