02 気付いてない
――石川巧人と山本晴香の場合②――
ああ、腹が立つ、腹が立つ。
「何でお前がいるんだよ!?」
「はぁ!? 私いつもこの時間なんですけど! いっそ何でお前がいるのって話なんですけど!」
用事があって、いつもより早く家を出た、ある日の朝。
幼馴染の晴香が、ちょうど同じタイミングで家から出てきた。
「今日は早く来いって言われたんだよ!」
「それにしても遅くない!? いつもどんだけ遅いのお前!?」
「遅刻してないからいいんだよ! つうかお前が早すぎるだけだろ!」
今日も今日とて、幼馴染はぴーぴーとうるさい。
本当、腹立つ。うるさいし、面倒くさいし。
「お前いつもこんな早く行って何してんの?」
「何よ、別に何だっていいじゃない」
「こんな時間に行ったって一人だろ」
「一人なわけないでしょ! 結構来てるわよ、この時間だと!」
「嘘つけよ、誰が好んでこんな早い時間に登校すんだよ」
「私がいるっつーの、悪かったな!」
ふんっ、とそっぽを向いて速足になる晴香。
それでも歩調は俺とあまり変わらず、距離が広がるわけでもなく。
「お前、もっと早く歩いてさっさと行けば!?」
「はぁ!? なんで歩く速さまでお前に指定されなきゃいけないんだよ!」
「お前の方が歩くの速いんだから別にいいじゃん!」
ぎゃいのぎゃいの。
いつも通りの騒がしさで道を歩く。
結局、言い合っている間に学校についてしまったわけだが。
「ほらな! 結構人いるでしょ! 私一人じゃないでしょ!」
「何なの、暇なの? なんでこんな早く来てんの?」
「うるさいなぁ! 万年遅刻間際のお前にはわからないってーの!」
ふんだ!
今度こそ、そっぽを向いて俺から離れていく。
深くため息をついたら、ぽん、と背中を叩かれた。
「おはよう、石川」
「木村」
「お前の幼馴染、今日もパワフルだなぁ」
「うっとうしいって言うんだよ、あれは」
クラスメートの木村の言葉にもう一度ため息をつきながら、玄関で靴を履きかえる。
「本当、あいつの相手すんの疲れる。声帯が擦り減る気分だ」
「はっはっは、そりゃあ、あんだけ怒鳴り合ってりゃーな」
木村はそう言って、楽しそうに笑う。
笑いごとかよ。
「あー、あいつの幼馴染やめたい」
「まぁまぁ」
「百歩譲って幼馴染は継続したとしても、朝からあいつと登校とか二度とごめんだ」
朝からこんなに疲れるのは、もうたくさんだ。
下駄箱に靴をしまってから振り返ると、木村は何がおかしいのか小さく噴出して、笑った。
「何だよ?」
「いや、別に?」
「?」
「幼馴染ってのも、難儀なもんだよなァ」
木村の言っていることはよくわからないが。
……確かに、幼馴染ってのは、距離が近すぎてよろしくない。




