01 放課後の花壇
――高橋東馬と前田彩香の場合①――
さて、今日も楽しくいきましょう。
放課後の中庭に、今日もじょうろを持って訪れる。
先輩たちの卒業によって、今年の園芸部は私しか部員がいない状態になってしまった。このままでは廃部の危機である、それは大変まずい。
「ポスター……あるいは呼びかけ……」
じょうろに水をくみながら、新入部員確保のための計画を練る。
ポスターをつくるにしても、呼びかけるにしても、どういう風に言えば人が来てくれるのか。
その点を考えると、私は口下手だし語彙力もあまりないし…なんて後ろ向きな考えばかりが浮かんで、思わずため息をついた。
「やめよう、やめよう。笑顔、笑顔」
植物というのは、人間の言葉や気持ちがわかるらしい。
毎日笑顔で「綺麗だね」と声をかければ綺麗に育つし、投げやりに育てれば投げやりな形になるらしいし。
テンションあげて育てないと、花もテンションあがらないよ。
今年の春に卒業した先輩が言っていたそんな言葉が、妙に頭に残っている。
「今日も綺麗だね~。元気に育ってね~」
そんなことをぽつぽつと呟きながら、水を撒く。
そうすると、なんだか花も笑っているように見えてくるから、人間って不思議だ。
ゆるんだ顔で水を撒いていたら、不意に。
カシャ。
不穏な音が聞こえて、思わず顔を上げる。
花壇を挟んだ向かい側、こちらにカメラを向ける男子生徒が、そこにいた。
「~~っ、!?」
思わず身構えて後ずされば、その人はぱっと顔をあげて、申し訳なさそうに笑った。
「ああっ、驚かせてごめん! あんまりにも綺麗だったんでつい」
「き、きれい!?」
「花が」
「……」
ああ、うん、ですよね。
一瞬でも自分のことかと思ってしまった自意識過剰具合に嫌気がさした。
「ここの花、君が世話をしているの?」
「ま、まあ、一応」
「すごいね」
もう一度カメラを構えて、その人はまた花の写真を撮る。
なんだか恥ずかしくて、だけど私の育てた花を気に入ってくれた人がいたということが嬉しくて、また少しだけ顔がゆるんだ。
「もしよかったらなんだけど、これからもここの花の写真、撮らせてもらってもいいかな?」
「え」
笑顔でそんなことを言うその人に、思わず身構える。
するとその人は、ああ、と何かに気付いたような顔をしてから、言った。
「ああ、名乗ってなかったね。僕、三年の高橋。写真部なんだ」
「え、あ……二年の前田です、園芸部」
「よろしく、前田さん!」
にっこり、優しそうな笑顔のその人…高橋先輩は、そう言って私の方に手を差し出した。
その手を握り返そうとして、引っ込める。きょとんと不思議そうな顔をする先輩から目を逸らして、言った。
「手、ぬれてるんで…」
じょうろに水をくむときに濡れてしまった手をゆらゆらと揺らして見せたら、先輩はまた笑った。
どうしてだろう。
さっきより、花がキラキラして見える。




