02 心が見えない
――坂本大翔と清水由紀の場合②――
人が考えていることはよくわからない。
「清水! 頼みがある!」
昼休み、お弁当を取り出そうとしたところで、隣の席の坂本くんが私に向かって声をかけてきた。
「何?」
「勉強付き合って!」
「へ、何で」
「ほら、あっという間に中間試験だろ? 早めに対策しとこうと」
「えー面倒くさい」
「なっ、そんなこと言うなよ!」
お弁当を取り出して、ふたを開ける。
おお、今日は私の好きなから揚げだ。ひゃっほい、お母さんありがとう。
顔にはあまり出さずに喜んでから、いただきます、と手を合わせた。
「頼むってー」
「いや、坂本くんだって頭悪くないんだから対策とかしなくてよくない?」
事実。
坂本くんは授業中よく居眠りをしているけれど、漢字テストとか英単語テストとかでは毎回ほぼ満点を取っているのだ。
解せぬ。授業聞いてなくて頭いいとか本当解せぬ。
「いやいや、中間とか無理、テスト範囲広がったら無理、覚えらんねーもん」
「あれか、漢字テストは覚えるところが少ないから暗記できるとかそういう」
「それだ」
「それこそ早くから対策しても忘れちゃうんじゃないだろうか」
「そんなこと言うなよ!」
坂本くんはコンビニで買ってきたらしいパンをカバンから取り出して、もぐもぐと食べ始めた。
そして食べながら私の方を向いて、なおも話す。
「だからこう、早いうちから着実に記憶を蓄積してだな……」
「お、えらい」
「だろ!」
「でもそれなら一人でも大丈夫だと思う」
「俺一人じゃ集中力もたねーもん! すぐゲームしちまう」
「それはドンマイ」
「だからさぁ清水! 勉強付き合ってくれよ、一緒に成績伸ばそうぜ!」
「誘い文句が塾のようだなぁ」
思わずため息をつけば、坂本くんはキラキラとした目で私を見ている。
期待されている。ものすごく期待されている。
「清水が勉強付き合ってくれたら、俺めっちゃ頑張れると思うんだけどなぁー」
「え、なんで」
「なっ、何でってそりゃ、ほら、清水って教えるのうまそうだし!」
「うまくないよ、たぶん教えるのは村上くんとかの方がうまいと思うよ」
「あいつの顔見てたら眠くなる」
「その言い方は村上くんが可哀相だ」
ちらり、村上くんの方を見たら、ものすごく目を逸らされた。
ああっ、なんか悲しい!
「村上なんかどうでもいいって、だから勉強付き合ってくれよ!」
「いや、だってそもそもなんで私なの」
「何でって……ああっ、もう!」
坂本くんは苛立ったように自分の膝を叩いてから、がっくりと机に突っ伏した。
どうしたのかと顔を覗き込めば、ちらり、目が合って。
「……鈍感」
ぽつり、小さくつぶやかれた言葉の意味は、私にはよくわからなかった。