03 表情が物語る
――坂本大翔と清水由紀の場合③――
正直、ここまでとは思っていなかった。
「あぁぁ……俺はどこまでダメなんだ」
「それは坂本がダメって言うより、相手が悪いんだと思うけど」
ある放課後の出来事。
清水をデートに誘おうとして失敗した俺は、隣のクラスの吉田を引き連れて、近所のバーガーショップに入った。
ああ、勘違いしないでくれ。脅して強制連行したわけじゃない。
吉田はもともと、中学の頃から仲がいい友達だ。
「清水は悪くない」
「いや、そういう意味じゃないよ。坂本にとっては強敵だったようだねって話」
「……あー、それは、確かにそうかもなぁ」
「坂本は素直じゃないからね」
確かに、俺は決して素直ではない。
言いたいことは言う方だ。しかも結構ずけずけと。
けれど自分の本心とか、自分が一番伝えたいような言葉は、言える気がしない。
清水に向かって、好きだ、なんて。
俺が今、一番伝えたくて、一番言えないセリフだ。
「素直なんてどうやったらなれんだよ」
「知らないよ、頑張れよ」
「無理。俺には無理」
自分の本心をさらけ出すなんて恥ずかしい真似、できる気がしない。
うまく伝わらなかった時に言い直すのも恥ずかしいし。
何より、届かなかった時に傷つくのが怖い。
「そんなことじゃ、いつまで経っても伝わらないよ」
「……」
「坂本は素直じゃないし、相手は鈍いし」
「……」
「本当にちゃんと言いたいこと言わないと、受け取ってもらえないよ」
「……わかってるよ」
わかってる。
言われなくても、それは俺が一番わかってて、一番実感してるんだ。
深くため息をつけば、向かいで吉田も小さくため息をついた。
「どうしてそんな難しい人、好きになったの」
「どうしてって」
理由なんて、自分でもわからない。
最初に見た、はにかんだ笑顔が可愛かったから?
話すようになったら、何気に面白い奴だったから?
あんまりに難関なもんで、攻略したくなったから?
いや、そういうんじゃない。
そういうんじゃ、なくて。
「仕方ねーだろ。好きなもんは好きなんだ」
そう、これだ。
強いて言うなら。
隣にいたのが清水だったから。
そう思った直後、かしゃり、聞こえたのはシャッター音。
「はい、いただき」
「は?」
「初めて見たよ、坂本のこんな顔。保存、保存」
「ちょ、おまっ……何で撮ったんだよ、おい!」
「せっかくだから坂本にも送っとこうか、今の写真」
「い、いらねー……ってもう送ってきた!?」
吉田が画像を送信しました。
携帯に表示されたメッセージを開けば、出てきたのは俺の顔。
俺自身、一度も見たことないような、やたらと優しい顔。
「この顔してれば、少しは伝わるかもね」
こんな恥ずかしい顔できるか、ばーか。