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my tale  作者: Shiki
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幕間(うれしい事)と(嫌な事)たち



「どうして黒姫とカルメン、お前は同じ暗号を知っているのか? それは暗号なんですよね? 確か黒姫は文字を書けないではありませんか?


 かろうじて婚姻の儀式では自分の名前は書いていましたが。でも彼女が文字を読み書きが出来ないと言うことは有名な話です」


 私の言葉を聞いた弟カルメンは、しばらく私の顔を見つめる。この賢い弟と始めて会ったのは確か五年前の父が崩御した時、スイ国が内乱の時にカイライ国へ逃げて来た時。


 かねてから現王のスイ国王から彼のことを聞いていたが、実際に会うとさらに彼が特別な人と分かる。神童と呼ばれていたのに自分の賢さをおごり高ぶらずに、只人々のことだけを思う心根の優しい少年。カルメンは隠そうとしているけど、彼の知識は異常なほどある。


 カルメンと過ごすうちにディランド神が彼に多くの恵みをお与えになったことに嫌でも気付く。彼はディランド神の愛し子だと確信した。愚かな私は一時期、彼を妬んでしまった。今は思う、なんと罪深い行為だったんだと。彼が奏でていた曲を聞いた時に気付いた。私は彼の言うことを全て聞き入れようと。


 あの『アメージンググレース』を聞いた時に、私はこの世に生を受けた意味を知りディランド神の慈悲深さを感じられた。私の生い立ちはあまりいものではないけど、この国の国王やその家族は私に優しい。そして私の弟のスイ国王もカルメンも。私にはスイ国王子の名前があるけど、その名前を今までもこれからも名乗ることはない。


 私はディランド神の慈悲を感じ、それを人々に伝えていける神官の仕事に生きがいを感じているから。私はこのカイライ国で育ったけど、スイ国のことを思う。どの国民もディランド神の民で平等。この教えはディランド神の創世記に載っている。この本を観覧出来るのは、高位神官の者達のみ。私も神官長補佐になった折に観覧を許された。


 このディランド世界は、ディランド神が違う世界の一部を真似して作られたらしい。その違う世界は「地球」と言い、一部の地域に「ヨーロッパ」と言う場所があるらしい。しかし五百年前にその国をお作りされた時は、このディランドの人々は多種の言葉を操っていた。そして多種な神があり、人々は宗教争いと言うものがあったらしい。その中に「ジャンヌ=ダルク」と言う女性の名前も出てくる。


 その女性の歴史によって「魔女」と呼ぶ言葉も出た。ディランド神は争いの嫌いなお方。その歴史を修復することにされた。その折に言葉の統一をなされ、神は創造主は「私は私だ」と言われ、人々の心にはディランド神唯一神のみとなる。だがそんな中にも他の神を作ろうとする輩がいる。


 確かスイ国の第八王女の母方の方にそんな輩が集まっていると聞いている。私はこの王女に先日会う機会があった。その者は私が義兄とは知らず、私のことを身分の卑しい者と見くびっている。その時王女とクソッテ神官との遣り取りが腑に落ちなかったのだが、この黒姫の言葉でやっと訳が分かる。


 まさか私の身の内の者がこれほど、罪深い行いをしていたなんて……。私は一体どのようにこの罪を償えばいいのだろう。まず初めに孤児を売られた孤児を助けなければ。カイライ国王に連絡をしなければ……。


「ジョウイ。今はけーこちゃんのことを言えない。理由を話す時期ではない。只言えることは、彼女はディランド神に愛されている」


 カルメンが小声で言う。私はこの言葉を聞く前から、黒姫が特別なことを知っている。私は彼女の物語を読んだし、何より彼女は創世記の中に出てくる「魔女」の存在は的確に言い当てた。


 私には分からない理由がこの二人の間にあるのだろう。それより二日前にこの手紙を持って来た彼女の顔が忘れられない。とても思い悩んだ顔をしていた理由が分かった。だからすぐにカルメンは連絡をしたのだ。


「ああ分かった。カイライ国王に、このことを包隠さず伝えないといけない」


 カルメンは五年前にカイライ国王に会ったきり、会うことをしない。カルメンもカイライ国王の賢王の前でボロが出て、特別なことを悟られないようにしているのが分かる。やはり賢いと思う。


「ああ。これは一大事だからな」


 カルメンは城に上がって来る時は、どこかの貴族令息の恰好をしていて、今日もそのまま王様の御前へ参っても大丈夫な恰好をしている。


「すみません。ジョウイ神官。実は王様がお呼びです。そしてそちらの方も今すぐに王様の執務室に参られるように連絡が来ました」


 カルメンと私はお互いに顔を見合わせ、その従者の後を付いて王様の執務室へ向う。従者の後に礼をして中へ入る。室内はたくさんの人達がいた。


「よく来た。カラクッチ王子も一緒におられて、助かったぞ」


 机の椅子に座っている王様が、挨拶なしに話始める。ソファーには将軍や近衛長や王様の側近が、何人か座っている。奥の壁に王様の御前だと言うのに、黒姫の旦那のミトレ公爵が行ったり来たり歩いている。壁にはメトニン侯爵の四男のサイラック殿が立っていた。


 彼とは面識がありスイ国との情報の取引をする間柄。確か彼も黒姫の取り巻き。彼の隣にいるのは、リュウーヒ殿とアット殿。この裏社会を牛耳ている黒姫の身内の者達。確か黒姫と同じ孤児院出身の見習い騎士。


 彼とミトレ公爵の黒姫の取り合いは今でも巷では、女性達の恋愛話で有名だ。この面目を見る限り、黒姫についてだと言うことが分かる。王様の隣に立っているイット閣下が聞く。


「ジョウイ神官。二日前にミトレ公爵婦人、けーこがそなたに会いに行ったと言うことは事実かね?」


「はい。その時にカラクッチ王子への手紙を託されました」


 私は元から何もかも王様へ伝える予定でいたので、全てのことを包隠さず話す。ここにはもう言葉の賭け引きはない。


「な、なんて書いていた!? けーこはどこにいるんだ!」


 ミトレ公爵が勢いよく迫ってくる所を、近衛長に止められた。


「ドレリー落ち着け。お前が話すと会話が進まないから大人しく座っておれ」


 近衛長が今まで座っていた席に無理やりミトレ公爵を座らせた。ミトレ公爵はそれを押し退けようとしても両側に座っている将軍と側近に抑えられて動けないでいる。


「そうか。それでその手紙の内容は? それよりその手紙を見せてくれ。どうしてけーこは確か文字が書けないはずだったではないか?」


 やはりこの王様は賢王。カルメンは手紙を王様に渡す。王様はしばらく手紙を見て唸り、隣にいるイット閣下に渡しその後に皆も手紙を見た。みんな奇妙な顔つきになる。


「これは文字なのか? 暗号か?」


 王様が私とカルメンを見て問う。皆の者が一斉にカルメンを見ている。


「私には読むことは出来ません。これはカルメンにしか分かりません」


「この内容をお聞きしたいのでしたら、その文字の理由を聞かないで下さい。どうしますか? 文字の理由を知りたいですか? それともミトレ公爵婦人の手紙を知りたいですか?」


 カルメンの元に手紙が戻り、王様へ聞いた。ジョウイはこのカルメンの態度に驚く。


「文字のことはどうでもいい! 今はけーこの居場所を知りたいのだ。教えてくれ。どうでもいい。けーこの居場所さえ分かればどうでもいいんだ!」


 ソファーに座っているミトレ公爵が叫び立ち上がろうとしたが両側から抑えられる。


「まあ文字のことも気になるが、けーこの居場所を知ることが優先だ。わしはけーこの身の安全を約束したのに、彼女は二日前から行方不明になっておる。それも消えた場所がこの城内ではないか?


 約束も守れない王になってしまうではないか? 暗号のことも気になるが、今は彼女の安全を確保することが第一じゃ」


 王様の言葉でカルメンの肩が震える。ただスイ国の王女が何も関わっていないことをディランド神に祈る。カルメンが私に語った内容と同じことを読んだ。それで、まさにあの手紙の暗号が文字と判明した。カルメンは私に話した同じ言葉を言ったから。やはり黒姫の手紙の内容にみなの者は言葉をなくして絶句している。


「まことか?」


 王が険しい声で聞いた。


「はい。しかしスイ国王及び国の者は、決して人身売買には無関係でございます。王女と王女の実家が勝手にやったことです。スイ国王はこの事実を今も知りません。この問題絶対的な援助をしますので、どうぞスイ国の罪をお許し下さい。お慈悲をお与え下さいませ」


 カルメンが床に跪き頭を床に着けたので、私もカルメンに続いて同じ恰好をした。


【(うれしい事)と(嫌な事)たち


  黒姫が作る話はすべて善と悪、光と影、うれしい事とかなしい事、この世の本来の形を簡単な言葉で人に教えている。やはり彼女は神の使者なのか……。】

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