長靴を履いた猫
イットさんが出て行ってドレリーも部屋から出た後、侍女達さんがすごかった。トリップ王道の有無も言わせない勢いで、私の気色ばんでいたナイトガウンに着替えさせ、ベットに横になった。でも眠気が全然こないので、天井を見ていた。侍女達さんも私が眠っていないのを知っているようだけど「、隣の部屋に待機しているのでいつでも声を掛けて下さい」と出た。
どれくらい時間がたったんだろう。今の私は、感覚も鈍っている。ドアのノックの音が聞こえて返事をする。ドアが開いて、ユートが入って来た。ユートが大きくなっている。
三カ月でこんなに大きくなるものなの?
絶対百八十五センチは越えている。ユートの後にドレリーも入って来た。ユートとドレリーの背が、ほぼ同じくらいかも。少しドレリーが高いくらいかな。
「けーこ」
(ユートだ!)
私は、急にうれしくなり急いで体を起こした。ユートは、私のベットに腰を下ろし、両手で私の頬に手を触れ私の顔を覗く。
「ユート」
ユートの両手は、前も農作業でゴツゴツしていたけど今は剣だこがある。
「けーこは、再会する度に傷を付ける」
これは、私のせいじゃないのに。ちょっと、むっとする。これは、不可抗力。
「これじゃ、一人にしておけないじゃないか」
急に目元から涙が溢れる。「ユート」私は、ユートの名前を何度も呼びながらユートの胸で泣いた。なぜなんだろう。ユートは、年下の弟だけど兄の様で、ユートといると心が落ち着く。
恋を知らない私には、はっきり言えないけどこれは恋じゃないと分かる。いつか読んだ小説に書いていた、魂の片割れというものかもしれないけど私には、分からない。どれくらい泣いたの?
かなり泣いたと思う。
「クムリン様に事情は聞いたけど、どうしたの?」
ユートは、私が話さなくても私の気持ちをよく分かってくれる。あえて私に聞いtのは今の私が言葉にしないと、心がダメになることを知っているからかもしれない。
「あのね。スクレル子爵の女の人に、汚いって言われたの」
しゃっくりしながら話す。自分でも何を言っているのか分からなかったけど、ユートはただ「うん」と、頷いてくれた。
「あのね、庶民はお店で服を買えないの。私、お金きちんと持っているよ」
「うん、そうだね。けーこは、お金持ちだよ。下手したら、けーこの方がお金持ちかもね。将来は絶対そうなるけどね。その貴族が間違っているよ。
庶民の買い物出来ない店なんて、そんな店は、大したことないさ。他のいい店で買い物したら良い。今度、一緒に買い物に行こう。けーこは、綺麗だよ。容姿も立ち振る舞いも綺麗だし、髪もまっすぐでつやつや。
週に一で髪に卵つけているのも知っているよ。一日一回は、体を薔薇の石鹸で洗ってるのも、知っているよ。けーこはいつも薔薇のいい匂いがして、肌はすべすべでずっと抱いていたくなる」
ちょっと待って! 今なんかあやしげなこと言わなかった?
「えっ、うそ。私が卵を週に一回盗んでいたの、ばれてた? もしかして、皆知ってたりする?」
「ああ、皆、知っているよ。けーこのすることは、皆、珍しくて真似するんだよ。院の女の子達は、皆、真似をしていて、ヨネさんも卵のおかけで髪の毛がつやつやになったって喜んでいたよ。
マイ町でもこれ流行りつつあって、卵の値段少し上がった。石鹸に薔薇を入れた時は、皆驚いていたけど、けーこがいつもいい匂いがするから、皆が真似をして薔薇の花が無くなった。
薔薇の花びらがないって大騒動したの覚えている?
ヨネさんがけーこ以外は薔薇の石鹸を作るの禁止にしたんだ。でも、来年は薔薇の石鹸を大量生産するから、苗木をたくさん植えた。薔薇の苗木を植えたの、覚えている?」
「うん……」
「ヨネさんがベアーさんに相談して、けーこの名義で薔薇石鹸の特許を取ったらしいよ。販売は、ベアーさんの所で来年から始まるよ。
けーこに話すと、特許なんていいとか言うだろうから、けーこには秘密にしていたんだ。きっと、近いうちに言うつもりだったと思うよ」
きゃー、泥棒がバレてた。恥ずかしい。ヨネさんになんて言おう。秋に孤児院の隣に沢山の薔薇を植えたの、はそんな理由だったんだ。私は来年の春から秋の始まりまで咲きつずける薔薇を想像して、はりきって作業をしていたの。
「別に特許のことはいいよ。ヨネさんは、私のお母さんだから好きなようにしていいよ。ユートも匂いのある石鹸欲しい?」
ユートがきょっとんとした。こんな時は年下。
「いや、僕が薔薇の香りなんて変だし……」
「ううん。薔薇じゃなくて他の香り。えーとね。今度はハチミツ石鹸とかミルク石鹸、草の入った石鹸とかショウガ入り石鹸とオレンジの皮石鹸とか後いろいろな花で石鹸を作ろうと思っているの。
髪の毛にも髪の毛専用の液体石鹸を作りたい。卵だと匂いが気になって石鹸で二度洗いになってしまうでしょう。ユートには、まきばのような草の匂いがいいな。
あとね、ソニには、ラベンダーの匂いと思っていたけどパン屋さんで働いているからミルクの石鹸。あとね、ヨネさんはオレンジの石鹸でリラがね、レモンの葉っぱで石鹸でね。
あのね。それでね。私、皆に会いたいの。会いたいの。たった一週間だけど一度家族を失ってからね、いつまた皆に会えなくなるかと思うと寂しくて怖くなるの……」
こんな私を他の人が見たら異常だと思うかもしれないけど、普通の生活を、突然、失くしたことのある私はまた明日普通の生活が来ると思えない。また涙が出てきた。ユートが私も抱きしめて、肩下までに伸びた私の真っ直ぐな髪を左指で撫でる。
「ねえ、どうして人は、身分で人の価値を決めるの。貴族の人が怖いの。王様や王家の偉い人に会うのが怖くなったの。皆、私のことバカにする?
それとね、ドレリーと居ると女の人に睨まれるの。えとね、本当わね、ユートと町に行く時にね、たまに女の子達に睨まれた。ユートと買い物行く時、また、睨まれるかな?」
その時の私は、部屋にドレリーが居ることを忘れていた。
「僕だって、けーこといると、ヤロー共に睨まれるよ」
「なにそれ。気のせいよ。それより、ヤローって言葉使い汚くなっているよ。ヨネさんに怒られるよ」
「騎士寮なんて、男ばっかりで、皆こんな話方だよ。それより、たまたま、けーこが会ったその貴族の人が意地悪な人だったとして他の貴族を一緒にするなんて、けーこらしくない。
クムリン様や、イット様や、侍女の人達は嫌な人だったかい?
それに王様も王妃様、王家の人達は身分差別などするような人達じゃないよ。そうじゃないと、僕は、この国のために騎士なんてならないよ。もし何かされたら、僕に言って。僕が成敗する」
そうだよね。思いっきり泣いたせいなのかユートと話したせいなのか、理性が戻った頭で考えれば普通、分かる亊。
「うん、そうだね。でも、ユート、成敗って。あはは。成敗って。私を傷付けた相手を本当に成敗するの?」
「もちろん」
ユートは、若い。そんなの無理なのに。でも、心が温かくなる。うれしい。
「ありがとう。ユート。頼りにするね」
私は、ユートから離れてユートの顔を見た。顔が真っ赤になっている。可愛い。
「ユート。王様、後宮とか持っている?」
ユートがまたキョトンとした顔をする。うん、少年顔で可愛い。
「なんで?」
「えとね、女の争いとかお世継ぎ争いとか、権力争いとか毒とか暗殺とか、そんなやばいものが渦巻いていたら嫌だと思って」
「はっはっはー。けーこってよくそんな亊思い付くよね。どこにそんなに想像力を隠しているのかいつも感心させられるよ。さっきの石鹸といい。そうそう、さっきの石鹸の案はすぐ僕からヨネさんに手紙で書いとくよ。
特許問題とかあるからね。まさか、皆のために違う香りを想像しているとは思わなかったよ。でも、それぞれの個性を見ていてくれてうれしいよ。うん、そうだね。この国には後宮とか跡継ぎ問題は無いよ。
隣国のスイ国は、後宮があって五年前の王位争いがあった。まだいろいろごたごたしているけどカイライ国が仲裁して、今は落ち着いている。それで、この国には、王妃様もお一人で王子がお二人で、それぞれ奥様が居てお子様がいるよ。王女様はお一人いて確か十四歳だ。
この国は、基本的には一夫一妻制度だけど例外もある。貴族とか結婚して一年した後、跡継ぎが出来ない場合は、二人目の妻を娶っていい。でも、その場合は始めの妻が離婚を拒否したら離婚が出来ないまま二人目を娶って、妻が離婚を要請したら慰謝料とか渡して国の調査の後別れられる。貴族以外でも裕福な家では、たまにあるらしい。でも、僕は、一人の妻を子供が出来なくても愛する」
いやーよかった。王様は、大きな子供が居るいい王様でよかった。異世界トリップ王道の、王様に気に入られて後宮入りして異世界大奥の道が塞がった。それと王子に気に入られて身分云々とかで、身分差の困難な壁をを乗り越えて結婚なんていうフラグも全部なくなった。