05 問題発言です
――高橋東馬と前田彩香の場合⑤――
本当に、どうしたらいいかわからない。
「……花、少し減った?」
梅雨のある日のこと。
傘を差しながら花壇の様子を見に来た私の横に、いつの間にか高橋先輩がいた。
一時期、少し気まずい時期はあったけれど、最近は高橋先輩といてもモヤモヤしなくなってきた。
慣れたのか、馴染んだのか、マヒしたのか、分からないけれど。
「ああ、少し間引いたんですよ」
「えっ、何で?」
「梅雨対策です」
「梅雨対策?」
きょとんと首を傾げる高橋先輩。
「簡単に言えば、水捌けとか風通しをよくするための策です」
「へえ。このわらも?」
高橋先輩が、そう言って花壇の中を指さす。
「そんなとこです。あと、土が雨で跳ねて葉っぱの裏に着くのを防ぐ的な対策でもあります」
「そんな対策も必要なんだ」
「そうなんですよ。病気の原因になってしまうので」
「ふうん」
珍しそうに、花壇の土の上に敷かれた藁を眺める高橋先輩。
それから私の方を向いて、小さく首を傾げた。
「でもこれ、下の土とか渇いちゃったりしないの?」
「大丈夫ですよ。そのあたりを調節するためのカバーですから」
花壇のそばにしゃがんだら、高橋先輩も私の隣にしゃがむ。
「たくさん雨が降って、土が水を含み過ぎちゃうと、根腐れしてしまいますので」
「ねぐされ」
「根っ子が腐って花が枯れてしまうんです。そうならないように、土があまり水を含みすぎないように、こういう対策なんです」
「へえー……」
感心したように私の話を聞いてくれる高橋先輩。
なんだか嬉しくなってきて、聞かれてもいないのに口を開く。
「それだけじゃないんですよ!」
「は、はい」
「ちなみにこれマルチングって言うんですけど、こうやってカバーしておくと夏場の地面の乾燥も防いでくれるんですよ!」
「なるほど」
「あと、梅雨の晴れ間って意外と日差しが強くて、花が蒸れて傷んじゃったりするんで、そうならないように間引いたりとか、梅雨対策は意外と大変なんですよ!」
そこまで話して高橋先輩の顔を見たら、何故かニコニコと楽しそうな顔で私を見ていた。
「……何を笑ってるんです?」
「なんか、花の話をしてるときの前田さんって、表情からもう楽しそうでイキイキしてて」
高橋先輩はいつも通りの笑顔のまま、いつも通りの口調で、言い放った。
「前田さんのそういうとこ、好きだな」
開いた口がふさがらなかった、一瞬。
急激に体温が上がるまでに、数瞬。
「な、何言ってるんですか! 恥ずかしいこと言わないでくださいよ! バカ!」
「え、あっ、ちょっと待って」
恥ずかしくなって逃げ出して、気が付いたらもう帰り道だった。
「……どうしよう」
せめて、真意を聞いてから逃げればよかった。
また、明日からどんな顔をすればいいのやら。




