04 やつれた横顔
――高橋東馬と前田彩香の場合④――
珍しいこともあったものだ。
「おはよう、前田さん!」
「……おはようございます」
中間テストが始まる日の朝。
登校中に見えた後姿に声をかけると、げっそりした前田さんが振り向いた。
え、可愛くない。
「どうしたの、なんか可愛くない顔になってるけど」
「言われなくても分かってますよ」
はぁぁ、などという深いため息。
魂まで抜けていきそうなレベルだ。というか今、たぶん少しだけ抜けた。
「もしかしてテスト勉強で寝てないとか?」
「いえ、テスト勉強は早めに切り上げました」
「あれ?」
じゃあどうして前田さんはこんなに死にそうな顔をしているんだろう。
「睡眠不足の方がまずいと思って早目に寝ようと布団に入りまして」
「うん」
「しかし不安でなかなか寝られず」
「う、うん」
「気が付けば日付は変わり……空は白み始め……」
「ああ……うん」
早く寝ようとしたのに徹夜になったのか。
何それ、ナイーブ。
「前田さんって意外と繊細なんだね」
「意外とって失礼です」
「ああ、ごめん」
いつも以上に不機嫌そうだ。もはや前科数犯みたいな顔をしている。
口に出そうになって、とりあえず口をつぐんだ。
言ってしまったらもっと不機嫌になる。それは避けねば。
「あ、そうだ」
「?」
そう言えば、と思い出して鞄を探る。
取り出したのは、封筒。手頃なのがこれしかなかったもんで、味気ない茶封筒だけれど。
「はい、これ」
「何ですか」
「花壇の写真。いつか渡そうと思ってたんだけど、ついつい忘れちゃって」
「はあ……ありがとうございます」
前田さんは怪訝そうな顔で礼を言いつつ、封筒から写真を取り出した。
歩きながら見るのは危ないと思うのだけど、まあそれは僕が気を付けておけばいいか。
「こうして見ると綺麗ですね」
「いつだって綺麗だよ」
「……ありがとうございます」
少しだけ照れ臭そうにそう言って、前田さんは写真をめくっていく。
「それで少しでも心が落ち着けばいいんだけど」
「ずいぶん落ち着いた気がします」
「それならよかった」
顔を見てみれば、さっきより表情が穏やかになったような気がする。
相変わらず、目の下のクマは酷いことになっているけれど。
よかったよかった。……とか思っていたら。
「……ちょっと待ってください、先輩」
「えっ、何?」
「何でこんなものまで現像してるんですか!」
顔を真っ赤にした前田さんが、僕に向かって写真を突きつけてきた。
そこに写っているのは、前田さんの笑顔。
本人の表情とのギャップがひどい。……じゃなくて。
「ああっ、ごめん! 可愛かったんで現像しちゃった」
「先輩のばかぁぁあ!」
ま、まあ、前田さんが元気になったならよかった、かな?




