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my tale  作者: Shiki
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千夜一夜物語

 私達が王都に七日で着いた。サリーとエネットと私には、ずっと馬に乗っていることが出来ずに何度も休憩をして戻った。途中の町や村で何度も休む。もちろん夜は野宿じゃなくて、宿に滞在した。エネットは初めはいろいろなことに対して驚きの悲鳴を上げていたけど、旅の日にちが経つにつれ何も言わない。でもサイラックさんが私達に服を買ってくれた時。普通の町娘の恰好だけど、とても喜んでいた。


 夕焼けが見える頃、私達は我が家へ初めに行った。我が家を見てほっとする。もちろんサイラックさんとユートとリュウーヒ以外はお城へ戻る。軍といるとの村や町を通る度に、人々がお辞儀をされられた。恥ずかしかった。もう二度とゴメン。


 我が家を見たエネットがその場に固まった。そんなエネットをリュウーヒが押して家の中へ入る。リュウーヒに触られて、さらにエネットが固まる。せめて、口を閉じて固まって欲しかった。女の子なのに可愛くない顔をしていて、可哀想。


 家の中から、使用人達が出て来て私に抱き付いて「よかった」と言って涙を流している。特に老夫婦の使用人は私を、子供が帰って来たように接する。それを見たエネットがこの使用人を私の両親だと勘違いして挨拶をし始めた。丁寧な挨拶の後に使用人も挨拶をして、この人達が両親じゃないと気付き、また口を開けて固まる。


 部屋に入った後も家の中を見てエネットは固まる。またリュウーヒに押されて、客間へ行く。綺麗なソファーに座れないと言うエネットをリュウーヒが無理や押して座らせる。私も座り、サリーも私の横に座った。使用人によって目の前にお茶が準備をされた。私はそのお茶を飲み、やっと気が抜けてほっとする。サリーもおそるおそるお茶を飲む。私はキョロキョロ周りを見渡しているエネットにお茶を勧めた。


 エネットはビクビクそのお茶を飲んで驚いた顔をする。そして私について聞いてきた。私は説明が面倒だったので、サイラックさんに助けを求めたら私以上に細かい説明をしてくれる。特に公爵と言う階級が王家の次と聞いて、驚きすぎて目が飛び出そうだった。


 公爵だからこんな大きな屋敷に住んでいるんだーと納得をしていた。これで驚いていて、今度本当に公爵館に引越しをした時は、どうなることと思う。


「あ、あの~。ドレリーはいつ帰って来るの?」


 私はさっきからドレリーの姿を探していた。きっと玄関から飛び出して来て私を馬上から降りるのを手伝ってくれるとか、旅の途中にいろいろな感動の再会シーンを考える度に疲れが吹き飛んだ。でも、帰って来てから彼の姿が見えない。


「もう夕方だから仕事から帰って来るころかな?」


 そうよね。もう少しで会える。なんか張り切ってお風呂に入って綺麗な恰好をしたいと思う自分に気付き驚く。


「けーこさん。ミトレ殿は今夜は城に泊まらなくていけません」


 サイラックさんがすまなそうに言った。


「ど、どうして?」


「そ、それはですね。王女の身を守るためです。今はどうしてもその身を守らないといけない状況です」


 サイラックさんには珍しく吃りながら言う。


「っえ! でもそれはドレリーじゃなくても、他の近衛兵にお願いしたらいいんじゃない!?」


 私はサイラックさんの説明に納得いかなくて聞く。


「そう、そうですけど……」


 サイラックさんがリュウーヒを見て黙った。


「けーこ。今はとっても大切な時期で、近衛兵全員で警備している。あのな、あのドレリーの元婚約者を覚えているだろう?」

 リュウーヒが聞いて来たので頷く。どうしてあの女の人を忘れることが出来るのだろう。あの鼻のデカい嫌味な女。人のことを石女と言っていたよね。名前は、確か「バレンシア」そうそうあの男爵の妹。

「うん」



「そうその彼女の兄が、孤児院のことで捕まり牢へ入れられただろう。そのモーレット男爵が何者かに殺害されたんだ。そしてスクレル子爵が脱走。


 それで姪の王女が危ない位置にいて、彼女が国に戻るまでカイライ国は王女の身を確実に守らなければいけない。だから、ドレリーは当分は家に戻れない」


 私はその言葉を聞いて、気持ちが悪くなった。


「だけど明日、城へ行けば旦那に会えるぞ。なんだったら、僕が付いて行くよ。あの侍女達には会いたくないけど、けーこのためなら一緒に城へ行ってやる!」


 リュウーヒがパトリーとテモテシを苦手にしているのを知っているので、そんなにしても私のことを気にしてくれていてうれしくなる。


「ありがとう。リュウーヒ。でも明日はサイラックさんに連れて行ってもらうね。サイラックさんそれでいい?」


 私がサイラックさんに尋ねるとすぐに了解を受けた。


 その後すぐに私は横になった。旅の時から食欲がなく、食べ物の匂いを嗅ぐと吐いてしまった。皆は私が疲労でそんなになっていると言う。私もそう思う。サリーはエネットにお願いする。二人共、旅の間に仲良くなったので二人のことを使用人にお願いした。久しぶりに寝たドレリーとのベットには、ドレリーの匂いも私の匂いもしなかった。一人での寂しい夜だったけど、私はすぐに眠った。


 王都へ戻って来て二日たったお昼に私はサイラックさんとお城へ行った。王様を初めお城の人達が私のことを心配していると言われた。今朝は昨日ほどではないけど、体がダルかった。このダルさは、自分でも異常だと思う。朝食を見ただけでも吐き気がしたけど、周りの人達が心配するのでパンを水と飲んだ。サリーは私が元気がないととても辛そうな顔をする。


 エネットとサリーには気分展開で、今日はトリーの家へ行くように言った。トリーとドレリーのお母様が二人の洋服を準備してくれるらしい。エネットがあの伯爵家に行った時のリアクションを見れないのは、かなり残念。ただでさえ貴族の家だよ。この家でビックリしていたから、あの家はな、七不思議だしね。


 サイラックさんとこうして馬車に乗るのは一体何度目なんだろう。あのキスをして顔を赤らめた時の初々しさが懐かしい。これは人妻になった女の定めか、こうしていい男と馬車に乗ってもなんとも思わなくなっているって、一緒に馬上で相乗りしたしね。もうサイラックさんがお兄ちゃんになってしまった。いかん異世界の逆ハーレム設定はいつの間に消え去ってしまったの?


 ほらこんな時は、恋多く。結婚して旦那に相手にされなくて、結婚前に言い寄られた男にフラリと惹かれると言うのが王道展開でしょうが、私!


 ここはハンサムな夫がボン キュウ パーンの王女と浮気して、隅っこに追いやられる可愛そうな奥さんを演じなければ!


 それこそ読者が大好きな不幸な主人公。童話でも白雪姫やシンデレラ、もうこの手が多い。そして、どうしてトリップや異世界設定は田舎娘やブスや平凡が王家に迎え入れられる設定ばかりなんだろう? って人のことを言ってられない。


 自分もそうだ。って、さっきからまたくだらないことを考えているのは、ドレリーに会うことを考えてドキドキしている。そしてまたお腹も痛いし馬車酔いなのか吐き気がする。よくぞ吐かなかったよ。偉いぞ私。ここで吐いたら、それこそサイラックさんとの甘い不倫なんて消えるかって、する予定無いけどね。


 は~、相変わらずお城は、そっけない砦。夜は絶対来たくないけど、公爵のお仕事で来ないといけない。お城に着いてから、すれ違う人達に何度「無事でよかった。また、話を聞かせて下さいね」と言われたことか。


 なんか私の心配じゃなくて、私のする物語が聞けないことを心配しているのでは? と思う自分がいて嫌になる。昨日から感情がマイナス思考になってる。どうしてなんだろう?


「ねえ、跡取りは必要よ。彼女は幼い体だから、子供なんて無理よ。彼女のためにも私があなたの子供を生んであげる。あなたも私みたいな女性がいいでしょう?」


 サイラックさんがエスコートする腕に右手を絡ませて、うだうだ物事を考えていた私は、王女の声を聞いたので立ち止まった。その声のした方向には、金色の長い髪をした近衛兵に抱きついている王女が、私を見てにやりとした顔をして見ている。私はその男性を知っている。いつも一緒にいた人。


「っ!! ど、ドレリー」


 私の口から微かな声が出る。その小さい呟きも彼には届いた。ドレリーがゆっくり振り向いた。彼の銀色の髪の毛が庭に照らされている太陽の光に反射されてキラキラしている。あんなに会いたかった彼。でも彼の横に王女がもたれかかっている。そんなドレリーに会いたくなかった。


 私は恋人のように抱き合い、そして今寄り添っている二人を見たくなくてその場を逃げ去りたかったのに、隣にいるサイラックさんが許してくれない。さっきまでバカな王道展開と言ってた展開と一緒になってしまった。


 ねえ、ディランド。これもあなたの仕業?


 涙が出てもいいのに、目から何も流れてこない。それくらい驚いているの?


「けーこ」


 ドレリーが隣に寄り添っている王女と私達の前に来た。そんな二人を見て居たくなくて下を見る。ドレリーと王女が横に並ぶと、背丈が釣り合っていてお似合いだ。私とドレリーが並ぶと大人と子供。


「け、けーこ。無事でよかった」


 ドレリーに話かけられてうれしいはずなのに、うれしくない。


「ねえ、あなた今の話を聞いたでしょう。石女は、貴族社会ではよくないの。ましては公爵家よ。跡取りが必要なのよ。あなたは、庶民で公爵家に入るのは間違いだわ。ねえ、私達のことを認めてよ。私とミトレ公爵はここ数日いい関係を築いているの」


「いえ、王女様。そ、それは」


 ドレリーの言葉を王女が切った。


「それに、何より、あなたも誘拐されて、もしかしたら誘拐犯の子供を孕ます可能性もあるしね」


 王女が私のお腹を見て言った。私はすかさずお腹を抑える。ううん、そんなことはない! 私はドレリーを見たら、ドレリーが辛そうな顔で私が手を当てたお腹を見た。


「私は、私は、このお腹の子は私とドレリーの赤ちゃん」


 そう、このお腹の子供はドレリーと私の赤ちゃん。


 痛い。ごめん、気付いてあげれなかった。


「お腹が痛い」


 あそこから生温かい物が流れてくる。それが生理の時より痛く、多くてこれが生理ではないことが分かる。


 私の目から生温かい涙が流れてくる。立っていることが出来ない。ゆっくりと体が倒れる。そして、サイラックさんの私を呼ぶ声が聞こえた。私は床にぶつかることはなかった。サイラックさんの匂いが冷たくなった私の体を包み込む。私の涙で掠れた視界に、ドレリーの驚いた顔があった。


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