03 そこじゃない
――石川巧人と山本晴香の場合③――
他人に言われるのは腹が立つ。
「本当もう、意味わかんない、もうムカつく」
現在時、お昼休憩の真っ最中。
お母さん手作りのお弁当をモリモリと食べながら、ふうっと息をついた。
「聞いてよ、伊藤ちゃん!」
「何、また惚気でも聞かされるの? しんど」
「惚気じゃなーい! 愚痴! いっそ罵詈雑言!」
「はいはい、聞く聞く」
同じクラスの伊藤ちゃんは、呆れたようにため息をついた。
くっ、負けない。
「巧人が本当にムカつくの!」
「やっぱりその話か」
「やっぱりって言うなぁー」
「わかったわかった、ちゃんと聞くから言ってみ」
軽くあしらうような伊藤ちゃんの態度にムッとしてから、溜息を一つ。
「あいつ家が隣だからって遠慮がなさすぎるんだよ! あとデリカシーもない!」
「うんうん」
「昨日なんて着替えてるときにノックもしないで部屋に入ってきてさぁ!」
「すでに事件だよね」
「その上、私のお腹周りを見てさぁ……あいつなんて言ったと思う!?」
「え、知らん」
「『うわ、女子力ねえ腹筋』」
「そこなんだ」
「ほんっとうムカつく! 運動部だから鍛えてるのよ、それくらいわかるでしょうに!」
だんだんっ、机を叩くとお弁当が危ないので、膝を叩く。
伊藤ちゃんは何とも言えない顔で私を見てから、すうっと視線を逸らした。
「つっこんでもいいかな」
「巧人のデリカシーのなさにでしょ? つっこんで! むしろ罵倒して!」
「いや、山本ちゃんはまず着替えを覗かれたことに対して怒るべき」
「……?」
「いやいや、だって腹筋見られたんでしょ? 完全に下着も見られてるじゃん」
「……はっ!」
女子力がないとか罵られたせいですっかり忘れていたけど、完全にそうじゃん!
うわっ、今さらになって恥ずかしい!
とか思っていたら、伊藤ちゃんはまた呆れたようにため息をついた。
「ノックもせずに入ってくる時点で不法侵入って怒っていいはずだし」
「そ、そうか……!」
「着替えを覗かれたなら、変態!とか、覗き魔!とかいろいろ言うべきことはあるはず」
「そ、そうか」
「確実に山本ちゃんの怒るべきポイントはそこ。腹筋に関してじゃない」
「な、なんということ……」
あまりに一緒にいすぎて、あまりに近くにいすぎて、自然になってしまっていたけれど。
よく考えればあの状況は、片思いの男の子に着替えを見られた、という状況であるわけで。
「……あああっ、な、なんか急に恥ずかしくなってきたぁぁあ!」
「山本ちゃんはアホだなぁ」
ええ、分かっていますとも。
私はどうせアホですよぅ。




