01 届け物と仮病
――加藤順太と後藤舞依の場合①――
いつか離れてしまうなら、出会いなんてなくていい。
「ふあ」
欠伸をして、布団から這い出る。枕元に置いた眼鏡をかけて時計を見れば、夕方に近い時間だ。今日も一日、ほとんど寝て終わってしまった。
「……のど、かわいた」
転がるようにベッドから降りて、のそのそと部屋の外。
リビングを通ってキッチン。冷蔵庫からスポーツドリンクを取り出して飲み始めたところで、こんこん、窓を叩くような音。
「加藤! 加藤ー!」
「っぶ!!」
振り向いてみれば、満面の笑みで窓をノックするクラスメート女子の姿。
思わずスポーツドリンクを噴出した。そのあとでむせた。
「あっはっはっは、加藤のリアクションは面白いな!」
「後藤、お前……」
咳き込んだまま窓を開ければ、クラスメート女子こと後藤は、にっこり楽しそうな笑顔で俺を見た。
「やあ、加藤! 今日は結局学校に来なかったな! 風邪か?」
「あー……ちょっとした体調不良?」
いや、本当はサボった。
「そうかそうか、ならば私がおかゆでも作ってやろう」
「窓から入ろうとするな、それに飯なら間に合っているから結構だ」
「む? そうか。なら話し相手にでもなってやろう」
「だから窓から入ろうとするな、頼むからそっとしておいてくれ」
窓から侵入を図る後藤の肩を押さえつけながら、内心でため息だ。
何の因果で俺はこの女子によくからまれるのだろうか。
「しかし加藤、たまには人と話さないと喋り方を忘れるぞ」
「極端な話をするな。今ちゃんと話せてるだろ、まだ大丈夫だ」
「私のおかげだな!」
「お前のその無駄に前向きなところすげーなって思うよ」
「褒めても何も出ないぞ!やっぱりおかゆ作ろうか?」
「結構だ」
今度こそ本当にため息をついて、窓の外にいる後藤に視線を向ける。
後藤は相変らず楽しそうに笑っており、気が抜けた。
「ああ、そうそう。忘れるところだった」
「何」
「私は別に、加藤におかゆを作りに来たわけではないんだ。プリントを届けに来たんだよ。……ああ、これだ」
ごそごそと鞄をあさっていた後藤が、プリント数枚を挟んだクリアファイルを取り出した。
「ほら、これが預かってきたプリントだ」
「わざわざどうも」
「そしてこれは私が道中で拾ってきた小石」
「捨ててきなさい」
流れるようにツッコめば、後藤はまた楽しそうにへらへらと笑う。
「では加藤、また明日! ちゃんと学校に来るんだぞ!」
そんなことを言ってから、こちらに向かって手を振る後藤。
小さくそれに手を振り返しながら、もう一度ため息をついた。
お前だって、いつかは俺から離れていくだろ。
そう考えたらなぜか、胸の奥が苦しくなった。




