青い鳥
『ヒ、ヒッヒーン』『バタバタ、ヒッヒーン』
静寂している森の中なのに、馬の歪めの音と馬の鳴き声が聞こえる。青い鳥が窓から中へ入って来て、私の髪を咥えて外に行くように言う。私達は青い鳥の後に続き外へ出た。
木々の間から、勢い良く馬達がこっちへ向かってくる。サリーが怖がって私の腕を強く握り締める。エネットも恐怖があるようだったけど、興味津々で前方を見ていた。私は青い鳥を信じているので恐怖がない。
先頭の馬が私達の前で止まり、それに習い次々と馬が止まる。煙が止んで、馬上からマントを着けた人達が次々降りて馬を落ち着かせている。先頭の人と何人かは他の人達に馬を任せた後に私達の前に来て、マントの被りを取り顔を晒す。
将軍が私の前で膝をつく。
「将軍!」
「ミトレ公爵婦人。ご無事でなによりでした。この度はこのようなことになり、誠に申し訳ありませんでした」
「こ、公爵婦人?」
エネットが声を裏がえって言った。私はエネットより将軍のことの方が気になって、彼女を無視してしまった。将軍が謝る理由が分からず私は、周りを見渡す。
「サイラックさん? リュウーヒ。ユート!」
私はユートに抱き付きたかったけど、腕にサリーがしがみ付いていたのでできない。
「けーこ、無事だったんだ。よかった」
ユートが私の隣にいるサリーを見た後に、右手をそっと私の頬に添えて私の顔を探るように見て、最後に私の目とユートの目が合う。私達の間には会話は必要ない。
「うん、無事」
「そうだね。でも悲しい思いをさせてしまったね」
私の目から涙が溢れ出す。ユートが隣にいるサリーと反対から私の体を抱き締めて、何度も何度も「もう大丈夫だよ」と言った。私は涙が次々溢れ出した。てっきりサマリーのことで涙が枯れたと思ったのに、まだまだ私の涙の湖は溢れ返っていた。
「本当にけーこは、すぐにいなくなる。お前もっと一ヶ所でじっとしとけ」
リュウーヒが私の髪を撫でて言う。私はユートから離れてリュウーヒを見た。
「俺の部下はお前がいなくなって、もう眠らずけーこを探しているんだぞ。けーこがもっとじっとしていたら、こんなことにならなかったんだぞ。もうアットおじきなんて寝不足で隈が目元に出来て一気に年取ったぞ」
リュウーヒが私の髪を撫でながら言った。そんなことを言うリュウーヒの目元に隈があり、前より疲れて見えるけど相変わらず色気は抜群。
「そうですよ。私達は寝る暇もなく、どれだけ心配したと思うのですか? それよりご無事でなによりです」
サイラックさんの顔に疲労が見えるけど、爽やかさは変わらない。私はユートから離れて、二人を見る。三人とも私を探すのに無理をしたのが分かる。
私は周りの他の人達を見た。何人かの兵士達が馬の世話をしたり、何人かは木に凭れて休憩をしている。私は無意識に彼を探していた。三人に会ってうれしかったけど、私は彼に会いたかった。ドレリーが私のことを心配して、探しに来てくれると思っていたの。
「けーこさん。この方達はどなたですか? 誰がけーこさんの旦那さんですか?」
私達の様子をずっと黙って見ていたエネットが、忍耐が切れて私に聞いてきた。それより何でいきない敬語なんだろう?
「うっ、ううん。ドレリーは、えとね、主人はいない? よね?」
私はユートを見て聞いたらユートが首を振る。答えを知っていたけど、そう改めて言われると悲しくなる。
「そ、そっか」
多分私の悲しみと落胆をサイラックさんは、感知したのだと思う。
「ミトレ公爵は王の命令で、任務を外すことが出来ませんでした。けーこさんがいなくなって、それはそれは、とてもご心配なされていました。今回もご自分で探しにこれなくて、とても嘆いていました」
サイラックさんの言葉で元気になる。そして、また早く王都に戻りたくなる。
「けーこさん、けーこさんは公爵婦人なんですか?」
エネットが聞く。私自身はまだ公爵婦人なんて言うタイトルになれていなく、返事をするのを戸惑う。サイラックさんが優雅にエネットに挨拶をする。
「ええ、そうです。けーこさんは、我が国、カイライ国のミトレ公爵婦人です。そして私はメトニン侯爵の四男でサイラックと申します。お嬢さんは、お名前を教えて頂けませんか?」
「っあ、はい、エネットです!」
エネットがかなり大きな声で言った。
「エネットさん、けーこさんを助けてくれたのですね。お礼を申し上げます」
サイラックさんはエネットの小屋と私の着ている服を見て、彼女にお礼をする。それに見習いユートとリュウーヒとなぜか将軍もエネットに頭を下げた。
「い、いえ、侯爵様。どうしよう。けーこさんが公爵婦人。頭を上げて下さい」
エネットが、いつもお喋りなエネットが焦って言葉を言っている。サイラックさんは侯爵様じゃないのに……。緊張しすぎ。
「けーこを助けてくれてありがとう。僕は彼女の家族で騎士見習いのユートです」
ユートがエネットの前に立ち、騎士の礼をする。
「き、騎士? か、家族?」
「初めまして俺はリュウーヒ。俺はけーこの友人。彼女を救ってくれて礼を言う」
リュウーヒもエネットの前に立ち、頭を下げた。
「か、かっこいいー」
「この度はミトレ公爵婦人を助けてくれて、お礼を申し上げます。このことは王にお伝えします」
将軍がエネットに言って、軍人の礼を取った。
「お、王? 王様?」
もうエネットが頭が混乱しているのが伝わってくるけど、誰も身分のことについて説明しない。彼らにしてみれば、説明する必要もないのだろう。将軍が私に聞く。
「ミトレ公爵婦人。一刻も早く王都に戻りたいので、今すぐに出発出来ますか?」
「エネットも一緒に王都に行くことになったの。エネットは私の家に住むの。エネットがね、私の妹になるの。そしてね、こっちはサリー。サリーも私の妹なの」
みんな一瞬驚いた顔をしたけど、なにか思うふしがあったみたいで何も言わない。
「けーこの妹だったら、僕の妹になるね。僕とけーこは同じ孤児院出身で、他にもたくさん兄弟姉妹がいるんだよ。よろしくね」
ユートがエネットに言った後に、相変わらず私の腕にしがみ付いているサリーの顔の位置に顔を合わせて、ユートがサリーに笑顔で言った。
「こ、孤児院? 公爵婦人は孤児院出身? それより、よろしくお願いします」
エネットが頭を下げる。エネットが不思議に思う疑問盛りだくさんだよね。王都への帰途の間に教えるよ。将軍が私に聞く。
「エネットの家の家畜を近所の家に運んで、この野菜どうする?」
「う~ん、一応今日一日野菜を収穫して、近くの町へ売りに行って収入にするよ」
エネットが辺りを見渡して言った。将軍がエネットに申し訳ないような感じで言う。
「すみません。エネット殿。私共は任務でこうしてここに来ました。それで、この任務はミトレ公爵婦人を一刻も早く王都へ連れ戻すと言うことなので、この野菜を売る時間はありません」
エネットが顔を赤くして、下を向く。
「っあ、はい。で、でも、私、お、お金持って、い、いません」
恥ずかしそうにそう言うエネットが可哀想になり、将軍に蹴りを入れたくなる。
「エネットお金の心配しなくていいよ。王都までの費用は将軍が出してくれるよ」
私は将軍への当てつけで言ったら、将軍が真面目に答える。
「あっ、はい。もちろんです。それはこちらで払う予定でした」
「ほらね。王都に着いても、お金心配いらないよ。だから、畑も家畜も近所のおじさんとおばさんに頼むといいよ」
私の提案でやっとエネットが承諾した。でも、またその後に小屋の中のエネットのお父さんの資料でゴタゴタがあった。これはエネットが無理を言った訳じゃなくて、サイラックさん。サイラックさんはその資料を見て案の定、感動し全部持って行くと言い張った。また後で取りに来たらと将軍が言ったけれど、盗まれるとか風化するとか言って結局はサイラックさんが勝った。
エネットが兵士の一人と近所の家に行っている間に資料を馬車に積み込む。この馬車は私が乗って帰る予定だった物。私達、女性軍の三人はそれぞれの人と馬に相乗りになった。
出発前に今朝洗った服が乾いていたので、それも持って行く。本当はこのエネットに借りた服から着替えたかったけど、エネットが気を悪くするのではと思え、着替えることができなかった。私はディランドのおかげで肌が荒れないけど、サリーは違うのでエネットのいない時に服を交代するように言う。でもサリーは服を替えなかった。サリーは言葉を話さないけど、よく人のことを見ていて敏感。
エネットのいない時にみんなに服のことを聞かれたので、私の答えを聞いて微妙な顔をした。サイラックさんが近くの村に洋服屋があったら、三人に服を買うと言った。その行為を断るエネットにサイラックさんがきちんとまた優しく説明してくれると思う。
馬に乗る時に、サリーが私以外に触れられるのを怖がる。ユートが孤児院で駄々をこねる子供に言い聞かせるようにサリーに理由を言って、私にしがみ付いている彼女を無理やり引っ張って行ってけいに乗せる。ユートもサリーの後ろに座った。初めはカチンコチンになっていたサリーだったけれど、しばらくしてユートへ体を預けている。私はサイラックさんと相乗りした。エネットはリュウーヒと。
エネットの方がサリーよりカチンコチンしていて、旅の間固まっていた。なぜかエネットは後ろに座っていて、馬にしがみ付いている。よくあの体制で馬に乗っていれると何度も旅の間思ったことか。彼女はあんな格好良い人と触れることできないと言っている。別に触れるも何も馬上で相乗りするだけだよ?
もう私なんてサイラックさんに体を預けていた。こうして馬に乗っている相手がドレリーじゃないのが寂しい。
(千夜一夜物語~シャハリヤール王と弟シャハザマーン王との物語 ~
ねえ、私が物語を語らなくなったら、いらなくなるの? それとも、殺されるの?)




