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セイレン党組曲  作者: くつぎ
Case03~正直な彼と照れ屋な彼女~
17/70

05 問題発言です

 ――高橋東馬と前田彩香の場合⑤――


 本当に、どうしたらいいかわからない。


「……花、少し減った?」


 梅雨のある日のこと。

 傘を差しながら花壇の様子を見に来た私の横に、いつの間にか高橋先輩がいた。


 一時期、少し気まずい時期はあったけれど、最近は高橋先輩といてもモヤモヤしなくなってきた。

 慣れたのか、馴染んだのか、マヒしたのか、分からないけれど。


「ああ、少し間引いたんですよ」

「えっ、何で?」

「梅雨対策です」

「梅雨対策?」


 きょとんと首を傾げる高橋先輩。


「簡単に言えば、水捌けとか風通しをよくするための策です」

「へえ。このわらも?」


 高橋先輩が、そう言って花壇の中を指さす。


「そんなとこです。あと、土が雨で跳ねて葉っぱの裏に着くのを防ぐ的な対策でもあります」

「そんな対策も必要なんだ」

「そうなんですよ。病気の原因になってしまうので」

「ふうん」


 珍しそうに、花壇の土の上に敷かれた藁を眺める高橋先輩。

 それから私の方を向いて、小さく首を傾げた。


「でもこれ、下の土とか渇いちゃったりしないの?」

「大丈夫ですよ。そのあたりを調節するためのカバーですから」


 花壇のそばにしゃがんだら、高橋先輩も私の隣にしゃがむ。


「たくさん雨が降って、土が水を含み過ぎちゃうと、根腐れしてしまいますので」

「ねぐされ」

「根っ子が腐って花が枯れてしまうんです。そうならないように、土があまり水を含みすぎないように、こういう対策なんです」

「へえー……」


 感心したように私の話を聞いてくれる高橋先輩。

 なんだか嬉しくなってきて、聞かれてもいないのに口を開く。


「それだけじゃないんですよ!」

「は、はい」

「ちなみにこれマルチングって言うんですけど、こうやってカバーしておくと夏場の地面の乾燥も防いでくれるんですよ!」

「なるほど」

「あと、梅雨の晴れ間って意外と日差しが強くて、花が蒸れて傷んじゃったりするんで、そうならないように間引いたりとか、梅雨対策は意外と大変なんですよ!」


 そこまで話して高橋先輩の顔を見たら、何故かニコニコと楽しそうな顔で私を見ていた。


「……何を笑ってるんです?」

「なんか、花の話をしてるときの前田さんって、表情からもう楽しそうでイキイキしてて」


 高橋先輩はいつも通りの笑顔のまま、いつも通りの口調で、言い放った。


「前田さんのそういうとこ、好きだな」


 開いた口がふさがらなかった、一瞬。

 急激に体温が上がるまでに、数瞬。


「な、何言ってるんですか! 恥ずかしいこと言わないでくださいよ! バカ!」

「え、あっ、ちょっと待って」


 恥ずかしくなって逃げ出して、気が付いたらもう帰り道だった。


「……どうしよう」


 せめて、真意を聞いてから逃げればよかった。

 また、明日からどんな顔をすればいいのやら。


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