05 バカなあいつ
――加藤順太と後藤舞依の場合⑤――
きっとあいつはバカなんだ。
「やあ、加藤! 今日も今日とて、不機嫌そうだな!」
通常運転で学校をサボったその日。
喉が渇いてスポーツドリンクを飲みに来たところで、チャイムが鳴ったのがさっき。
「こんな雨の日まで来なくてもいいのに」
「そうはいかない! 最近は最早これが日課と化しているからな、来ないと逆に落ち着かないんだ」
「もはや病気だな」
ごそごそと鞄を探る後藤の顔は、いつも通りだがどこか緩んだ顔。
何がそんなに嬉しいのか知らないが、まあいいか。
「ほら、プリント類」
「ああ」
「さすがにテストは預かってこられないからな。ちゃんと自分で取りに行くんだぞ」
「あー……そのうちな」
明後日くらいに一度行くつもりではあるし。
「では、私はそろそろ行くよ」
「ん」
こちらに背を向けて、傘を開こうとする後藤の後姿。
その向こう側では、変わらず激しい雨が降り続いている。
さすがは梅雨。
「小雨になるまで雨宿りでもしていくか?」
家の中を指さしながら言うと、後藤は目を丸くして振り返り、やがてやたら嬉しそうな顔をした。
少し後悔した。
「いいのか!」
ものすごく嬉しそうな……それこそしばらくぶりに主人と再会した犬並に嬉しそうな顔をされてしまい、やっぱり今のなし、などと言えるわけもなく。
「まあ、しばらくなら」
「それはありがたい! 恩に着るぞ、加藤! お礼に部屋の掃除をしてやろう!」
「オカンか。それは礼という名を借りた嫌がらせでしかないぞ」
そんなツッコミをしている間に、後藤は傘をたたんでブンブンと水気を飛ばす。
「いやあ、実はまた加藤の入れるコーヒーが飲みたいと思っていたところなのだよ」
「ずいぶんわかりやすい催促だな」
「加藤の部屋は二階か?」
「え、入る気? いやいや無理、そこで何とか譲歩して」
「私の辞書に譲歩などという言葉はない!」
「書き足しとけ! 何ならお前の顔に書いておいてやろうか!」
相変わらず、ずけずけと人のテリトリーに入り込んでくる奴だ。
ため息をついてコーヒーの準備をしていたら、後藤がひょこひょこと近づいてきた。
「なあ、加藤はいつも家で何をして過ごしているんだ?」
「は? なんでお前にそんな話しないといけないわけ」
「いいじゃないか! 雨宿りの間の雑談さ」
「……」
「なあ、加藤!」
そう言って、後藤はにこにこと笑いながら俺を見る。
……相変わらず、人の心にまでずけずけと入り込んでくる。
「私は、お前のことがもっと知りたいんだ!」
恥ずかしげもなくそう言い放つそいつに、こっちが恥ずかしくなる。
……本当、バカ。




