03 君がいる温度
――加藤順太と後藤舞依の場合③――
その日は、何かが違ったんだろうか。
「やあ、加藤! 今日も不健康そうだな!」
いつも通り『自分は思い切り人生を楽しんでいます』みたいな笑顔をした後藤が、いつも通り俺の家の玄関先に立っていた。
「……お前はいつも健康そうだな」
「そうだな! 生まれてこの方、病院の世話になったのは誕生時と検診と予防接種くらいのものだと思うぞ!」
「スゴイネ」
お前の健康自慢はどうでもいい。
「ほら、今日のプリントだ!」
「毎日飽きないな、お前」
「飽きないさ! 私は加藤のその不健康そうな顔を見るだけで、なんだか楽しい気持ちになるぞ!」
「どういう意味だ」
深くため息をつきながらプリントを受け取ると、後藤はにこにこと笑顔のまま、もう一度口を開いた。
「ところで加藤」
「何」
「どうせ今日も仮病なんだろう?」
どうせ今日も。
……やはり俺の仮病はすでにばれていたようだ。
いや、まあ、当たり前か。
「だったら何」
「どこかへ遊びに行かないか?」
「……は?」
ぱちくり。思わず目をしばたけば、後藤はさらに楽しそうに笑う。
「暇なんだろう?」
「暇じゃない」
「またまた。どうせこのまま部屋へ戻ってもパソコンかゲームと戯れるだけだろう!」
「何その偏見」
いや、的確だけど。
どうせ部屋に帰ってもゲームしかすることないけど。
「たまには私に付き合ってくれたっていいじゃないか!」
「そんな義理はない」
「毎日わざわざお前のためにプリントを持ってきている私に向かってなんて言い方だ!」
「頼んでない」
「先生が私に頼むんだ!」
「断ればいいだろうに」
「それを言われると返す言葉もないな!」
「手詰まりが早い」
「だが頼まれると断れない私の性格も考慮してほしい!」
「じゃあ頼むから帰ってください」
「その頼みは聞けないな!」
「断ってんじゃん。即答で断ってんじゃん」
こいつはどうすれば帰ってくれるんだろう。
ため息をつけば、後藤はにこにこと笑顔のまま、もう一度口を開く。
「ほら、今日はいい天気だぞ!」
「それが何だ」
「こんな日に引きこもっているなんてもったいないじゃないか!」
「別に勝手だろ」
「その理屈が通るなら、私が加藤を外に連れ出そうとするのも勝手だろ?」
「それとこれとは話が別だろ」
「同じようなものじゃないか!」
にっこりと笑った後藤は、俺の手にあったプリントを取り上げ、靴箱の上に置いた。
それから。
「行こう、加藤!」
そう言って、俺の手を握った。
やけに熱く感じるのは、後藤の体温が高いのか、俺の体温が低いのか。
ともかく俺は、ずいぶん久しぶりに『人』に触った気がした。
「……わかった、着替えてくるから待ってろ」
諦めてそう言ったら、後藤はびっくりしたような顔をして。
それから、嬉しそうにへにゃりと破顔した。
不覚にも、可愛いなどと思ってしまった。




