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セイレン党組曲  作者: くつぎ
Case 01~不器用な彼と鈍感な彼女~
3/70

03 表情が物語る

 ――坂本大翔と清水由紀の場合③――


 正直、ここまでとは思っていなかった。


「あぁぁ……俺はどこまでダメなんだ」

「それは坂本がダメって言うより、相手が悪いんだと思うけど」


 ある放課後の出来事。

 清水をデートに誘おうとして失敗した俺は、隣のクラスの吉田を引き連れて、近所のバーガーショップに入った。


 ああ、勘違いしないでくれ。脅して強制連行したわけじゃない。

 吉田はもともと、中学の頃から仲がいい友達だ。


「清水は悪くない」

「いや、そういう意味じゃないよ。坂本にとっては強敵だったようだねって話」

「……あー、それは、確かにそうかもなぁ」

「坂本は素直じゃないからね」


 確かに、俺は決して素直ではない。

 言いたいことは言う方だ。しかも結構ずけずけと。

 けれど自分の本心とか、自分が一番伝えたいような言葉は、言える気がしない。


 清水に向かって、好きだ、なんて。

 俺が今、一番伝えたくて、一番言えないセリフだ。


「素直なんてどうやったらなれんだよ」

「知らないよ、頑張れよ」

「無理。俺には無理」


 自分の本心をさらけ出すなんて恥ずかしい真似、できる気がしない。

 うまく伝わらなかった時に言い直すのも恥ずかしいし。

 何より、届かなかった時に傷つくのが怖い。


「そんなことじゃ、いつまで経っても伝わらないよ」

「……」

「坂本は素直じゃないし、相手は鈍いし」

「……」

「本当にちゃんと言いたいこと言わないと、受け取ってもらえないよ」

「……わかってるよ」


 わかってる。

 言われなくても、それは俺が一番わかってて、一番実感してるんだ。


 深くため息をつけば、向かいで吉田も小さくため息をついた。


「どうしてそんな難しい人、好きになったの」

「どうしてって」


 理由なんて、自分でもわからない。


 最初に見た、はにかんだ笑顔が可愛かったから?

 話すようになったら、何気に面白い奴だったから?

 あんまりに難関なもんで、攻略したくなったから?


 いや、そういうんじゃない。

 そういうんじゃ、なくて。


「仕方ねーだろ。好きなもんは好きなんだ」


 そう、これだ。

 強いて言うなら。


 隣にいたのが清水だったから。


 そう思った直後、かしゃり、聞こえたのはシャッター音。


「はい、いただき」

「は?」

「初めて見たよ、坂本のこんな顔。保存、保存」

「ちょ、おまっ……何で撮ったんだよ、おい!」

「せっかくだから坂本にも送っとこうか、今の写真」

「い、いらねー……ってもう送ってきた!?」


 吉田が画像を送信しました。

 携帯に表示されたメッセージを開けば、出てきたのは俺の顔。

 俺自身、一度も見たことないような、やたらと優しい顔。


「この顔してれば、少しは伝わるかもね」


 こんな恥ずかしい顔できるか、ばーか。



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