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my tale  作者: Shiki
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シンデレラ


 夜会の準備はとても疲れた。お姫様にだけはなりたくない。ディランド提案のお姫様転生コースを断っていてよかった。朝から一体何度着替えたのか分からない。


 もう着せ替え人形状態で、人に体を見られて恥ずかしいなんて言っている体力さえない。まあうれしいことは、コルセットを付けなくていいことだけかな。この時だけ胸が少しだけで良かったかもと思う。


 少しだけだからね。夜会のドレスの色は白色。汚れを気にして下手にあっちこっち座れない。ドレリーを見ると、この国の礼服を着ている。初めて騎士の制服以外の正装をしている所を見た。格好良い。


 夜会の会場は人の熱気で埋もれている。昼間は殺風景なのに今は壁にかかっているランプで、豪華に見る。

 花が飾られている。私とドレリーは一先ず王様達、王族の待っている部屋に行くことになっている。今日は主役なので王族と入場するみたい。


 「は~」とため息が出そうな、かなり恥ずかしい登場をして、王様王族のお隣の席にドレリーと座っている。私達に挨拶に来る貴族達。身分が低い私達にわざわざすまぬ。何人かの人達は、心の中で文句を言っていると思う。


 何人かがすでに嫌味を言ってきた。それがあの強烈カップル。私達が入場をして王様の挨拶の後しばらくして、ドレリーと一緒にダンスを踊った。これまた身長差があって大変。結婚式の前の一ヶ月間私は遊んでばっかりいたわけじゃないよ。


 貴婦人のマナーやダンスなど、面倒な事を毎日した。ダンスの後に、三十歳くらいの紫髪の赤目で、鼻の異様に高い男爵と名乗る人に話かけられた。


「へ~、黒髪。珍しいな。昔、頭の足らない黒髪の娼婦がいたよな。バレンシアの言った通り、これまた頭の悪そうな女だな」


 男爵が気怠そうに私を上から下まで見た後に言った言葉に対して、私の背中に手を添えて立っているドレリーが怒り出した。


「モーレット男爵。今の言葉は私の妻に対しての侮辱ですか? 決闘を申し込んでいるのですか?」


「い、いやいや。ち、違う。そ、そう言う意味ではない」


 般若顔のドレリーが殺気を含めて男爵を見ている。男爵がそう言って少し後ずさり鼻をもっと大きくして息を吸う。隣にいるドレリーの殺気がこ、怖いよ。


「まあ。お兄様」


 甘ったらしい声がしたと思ったら、あの強烈カップルが男爵の横に立った。この二人はボビートと一緒に城の廊下で会った時に、嫌味を言われたカップル。


「へー。ドレリーオット。とうとう血迷ったか。庶民を嫁にして、それも孤児院出身。まあお前は身分もない身の上だから仕方ないか。

 顔しか取り柄がないのに、素の顔でせめて金持ちの庶民と結婚すればよかったのにさ。まあ騎士なんて庶民と一緒か。王もこんな庶民をお前に与えて、哀れんで最後に貴族のお別れの夜会を開いてくれたんだろう。せいぜい今日だけでも楽しめよ。ハッハッハッー」


「もうあなたったら、本当のことを言わなくても。ドレリーも可愛そうにこんな貧弱子供を宛てがわされて」


 嫌味を言われたのは分かるけど、この二人の話し方が独特過ぎて話に付いていけない。あっ、ドレリーが腰に備えている短剣を抜こうとする。


「グッテリー。バレンシア。この侮辱を冗談とは言わせません!!」


「クムリン殿。落ち着きなされよ。王の御前ですよ。それにけーこさんが驚いています。可愛い花嫁を放っといて、なにをなさるおつもりですか?」


貴公子サイラックさん。勇者です!! サイラックさん、ありがとう。


「みな様も今日の主役を侮辱したことが王の耳に入ったら、そちらの身も危ないのではありませんか? 祝う気がないのでしたら、お暇なさったらどうですか?」


 サイラックさんの声が怖い。ドレリーが私を向いて済まなそうにしている。


「あっ! けーこ、ごめん」


 ドレリーのが孤児院のちびチャン達が悪さをした後にするにバツ悪そうな顔をする。


「ううん。だ、大丈夫。ちょっとダンスで疲れたから席に戻ろう」


 私達は王様の隣の席に戻る。この席は目立つけど、あからさまに悪口を言う人達はいない。さっきのカップルは母親の義理の姉の息子夫婦。昔からドレリーにいちゃもんを付けてくるらしい。今は男爵で将来は父親のデレリ伯爵を受け継ぐみたい。これからも親戚なので会う機会が多いらしい。キター、第一の茨の道。


 なんと長い一日。本当に結婚式と言うものは一生に一回でいい。


「やはりさっきの言葉に傷つきましたね。すみません」

 

 ドレリーが謝る。彼を励ましたくなって、童謡でもヤギさん達がお便りを交換し続けている歌を歌った。ダンスをくるくる踊っている人達を見て、この歌が浮かんだ。


 こっちのヤギは赤色と青色なので、きちんと変えてからドレリーに歌った。 私が歌うと、ドレリーがお腹を抱えて笑った。彼が笑ってくれてよかった。笑い転げているドレリーを見て、今まで王妃様と仲良く話していた王様が彼に話かけた。


 ドレリーが王様になにか言うと、王様が大きな声で笑う。皆一瞬王様を見たけど何もなかったように元の行動に戻る。この王様のこのような行動をみんな知っているから、あまり気にしない。


 王様の背中を擦っている王妃様に、耳打ちで王様が何かを囁いている。王様が王妃様から離れたと思ったら、王妃様が鈴のなる声で笑う。王妃様の笑い声も優しい。王妃様を隣に立っている王子様一号と二号と嫁様達が、興味深々で囲む。


 みんなが王妃様に頭を近付けてなにかを話した後に、楽しい笑い声が聞こえてきた。嫁様の一人が近くでトリーと話している王女様に近寄り、二人に何かを言う。王女様が手をお口に添えて笑い、トリーは普通に口を開けて笑っている。


 あの二人って確か同じ年で仲がいいって言っていたよね。トリーが近くにいるお母様とアットおじさんの所に行き、なにかを言っている。そして三人一緒に口を開けて涙を拭きながら笑う。


 そんな三人の隣にいるパトリーとテモテシが心配そうにドレリーのお母様に話しかける。そしてパトリーとテモテシの「きゃー、きゃーはっはっはー」と言うバカ笑いがここまで聞こえる。パトリーが公爵令嬢でテモテシが伯爵令嬢だったので驚いた。


 パトリーとテモテシのバカ笑いを心配したイットおじいさんが二人の所に行き、パトリーの腕の脈を測る。パトリーがやっと笑いを止めてイットおじいさんになにかを言うと、今度はイットおじいさんと一緒に笑い始める。


 イットおじさんの顎が外れるのではと心配になる。イットおじいさんは笑い疲れたようで近くの使用人から飲み物を受け取り、壁ぞいにある椅子に座り、ちょうど隣に座っているミトさんと挨拶を交わした。


 しばらくイットおじいさんが話をしているのを、ミトさんが頭をコクコク動かして聞いている。イットおじさんは笑っているけどミトさんは無言。あんなに頭をコクコクして首痛くないのだろうか?


 それともヨネさんによって首を鍛えられているのかな?


 やっとイットおじいさんから解放されたミトさんが、よっこらしょっと椅子から立ち、近くの使用人から飲み物を受け取る。その飲み物をさっきの席で飲むつもりなのか、席に戻る時にダンスから戻ったソニに飲み物を奪われる。哀れなミトさん……。なぜミトさんの周りには、強くてお喋りな女ばかりなの?


 ソニは一気飲みをしてグラスをミトさんに渡し話始めようとした時に、ミトさんがソニに何かを言う。ソニは顔を真っ赤にして笑って、勢いよく壁ぞいに座っているシーレさんとシーレさんの旦那さんの所に行き話をした。お腹のでかいシーレさんが笑い、それを見た旦那さんが大騒ぎ。


 子供を今生むの? 


 深呼吸を、あのお産の深呼吸を!


 シーレさんの旦那さんが大騒ぎをしているからヨネさんがやって来て、シーレさんのお腹に手を当てた。ヨネさんが安心した顔をしている。シーレさんがヨネさんになにか話をした後にヨネさんが体を前後ろ動かし笑っている。


 ぎゃー、ヨネさんの大声馬鹿笑いがここまで聞こえる。恥ずかしい。貴族の皆さんがヨネさんから離れて行く。やっと馬鹿笑いを終えたヨネさんがキョロキョロして、あっ、獲物を見つけた顔をしている。獲物を確保するために人ごみを、人にぶつかりながら前進あるのみ。


 みんなは退くのが早いけれど、遅れをとった人達が飛ばされる。あれは、魔物か?


 これこそ異世界定番の魔物なの? 


 勇者はどこ?


 ちょっと頭をキョロキョロして勇者探しをする。こうなったら王道勇者でお願い。かなりウキウキしている、私。 魔物が獲物確保。魔物が勇者を確保。


 ヨネさんに確保されたサイラックさんは、爽やかな笑顔で話を聞いている。勇者サイラックさん、笑顔がもう勇者ね。勇者は笑顔ビームで魔物の相手をしているよ。かなり長い間話を聞いているんだけど? やっと解放されたサイラックさんが、疲れぎみで私の所に来る。


 勇者の仕事も大変。勇者もきっとこの場所が聖域と気付いたのかも。魔物ヨネさんは、ええ~またシーレさんの所に行って馬鹿笑いをしている。


「けーこさん。ご結婚おめでとうございます」


 挨拶をしたので私もきちんと挨拶を返す。爽やか笑顔に、疲労が見え隠れしてる。


「ありがとうございます。サイラックさん」


「今とても面白い歌を聞きました。けーこさんにも教えて上げますね」


 キラキラした目で、サイラックさんが渋い声で歌を歌う。あれ、今赤ヤギと青ヤギが黒と白になっている。歌を歌い終わったサイラックさんに、聞く。


「あ、あのー、ど、どうしてヤギの色が違うの?」


「そうですよね。この歌を作った人は、ヤギの色も知らないのでしょうか?


 ヤギの色は青色と赤色なのに、黒色と白色のヤギなんて聞いたことはありませんね。その人は頭が少し足らない人なんでしょうか? でも素晴らしい歌なんですけど、どうして色を間違えたのでしょうか?」


 私はちゃんとヤギの色を青と赤に変えてドレリーに歌を歌った。誰があの伝言ゲームで間違えたの? サイラックさんに、歌の出元が私とバレないようにしないとね。本当に頭の足らない子になってしまう。そんな時に、ドレリーが聞いてきた。


「けーこ。さっきのけーこが教えてくれた歌のヤギの色が黒と白に変わっているんだけれど、どっちが正しいのですか?」


「やはりけーこさんがお作りになった曲でしたか。でもヤギの色は青と赤ですよ」


 そんなことは知っている。伝言ゲームで間違えたのは、ヨネさんかミトさんしかいない気がする。あの中でこんな間違えをする人って、あの二人しか思い当たらない。


「サイラックさん。ドレリーも。この曲は昔聞いた曲だから、決して私が作ったて言わないでね。うん、なんとなく思い出した曲なの。お願いね」


 苦しい紛れで私が言ったら二人共頷いてくれて、よかった。ヤバいヤバい、もう少しで記憶が戻ったことになりそうだった。部分的記憶喪失って結構便利でいい。異世界トリップでは、みんなこの手しかないよ。


 夜会は十二時にお開きになった。この世界には一応公共の場には時計がある。教会が一定の時間に鐘を鳴らして、時間を教えてくれる。でも夜中の十二時の鐘は鳴らない。シンデレラの魔法の終わる鐘は鳴らなかったけど、私の魔法は消えない。やっぱり私は結婚をしたんだ。 


 ドレリーと私は、彼の持ち家に戻った。ドレリーは成人した時にお母様の母から貴族街の端にある家を貰った。次男以降になるとこんな風に持ち家や財産を早めにわけ与えるらしい。


 家はメルヘンの庶民の近くにあり、あまり大きくない方だけど石造りの温かい感じのする家で、始めて家を見に行った時にすぐに気に入った。家は貴族のように大きくないけど、日本人の私にとっては十分に大きいと思う。使用人はドレリーのお婆様の時から働いている老夫婦とその息子さん夫婦と子供達。感じの良い人達ですぐに仲良くなった。特に小さい三人の子供達が可愛い。


 アットおじさんは、私がドレリーの所で暮らすことを寂しそうにしていたけれど、私が毎日でも遊びに来ると言ったら、私を抱き締めたアットおじさんはこの一ヶ月の間に本当のお父さんのように頼りにしている。今は私の提案をした学校作りを本格的に見当しているらしい。ドレリーのお母様のフラワーアレンジメントの手伝いをし始めて忙しくしているので、毎日会いに来なくていいからと笑って言った。


 私達の家は二階建てで大きい方だけど、使用人の人達にも今まで通りに使って貰いたくて、私はドレリーと同じ寝室にしてもらった。寝室の横にある洗面所で着替えて寝る準備をして、ソロソロとベットに戻る。ドレリーは気を効かせて後から部屋に来る予定。


「ちょっとワインを一杯飲みます」


 って言った。彼の寝室には大きなベットがある。部屋は松葉色と卵色の落ち着いた部屋で壁にかかっているランプが部屋を鈍い光で包んでいる。ベットの横にある小さなスタンドのテーブルに『親指姫』の本があった。私はそれを手に取り、その銀色のカバーを開く。


『ドレリーへ


 これから永遠に続く旅をして行く時に、喧嘩をしたら仲直りをしましょう。悲しいことがあったら、慰めいましょう。うれしいことがあったら、笑いあいましょう。


 一緒に笑い泣いて、怒って冗談を言い合って、隣に寄り添い生きて生きましょう。


 これからも一緒に旅を続けていけたらいいです。この本をあなたに捧げます。旅の終わりが幸せな瞬間でありますように』


『カチャ』

 

 寝室のドアが開いてドレリーが中に入って来た。ドレリーが私の手にある本を見て、私の腰をかけているベットの前に来て跪く。


「けーこ。この本を私のためにありがとう。私もけーこに誓うよ。一緒に寄り添って生きて生きましょう。私が最後まであなたを守ります」


 ドレリーが私の本を握っている手を両手で包み、キスを落とした。窓から差し込む月光で、ドレリーの銀の髪の毛が光沢している。


(美女と野獣


 正反対な組み合わせ。人は見かけに惑わされる生き物。)

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