美女と野獣
私こと「けーこ クムリン」、異世界で結婚をして三カ月が過ぎた。私の結婚生活は家事とかしなくていいけれど、人付き合いで毎日かなり時間を取ってしまう。
人付き合いをしているより、孤児院でしていたように洗濯をしていた方が良かった思う。王様の遊びと言う名の招集以外に、王妃様にも『永遠の清らか達』の集会に出席をしないといけない。なぜか外出の時に誰かがいつも付いてくる。
今日は念願の日。ベアーさんのお宅訪問。もう何日前からドキドキしている。
遠足の待ちきれない子供のように何度も寝返りをうって、隣に寝ているドレリーに笑われていつの間にかドレリーに抱き締められて、彼の温もりで眠りについてしまった。ドレリーははじめの一週間は休みを貰って家にいたけど、今は昼間はほとんどお城に行っていない。なるべく夜勤をいれないようにしていると言っていた。
ベアーさんのお宅訪問には、サイラックさんとリュウーヒが付いてきた。この街にしては大きなお店の後ろに、二階建ての家が何軒か連なっている。その一つがベアーさんの家。トリーにベアーさんの奥さんが素敵と聞いていたので、会うのが楽しみ。私はいつものようにベアーさんに高い高いされた。
「まあベアー。貴婦人に高い高いは、よくないわ」
甘い声がして、やっとベアーさんに下ろしてもらえた。こ、怖かった。
「っはっ、貴婦人? まだ子供じゃないか?」
「いいえ。けーこさんは、ご結婚された立派な貴婦人ですよ」
サイラックさんが答えてくれた。ベアーさんに以前年齢を伝えたのに……。
「もう。ベアーったら。すぐ忘れるんだから」
ヒゲで皮膚の面積が少ないけれど、ベアーさんが赤い顔をして右手で頭を触る。
「おっ、ごめん。ごめんな。お嬢ちゃん。って、お嬢ちゃんはないか。う~ん、なんて呼べばいいのだろう。まあ、けーこお嬢ちゃんか?」
「あっ、はい。お嬢ちゃんでいいです」
ベアーさんからは今までのように、お嬢ちゃんでいい。それよりベアーさんの隣にいる美女がすごい。ボンキュウパーの熟女!
あの燃え上がる赤髪と紫色の目はなんとセクシーなんでしょう。もう同じ女として悔しいなんて言っていられません。本当に同じ女なんて比べる次元ではない。全世界のいや全異世界の男のロマンがあの巨乳につまっているのでしょうか?
「初めまして。ベアーの妻のメリーエットよ。メリーって呼んでね」
メリーさんがニコっと微笑する。メリーさんの羊サン達の歌を歌う余裕なしに、その微笑によって顔から頭に血が上る。よくぞ鼻からブーしなかった。メリーさんはドレリーのお母様より凶器。お母様の方は白天使で白薔薇と青薔薇のイメージなんだけれど、このメリーさんの方は黒天使で黒薔薇と赤薔薇のイメージがする。
それよりベアーさんとメリーさんが並ぶと『美女と野獣』カップル。挨拶の後にお茶を頂いた。メリーさんはかなり押しが強い人。サイラックさんやリュウーヒ相手にビジネスの話をした時に、以下にベアーさんが有利になるか話をする。トリーのお人形は、クムリン家の領地で生産される。
お母様のフラワーアレンジメントの花はベアーさんの所で受け持っている。ベアーさんの商会に、リュウーヒもアットおじさんも関わっていると聞いた時は驚いた。石鹸の販売もベアーさんがしており、ついついメリーさんとギフトのラッピングのことに話が盛り上がった。
もうキャリアウーマンのメリーさんは、私のアイデアを聞くと「これは売れるわ!!」と大はしゃぎ。その大声によって、二階から乳母に手を引かれた五歳くらいの女の子が来て、ベアーさんの膝の上に座った。ベアーさんはその子の頭に何度もキスをする。
「まあ、起きたのね。この子は娘のメアリーよ」
将来は第二のメリーさんの、ミニメリーさんが親指を口にしゃぶりながら私をじーと見ている。それより、やっぱり名前が気になるのは私だけなんだろうか?
「いっしょ!」
メアリーちゃんが親指をポンと外した後に言って、腕に持っているお人形を私に向けた。あの赤ずきんちゃん。でもどうして黒髪に黒目なんだろう。
「まあ、そうね。このお姉ちゃんがお話を作ったから、トリーお姉ちゃんがけーこお姉ちゃんを見本にこのお人形を作ったのよ」
メリーさんがメアリーちゃん丁寧に説明をするけど、赤ずきんちゃんは私なの?
「お姉ちゃん。お話して」
最近みんな私に会うと話を強請るようになった。話をする機会が多くなって、うれしい。
「うん。いいよ。なにがいいかな?」
「パパとママの話がいい!!」
すごいリクエスト。始めてこんな話のリクエストを聞いたよ。
「お嬢ちゃんは急にはパパとママの話なんて出来ないんだよ。他の話にしようね」
ベアーさんがメアリーちゃんの髪を撫でながら優しく言う。彼女の顔が寂しそう。
「うん。分かった。メアリーちゃんのパパとママの話をしようね」
メアリーちゃんが顔いっぱいに喜びを表して、皆驚いた顔をする。サイラックさんはいつも手に持っている緑色のカバンからノートと筆ペンとインクを取り出した。
私は『美女と野獣』の話をした。話が終わってからメリーさんがベアーさんをトロンとした目で見ている。二人がドレリーのお兄様夫婦になるのではと思ったら、メアリーさんによって現実に戻る。
「パパは野獣。でも人間になった。パパ、ヒゲ、チクチクする。いたいー」
「えっ、パパは今も人間だよ」
「そうね。ここ最近ベアーの素顔を見てない気がするわ。そうね、良い機会なのでそのヒゲを剃って来てね。お、ね、が、い」
しぶしぶベアーさんが部屋を出て行った。その待っている間にまたお喋りとお茶。女の子って本当にお茶とお菓子があれば何時間でも話をしていることが出来るんだよね。
しばらくして、ベアーさんが戻って来た。まさかあのヒゲの下にこんな顔を隠していたなんて、一体誰が予想できた?
今すぐハリウッドの映画の主もう私のストライクゾーン、ばっちり。平凡もいいけど、この顔の方がいい。今まで生きていてよかったよ。こんな理想の顔を拝める日が来るなんて。異世界万歳!!
「ベアーのその顔を見るの本当に久しぶり。いつ見てもいいわ」
メリーさんがそっとベアーさんの頬を撫でる。綺麗なカップルの絡みは、萌よ!!
「ベアーってこの顔だから、女の子達がほっとかないからヒゲを生やしたの」
「これでまたヒゲが伸びるまで、室内に篭もらないといけなくなったじゃないか」
なんか説明をしてくれている間もイチャイチャし始めて、部屋にいるのが飽きたメアリーちゃんが乳母に連れられて部屋を出たついでに、私達もお暇した。
王様から召集。いつもの暇潰しじゃなくて、ほとんどの貴族全員。また謁見。
ドレリーは先にお仕事でお城に行ったけど、私はぼちぼち昼食の後に行く予定。サイラックさんが迎えに来てくれる。リュウーヒはパトリーやテモテシに会いたくないので、お城には用事がない限り行かないことにすると一ヶ月前に宣言した。
謁見後にユートにも会いたい。
ユートはなぜか休みの時には、ふらっと家に来る。そして、ドレリーに絡み帰って行く。ドレリーが「なにしに来るんだ」と聞いた時に「別に。同じ家族だからいいだろう」と言っている。




