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my tale  作者: Shiki
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リジーナとネコの家

 トイレに行きたい……。


『ガッタン』


 よかった、チビってない。目が覚めた。ここどこ? 


 上から心配そうに見ている女の人と目が合う。勿忘草。ソニのパン屋さんに来ていたお母さん。隣にあの言葉を話さない娘もいる。


 この子もお母さんと一緒の勿忘草の大きな目で、心配そうに私を見ている。よく見ると二人共綺麗な顔。でも相変わらず顔にあっちこっち青あざがある。勿忘草さんが心配そうに聞く。


「だ、大丈夫ですか?」


 声を出そうとしたけれど、喉が乾いて声が出ない。あっちこっち痛む体を起こして、ベンチに座る。どうやらここは馬車の中らしい。とってもボロくて窓がない。自然現象が、トイレはどこ?


「トーー」


 やっぱり声が出ない。


「あっ、喉が渇きましたね」


 勿忘草さんが容器を渡す。私は瓶のような物から水を飲む。そしてもっとお腹にくる。


「トイレに行きたいです」


 勿忘草さんがハッとした顔をする。


「ごめんなさい。今は馬車は止まりません。あっ、でもすぐに休憩に入るので少し待って下さい」


 勿忘草さんが申し訳なさそうに言う。私はあと一秒でも待てないのに。私は座り方で工夫して我慢する。もう声も出ない。さっき渡された容器をチラッと、いけない考えまでし始めた。もうだめ。もう目が霞む。私頑張ったよ。楽になっていいよね!?


『ガッタン』


 馬車が止まった。まだ我慢できる。馬車のドアが開く。私は勢いよく飛び出そうとしたけれど、あの丸々太ったハゲのオヤジがいた。


(スクレル子爵!)


「ふ~ん。起きたか。丸二日眠っていたから、死んだかと心配していたと所だ」


 えっ、丸二日間眠っていたって? だからこの自然現象は仕方ないよね。


「大切な色持ち。それも黒色。とっても高いお金で売れる」


 ハゲおやじがニヤニヤして、馬車の中に入ってこようとした。


「だ、旦那様。こちらの方はお手洗いに行きたい様子です」


 勿忘草さんが小さい声でハゲおやじに言う。ハゲおやじは初めは怒った顔で、勿忘草さんを見たけど中には入ってこなかった。


「そこで用を済ませろ。もし逃げようとしたら、この娘がどうなるか分かるな?」


 ハゲおやじが勿忘草さんの娘に目線を投げて言った。意味がすぐに分かり、私は頷く。


「早くしろ」


 一番近くにある大きな木の後ろでした。もうギリギリセーフ。ほっとする。私は手を洗うなんて気にしてられないくらい、急いで馬車に戻る。馬車に戻って次に女の子が木の方に行き、最後に勿忘草さんが行った。


 勿忘草さんが戻ってから三人共馬車に入ると、ハゲおやじが怒鳴る。震えた女の子がお母さんの体に抱きつく。


「お前のせいで、わしがどんな目にあったと思っているんだ?


 王女が助けてくれたから逃げられたけど、あのままだったら死刑だ。それにしてもお前っていろんな者に嫌われているな。いつも護衛がいて捕まえることが出来なかったから運がよかった。まさかあの男が手伝いを申し出るとはのう。お前は人様の養子になって全財産の横取り。なんと悪たくみが優れているのう」


 ハゲおやじが声を落として言う。この人の声はかなり不気味。


「もうわしはこの国では生きていけない。全財産もお前のせいでなくなった。妻にも娘にも見放された。だが王女がお前を売ったらその資金を全てわしにくれるとよ。


 ハッハッー。ついでにこいつらも売ろうか。だから貴重なお前達に傷は付けない。やっぱり傷がなければ高く売れるしな。スイ国で競売に賭けられるまで逃げようと考えるなよ。その時は残った者がどうなるか、よ~く考えることだな」


 ハゲおやじは自分の言いたいことだけを言って、馬車のドアを閉める。閉めた時に大きな音がした。それが私達が簡単に開けられないように、板の棒で扉を閉めた。


 馬車はまた走り出す。馬車は窓がないので暗い。ただドアの隙間から少しだけ光が入ってくる。勿忘草さんが女の子の向日葵色ひまわりの髪を優しく撫でている。


「あのー、私の名前はけーこです」


 沈黙が嫌で、自己紹介をする。


「存じてます。この前はこの子のために、優しいお話をありがとうございます」


 勿忘草さんが女の子を見て私に頭を下げた。


「私の名前は、サマリエット。この子は私の娘でサリーエット。十歳です」


 サマリエットが頭を下げたので私も頭を下げる。この国には日本人のように頭を下げる習慣はない。ただ身分の上の者に対しては頭を下げる。


「お願いです。この子が大人になり独り立ちするまで見ていて下さいませんか?」


 私にはサマリエットさんの言うことが、分からない。


「それはどう言うことですか?」


 サマリエットさんの言葉でサリーエットが体を起こして、母を見つめている。


「私はあの子爵様の妾で、この娘は私達の子供です」


 サマリエットさんが息を吐く。


 あのスクレル子爵の令嬢の妹!? そして王女の従妹?


「私は孤児院の出身です。十五歳の時に旦那様の妾にさせられました。そしてすぐにこの子が出来ました」


 私は目の前のサマリエットさんの顔を見る。痣や疲れで気づき難いけど、確かに若く可愛い顔をしている。きっと年齢も二十六歳くらい。


「私が弱いばかりに、娘に辛い毎日。旦那様に暴力を受けて、奥様やお嬢様に虐待されました。何度逃げようとしましたけど無理で、見つけられる度にもっと暴力がひどくなりました。


 もう小さい時から、この子は声を出すことはなくなりました」


 サマリエットさんは虐待の話しをする時は悲しい顔をすることはなかったのに、サリーエットの話をした時に悲しそうにした。


「旦那様はけーこ様以外にも、私達も売るそうです。そしてここは、王都を出てすでに二日たちました。今北の国境に向かっているそうです。

 お願いします。どうぞ、この子を連れて逃げて下さい。私がどうにかします。お願いします」


 サマリエットさんが頭を下げる。彼女にサリーエットが抱き付いた。サリーエットの目から涙が出ているけれど、鳴き声はしない。とっても馬車内は静寂していた。


「どうして、一緒に逃げないのですか?」


「私は今まで自分でなにかをしようと決心したことはありません。流される人生でした。そのせいで、この子を不幸にしてしまいました。でも今私は、自分でする道を見つけました。

 一緒に逃げるのは無理です。私が旦那様を引き止めます。どうぞこの子と一緒に逃げて下さい。私も後で追いかけます」


 サマリットさんの真剣さに押されて頷く。どんなことがあってもサリーエットを守ると約束をした。後でサマリットの本当の計画に気付いた時は、遅かった。遅すぎた。


 サリーエットは気付いていた。お母さんの体を震えながら抱き付いている。最後の命の繋ぎのように。サマリットさんがサリーエットの小さな体を抱き締めて、私に尋ねた。私にこの子に何かお話をして欲しいと。


 私はこの親子に話をする。『リジーナとネコの家』。

 優しい娘の方が幸せになるのは、当たり前。私もこのサリーエットの人生がハッピーエンドで終わって欲しい。


 私が話終えると母親はうれしそうに涙を流しながら、ディランド神があなたをかならず幸せにしてくれると娘に言っていた。


(勿忘草


 スイスの童話 青い花。忘れないよ。私はあなたを忘れることはない。)

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