千夜一夜物語
私は、『千夜一夜物語~シャハリヤール王と弟シャハザマーン王との物語 ~』の話をした。もし話をしなくなったら、少女のように殺されるのでは?となぜか思う自分がいる。
「流石だな。ミトレ公爵婦人へ後で褒美を与える」
王様がそう言ったので、私は椅子を降りて礼をする。話をしている時にサイラックさんが一生懸命書いているのが見えた。王女が悔しそうな顔をしている。
「今日、みんなを呼んだのは、我が国の重大なことを知らせるためだ。我が国が経営していた孤児院だが、虐待と人身売買の事実が分かった。これは前、話てその運営を任せていたスクレル元子爵、及びモーレット元男爵は牢へ入れたが、何者かによってスクレル元子爵は脱獄をし、その折モーレット元男爵は殺害された」
私は息を飲む。周りでも何人かの人が息を飲む音がする。あのちびハゲが脱獄をしたのは、知っていたけどバレンシアの兄が死んだのは知らなかった。
「スクレル元子爵は、我が国の貴族を誘拐をした。彼はスイ国へその貴族を売る予定だったが、彼は崖から落ちて死んだ……」
誘拐をした貴族と言った時に何人かの人が私の方を見たけど、その後「あっ」と言葉を吐いたあのスクレル元子爵の娘を見ている。私も彼女を見たら顔を真っ赤にして、手に拳を作りブルブル奮えている。
「彼は孤児院の子供達をスイ国へ連れて行き、人身売買をしていた」
「貴様!」
王様がそう言うと何人かの人達が、スクレル元子爵の娘に殴りかかろうとした所を壁に待機している兵士に止められた。この怒り出した人達が人身売買に怒ったのか、それとも自国の誇りのために怒り出したのか分からない。でも、この国の人は根本的に優しい人達が多いので前者だと思う。
「静まれ! スイ国で、この人身売買をしている組織が分かった!」
「……!?」
周りがまたシーンとして、王様の言葉を一つでも聞き逃さないようにしている。
「スイ国第九王女の母君の実家だ!」
「……ひっ! う、嘘でございます!」
王女が王様の前へ出て言うが、「黙れ」と王様が言うと王女はそれ以上何も言わなった。それほど、王様の顔が怖かった。
「その仲買は、クソッテ神官!」
「っひい~!?」
クソッテ神官の周りの人が、彼から離れて行くので彼がここからでも見ることができた。彼は相変わらずキモい顔なのに、さらにキモい顔をしてその場に座り込んでしまった。
「神官がなんと言う行為。これでディランド神が怒りをこの国に与えないように祈らなければいけない。ジョウイ神官、この責任をしっかり神官内でも受け止めよ!!」
ジョウイ神官が人ごみの中から前に出て来て、王様の前で跪いた。
「っは! この度のこと、まことに申し訳ありませんでした。このことは神官達の罪としてしっかり罰します」
王女はいつの間にかスクレル元子爵の娘の横に行って何か耳元で呟いているけど、皆は神官を見ていたので誰も彼女達を見ていなかった。
「王女は、スイ国の僻地の古城に永久監禁にする」
「そ、それは、いくらカイライ国王でも、他国の王族に対して裁きは出来ませんわ。そ、それにわたしの母の親族が勝手にしたことで、わたくしには何も関係ありませんわ。それより、わたくしは、もうこの国での用が済みましたので国へ帰らせて頂きます」
王女はそう言って軽く礼をして、その場を離れようとしたら何人かの兵士が王女を囲んで、王女をまた王様の前へ連れて行った。その間に王女が「わたくしへの仕打ちで、我がスイ国王がお怒りになって、また戦争がはじまります!」とか叫んでいた。
「王女。黙れ」
王様が続けて言う。
「皆の者に紹介したい方がおる。私の横に居るのは、名前は『カラクッチ=スイ』スイ国の第八王子だ。スイ国王の代理でここにいる」
「……!!」
王女が王様の言葉を聞いて口を両手で抑える。
「私の名は、『カラクッチ=スイ』スイ国の第八王子だ。今回の件は、この第九王女と母親とその親族が勝手にしたこと。我が国もこんなことがあり、スイ国王も心をかなり痛めている。我が国もこの件に関わった全ての者を徹底的に裁くことを誓う。
そして売られた者達を救い出して、その後の世話をすることを誓う。まず初めに王女は決して監禁地から出られないようにする!
スクレル元子爵の娘を王女の世話役にして、彼女が会話をする唯一の者とする。我が国の僻地は年中寒く、とても人が住める所じゃない!
そこに二人を一生入れる。スクレル元子爵の娘の裁きは、すでにカイライ国王の許可を取っている」
カルメンが淡々と言う。あの優しい歌を歌う面影が、今はなかった。カルメンが遠い人に見える。
「
う、嘘よ。あ、あなたが、王子なんてありえないわ。確か第八王子は失踪して死んだはずよ」
王女が叫だ。
「彼は、確かにスイ国第八王子だ。王女とスクレル元子爵の娘を地下の牢へ入れろ!」
『パチーン』
兵士が動く前にいつの間にか王女が勢いよく私の所へ駆け寄って来て私の頬っぺに平手を打った。頬っぺたに平手をうけても、決してお星様が目の前で回らないと知った。やっぱり、あれは漫画の中だけだよ。
「けーこ、だ、大丈夫ですか?」
ドレリーが私を支えて聞く。どうして皆はこんな時に「大丈夫?」と聞くのだろう? ハッキリ言って、見て分かりませんか?と聞きたくなる。「大丈夫じゃない! 頬っぺがジンジンして痛い! 頭も痛い!」と言いたい。でも言えない。絶対怪我をした人達は、心の中でこんな風にブツブツ言っていると思うよ。
ドレリーが咄嗟に私の前に立って、兵士に取り押さえられた王女に立ち向かう。ドレリーは、きっとすごい顔をしていると思うよ。私は頬っぺを抑えて、床を向いて心の中で文句をタラタラ言っていた。よかった、これがサトラレだったら、皆一斉に引いていただろう。私もよくここまで文句を言えると思う。これは所謂、今までの文句だよね。そうだよね!
『ブス』きっと表現するのだったら、『グサ』だと思うけどなぜか『ブス』と聞こえた。私の目の前に、顔の引き攣ったスクレル元子爵の娘がいる。彼女の胸の辺りに私の顔がある。この際、決して彼女の胸の大きさが羨ましいなんて、思ってないからね!
「……い、いたい」
私の胸の辺りが燃え上がるように痛かった。
「きゃー」
これは一体誰の声。パトリーの声?
「か、けーこー!」
後ろを振り向いたドレリーが、叫ぶ。私の倒れて行く体をドレリーが受け止めた。わ、わたし、て、手足に力が入らない。め、目が……目を開けていることも難しい。目から涙が零れて行く。嫌だ、この涙止まって欲しい。じゃないと、私はドレリーの顔を見れないじゃない、
「い、嫌だ! け、けーこ、嫌だ! だ、誰かイット様を呼べー。よんで、くれ。け、けーこ、大丈夫だ。お願いだから死ぬな……」
どうしてこんな時まで、テンプレ台詞を聞かないといけないのだろう。それより意識がぼーとするし、痛い……。痛さより、私はドレリーに伝えないと……もう少しだけ、我慢だよ。
「ど、どれりー。あいしてる……」
よかった。言葉を話すのがダルかったけど、最後に彼に伝えることが出来た。
「けーこ。けーこ、僕も君を愛している。だから、逝くな。お願いだ……」
ドレリーに愛していると言われて幸せな気分になった。もう胸の痛みを感じない。
「いやだ、けーこ、愛している。あいしているー、で、ディランド神。僕の命を代わりに持っていってくれよ。お、お願いだ。お願いします」
ドレリーのアメジスト色の宝石が涙でキラキラしている。ずっと彼の目を見たい。ドレリーの目から、温かい宝石の雨が私の顔に零れてくる。ねえ、ドレリー、もう一度、最後にキスをして、お願い……。そう、ディランド。私は、また会えるの?
「けーこちゃんを見せろ!」
イットおじさんの声が聞こえる。私はさっきから息をはあはあしているけど、それも段々ダルくなっている。遠くからいろんな人の声がする。サイラックさん、パトリー、テモテシ、王様や女王様。あ~、私はいろんな人と出会ったと実感する。そしてこの世界が好きだった。
「けーこ、愛している」
ドレリーの声を最後に聞いて、私の世界が真っ黒になった。
(眠り姫 眠り姫は寝ているだけ。
私は死んだから、王子のキスでは起きれない。)




