04 いつもと違う
――石川巧人と山本晴香の場合④――
本当に、意味が分からない。
「……ゲッ」
「何、人の顔見るや否やそのリアクションは」
テスト初日、放課後。
家に帰ろうと玄関まで来たところで、幼馴染の晴香に出くわした。
運が悪いとしか思えない。
「山本ちゃーん、また明日ー」
「うん、また明日ー! じゃあねー!」
クラスメートらしき女子をニコニコ笑顔で見送ってから、晴香は俺の方を見て瞬時に不機嫌な顔になった。
変わり身が早すぎてもはや呆れる。
「何でお前が俺より先に着いてんの」
「知らないっつの、どうせお前がちんたら歩いてただけだろうが」
相変わらず、俺に対してだけやたら口が悪い。
思えば昔からこうだった気がする。
俺に接するときだけ、こいつはやたら口が悪いし、不機嫌そうだし。
いくら嫌いでも、露骨すぎるんじゃないだろうか。
「まあどうでもいいや。さっさと帰れよ」
「言われなくてもさっさと帰るわ、バカ」
ぷいっと顔を逸らし、すたすたと歩き出す晴香。
その背中を見送りつつ、靴を履きかえて、俺も歩き出した。
「……」
「……」
俺より歩調の遅い晴香に追いつかないように、一定の距離を保って歩く。
つかず離れずみたいな距離感に、なんかイライラしてきた。
「何で着いてくるの」
「家が隣だから仕方ないだろ」
「別に寄り道して帰ればいいと思う」
「お前が寄り道すればいいじゃん」
「だって寄り道する用事ないし」
「俺だってないし」
「……」
「……」
「ふん」
そのあたりで、違和感を覚えた。
何かがいつもと違うような気がする。
……あ。
「晴香」
「何! ……けほっ」
「あー、やっぱり、なんか変だと思った」
「うるさい、別に大したことないし」
どうやら喉を少々痛めたらしい。
今日は声帯に負担が少ないと思ったら、晴香が叫ばないからか。
「テストの時期に体調崩すってバカかよ」
「別に体調崩してないし、喉がちょっと痛い程度だし、まったく問題ないし、けほっ」
意地を張ってそんなことを言いながら、また少しだけ咳き込む。
相変わらずバカなやつ。
いつもいつも、大事な時に部分的に体調を崩すのは、こいつの癖みたいなものだと思う。
「あー、やっぱり寄り道して帰るわー」
「急に何、そういうアピールいらないんだけど」
「別にアピールじゃねーし。じゃあな、ホクロ」
「うるさい、富士額」
いつも通りの、悪口ともつかない捨て台詞。
ふいっと顔を逸らして、来た道を引き返した。
さて、一番近いコンビニはどこだったか。
のど飴でも買って、あいつの部屋に放り込んでやろう。




