05 踏み出せない
――石川巧人と伊藤晴香の場合⑤――
私もいい加減、踏み出さないといけないとは、思うんだけど。
「あーっ、晴香ちゃんだぁ! おーい!」
「未来ちゃんだぁー、やっふー!」
ある昼休みのこと。
購買へ向かう途中で、去年同じクラスだった未来ちゃんと遭遇した。
「晴香ちゃん、どこ行くのー?」
「購買! デザートのアイスを求めて!」
「まぁじでー? 私も同じー、いえーい!」
「いえーい! 一緒に行こーう!」
テンションがおかしいことは自覚している。
「あ、晴香ちゃん晴香ちゃん」
「どうしたの、未来ちゃん未来ちゃん」
「聞いてよぉ!」
二人並んで購買へ向かう道すがら、隣を歩く未来ちゃんはぷんすかと怒った様子で口を開いた。
「藤田先輩がね、ひどいんだよ!」
「えっと、藤田先輩というと……?」
「ご近所さん! 話すようになったのは中学くらいだから、幼馴染ってほどではないんだけど」
そんな説明を入れつつ、未来ちゃんはぷくぷくと不機嫌そうなまま続ける。
「藤田先輩にさぁ、卒業したらどうするの?って聞いたんだよ」
「うん」
「そうしたらさぁ、なんて言ったと思う?」
「知らないよ」
「そう! よくわかったね! 『知らねーよ』って言うんだよ! 高校三年のこの時期になってなお! 知らないって何!」
「えぇぇ」
まさか当たるなんて思わなかったし、というか当てたつもりもなかったのに。
「私はさぁ、藤田先輩が大学に行くなら同じところを目指すつもりだし、藤田先輩が独り暮らしをするならご飯を作りに行ったりするつもりなんだよ!」
「甲斐甲斐しいね」
「それなのに藤田先輩は冷たい!」
「うーむ」
未来ちゃんの話を聞きつつ、考えを巡らせる。
「未来ちゃん、そもそもの部分を聞くんだけど」
「何かな、晴香ちゃん!」
「付き合ってるの?」
「へ」
きょとん。
未来ちゃんは不思議そうに首を傾げ、考え込み、そしてまだ不思議そうな顔で、私を見た。
「付き合ってるの?」
「私が聞いたんだよ! 何で聞き返すんだよ! 知らないよ!」
全力でツッコんでしまった。
「いや、うん、付き合ってないや。話はそこからか!」
「え、ああ、うん?」
未来ちゃんは携帯を取り出すと、さっと時間を確認して、きょろきょろと辺りを見回した。
「そうと決まれば藤田先輩に交際を申し込まなければいけない!」
「う、うん」
「こうしちゃいられない、花束を用意しなければ! じゃっ!」
「えっ、ちょ……ああ」
思い立ったら一直線すぎる未来ちゃん。
おそらくこれから花屋に向かうんだろう。バラとか買いそうだ。
「……すごいなぁ」
私が、五年以上踏み出せずにいる一歩を、あんなにも軽々と越えていく未来ちゃんはすごい人だ。
尊敬しつつ、小さく首を振った。
私には、無理だ。




