親指姫
異世界で始めての旅は、始めの一時間は興奮してはしゃいでいたけど、後は田舎の景色か大自然だけで飽きた。馬上は風が気持ちよかったけど、時間が立ち寒くなり、クムリン様の真っ白なマントに図々しく包まる。クムリン様の前に座っているから抱き付く感じで、後は顔をカンガルーの子供が袋から顔を出している状態。
こんな極上な男と密接して、ドキドキする暇もないくらい、お尻の痛みしか考えられない。いつの間にか眠ってしまったようで起きたのは、今夜泊まる宿に付いた時。 クムリン様は私があんまりも熟睡していたので、お昼ご飯で起こすのを止めてそのまま進んだと言って謝る。「ううん、別にいいよ」と伝えた。
私もぐっすり眠れて頭がすっきり、でもお尻や太股と背中が痛い。馬なんて嫌いだ。日本にいた時に趣味は旅行ですとか言っていたけど、ここでは田舎に籠ることですって言う亊にする。
私達が泊まった宿は、結構綺麗な所でお風呂もあった。お風呂はキッチンの隣の小さい部屋にあり、宿の下男が大きな桶にお湯を四杯、部屋にあるタライに入れてお水を一杯入れる。
ドアの外にクムリン様が待機している中、タライに入り持参の石鹸で頭からつま先まで急いで泡の立たない手ぬぐいで洗った。もうお湯がすぐ冷たくなるし、クムリン様を外に待たせているので気になって落ち着いて入れない。日本のお風呂が恋しい。この世界は温泉あるのかな? あったら温泉に入りたい。
孤児にいる時は外が暖かい時は川でお風呂を済ませ、男の子達が見張っている間に女の子達で一斉に入る。五歳のリタリックちゃんが私の胸と、私の隣で体を洗っている十二歳のサナちゃんを見て言った。
「けーこお姉ちゃんとリタのおっぱい同じ。見て見てー、皆大きくなったらおっぱい大きくなるんだよ。早く、大きくなろうね」
子供に対して大人げないと言われそうだけど、久しぶりに殺気が沸いた。一応ささやかな胸の膨らみは、ちゃんとあるよ。五歳児のリタちゃんとは全然違うもん!
寒くなってからは台所で沸かしたお湯で体を拭いて、髪の毛も週に一度お湯につけてタライで洗う。お風呂が済みドアを開け外に出た。待機していたクムリン様が私の持っていたタオルをひったくり、私の髪の毛をゴシゴシ拭く。
「部屋の暖炉で髪をきちんと乾かしましょう」
クムリン様は世話焼きのようだ。そんな私達の横を通り下男の人が風呂場に入って行くのを見て、私はタライのお湯をどうするのか気になったのでドアから覗く。私の使ったお湯を壁沿いにある溝に流した。
なるほど、この世界の人も考えているんだ。初めは私の後ろから私の行動を不思議に見ていたクムリン様が笑い出した。
「はっはは、失礼。けーこ様は、探求心が旺盛なんですね」
きゃー、恥ずかしい。笑われたけど笑顔のクムリン様の顔が綺麗だったから、まあいい。男のエロスを感じさす美形の顔に笑ったら、左頬に笑窪が出来た。胸キュン。一体この笑顔で何人の女性の心を射止めたんだろう。
部屋は、暖炉に火が灯っていて部屋は温かい。クムリン様が暖炉の前に椅子を二脚を運んで、私達はそこに腰掛けた。私の後ろ側に座ったクムリン様に髪にブラシをかける。
「あのー。クムリン様、自分で出来ます」
「いいんだよ。私は妹によく頼まれて髪の手入れや結ったりしていたから、慣れているから心配しなくていいよ。それにしても、艶のある真っ直ぐな髪だね。黒髪というのは、滅多に見る色じゃないから気付かなかったけど凄く綺麗なんですね。
ところで旅をする仲間だから他人行儀は止めましょう。家名でなくドレリオットの名前で呼んでくれないか。家族はドレリーって呼んでいるからそっちで呼んでくれないか。後は敬語も必要なしで。私もそうします。けーこと呼んで良いでしょうか」
それから私と騎士様は名前を呼び捨てる仲になった。髪の毛が艶がいいのは、週一の卵トリートメントのお陰かな?
ドレリー、恥ずかしいけど相手の希望なのでこの呼び方に慣れないとね。ドレリーの銀髪の方が綺麗だと思う。三つ編みの髪を本人が結ったのか気になっていたから、疑問解決?
今日は紺色のリボンで、昨日は赤色。これも自分で買っているのか気になるけど、この質問は心に仕舞う。この世界の女性は髪の毛を長くして上の方で纏めていて、男性は長くしている人と短くしている人が半々。
髪の毛が乾いた後に宿の人に桶を借りて外の井戸で下着と靴下と今日のワンピースを洗って、暖炉の前に椅子を置き洗濯物を干す。
ドレリーは、護衛と言って私の後に付くいて来て、興味深そうに私のする亊を見ている。そしてもちろん笑っていた。貴族様は、庶民のする亊が新鮮なのかな?
スカート三着下着も三着、靴下は四着しかないので、こまめに洗えるときに洗わないといけないの。 ブラジャー、そんな物は必要ないの持ってないよ。こっちの人はコルセットを着けているけど、ミトさんに「けーこには必要ない」と言われて持っていない。
流石にかぼちゃパンツを干すのを少し躊躇ったけど、かぼちゃだし見てもうれしい物じゃないので気にせず干した。ドレリーと部屋も相部屋だし、私を子供だと思っていると思う。
ヨネさんの「男から身を守る方法第八乗」に、もし相手が子供と勘違いしていたら、そのまま勘違いさせとく……とあった。この「男から身を守る方法」は、出発前の注意事項にあって、第二十三条という半端な数。記憶が良くなって全部覚えている自分がうらめしい。あまりにもくだらな過ぎる。第一条が「怯えた振りをして相手が油断したら、股間を蹴って逃げる」。
他にふざけたのは、第三条の「可愛い顔をして相手に接吻をするつもりで顔を接近して頭突き」。第十九条の「思いっ切り泣いて鼻水を垂らし、ぐちゃぐちゃで汚い顔で相手の興味を逸らす」はっきり言って、男から身を守ると言っても女を捨てたくない。それよりヨネさんって、密かに想像力が豊かもしれない。これってソニも聞かされたのかな? でもいざそんな事があった時は、そんな多い対策方法なんて思い出さないよ。
その後に、食事を部屋で取った。部屋に食事を持ってきた二人の女の子達が、ドアを開けたドレリーを見て顔を可愛く赤らめ部屋に入る。私を見て動揺した後に、食事をテーブルに置いた後に私を思いっ切り睨んで出て行った。もちろんその子達はドレリーには、笑顔で礼をしている。食事は美味しかったけど、量が多くて三分の一しか食べられない。
行儀が悪いと思ったけれど、ドレリーにあげた。特にこの世界に来てから、人参の一つを作るのにどれだけ大変か経験して食事を残すことが出来ない。これから食事は、三分の一で注文するようにお願いする。そしたら小さいんだからもっと大きくなるように食べた方が良いと言われた。これ以上は、横にしか大きくならないよと伝えたい。
胸には行って欲しい。丁度食事が終わった頃よい時に、さっきの女の子たちが皿を取りに来た。なぜか女の子が三人増えている。普通料理を持って来る時の方が、人手が必要じゃない。もちろんさっきと同じパターンで、今度は五人に睨まれる。王都に着いたらドレリーとは、なるべく関わらないようにしよう。
きっと彼も忙しいし、こんな小娘の相手する暇もないだろう。ドレリーから風呂に入ってくるので、ドアに鍵を閉めて先に眠っているように言われた。この部屋の鍵を持って行くので、彼を待たなくて良いみたい。私もまだお尻と腰が痛かったので、言葉に甘えて横になる。暖炉の炎をしばらく眺めていたらいつの間にか眠っていた。
朝支度を完璧に終えた爽やかなドレリーに起こされ準備をする。宿の食堂で朝食を取った。もちろん宿の太ったおばさん以外の若い女の子達に、また睨まれる。どこからどう見ても恋人に見えないんだから睨む必要ないのに、女って他の自分より容姿の劣る女が、どんな理由でも良い男と一緒にいる亊が許せない生き物だよね。