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my tale  作者: Shiki
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シンデレラ


 ドレリーのお母様が花で飾り付けをしていて、このラブホの中庭は花の妖精の世界。


 花のアーチを見た時は、お母様は天才だと思った。私の簡単な説明でブーケから髪飾り、長テーブルに置かれている花瓶などを作りあげ、どの作品も色合いが調和されて綺麗。この色の強烈な世界でまともな人がいてうれしい。


 ただなんで実家の庭が青と黒の薔薇園なのか。いつかクムリン家の七大秘密リストを作ろうと思う。


 私とドレリーは日本と同じように設定された披露宴の上席テーブルに雛人形の親王のように座る。私達の席に招待客が一人一人挨拶に来る。私は薄い水色で出来たスリッパのようなヒールのある靴を履いているので、この芝生の上を歩くのは難しい。


 トリーが私の今着ている水色のドレスとお揃いで用意した。ドレスを着た時に黄色人種には似合わないと思ったけど、トリーが一生懸命に綺麗と言ってくれたので私もお姫様になった気分がする。


 シンデレラもこんな恥ずかしいような嬉しい気持ちだったのかな?


 このガーデンパーティーには、夜会に行けない人達がみんないる。


 ユートは夜会には出ないらしい。ソニが「私を誰がエスコートするの!!」と怒った。結局ソニは、シーレさんとシーレさんの旦那さんとお城に出ることになった。


 ソニに説得をする時に一人の方が男性からお声をかけてもらえるよと言ったら、すんなり納得した。ソニは相変わらず現金。今もソニはリュウーヒに猛烈なアタックをしている。


 もちろんリュウーヒが逃げたので、今度はサイラックさんの隣に行ってアタック。今はトリーとソニに挟まれている。「ハーレムでいいね」と言いたいけれど、サイラックさんの顔を見たらからかう雰囲気じゃないみたい。


 テーブルにはソニの働いているパン屋さん名物の『きびだんご』のドーナッツの穴が置いている。きびだんごは、流行っている。毎日すぐ売れきれるみたい。庶民の人には贅沢品だけれど、貴族の裕福な人達も買いに来ているらしい。


 砂糖は貴重な物なので、蜂蜜や林檎などの果物を入れたオリジナルの物を販売していて、私の異世界ライフが充実し始める。ユートがキミトに剣の素振りを教えているのが見えた。


 キミトは来年に騎士のテストを受けると張り切っている。この国は庶民出身の、ましては孤児院出身の人が騎士になれるようにしているなんて、この国の王族は代々賢王が収めているのが分かる。身分に関わらずに優秀な人を受け入れているからこそ、国は五百年続いているんだね。法律もしっかりしているのもそのせいだと思う。


「お姉ちゃん。きれい」


 小さい透き通るような声でアミーセが言った。私は木製の車椅子に座っているアミーセを見る。アミーセと座っている私の目線が同じ。


 アミーセの座っている車椅子にはキルトのクッションがあり、座り心地よく出来ているのが分かる。車椅子の後ろに大きなウドットが相変わらず無口のまま立っている。


「アミーセちゃんも綺麗だよ」


 私の言葉を聞いて、アミーセが顔をほころばせる。今日のアミーセは黄色のワンピースを着ていて、ドレリーのお母様が孤児院の子供達に用意したリボンで髪を結っていて可愛い。女の子は皆お洒落をしてシンデレラのようになりたいよね。


「あ、ありがとう」


 アミーセがはにかんだような笑顔を見せる。


「お姉ちゃん。ありがとう」


 うん。私もこうしてアミーセの笑顔が見れてうれしい。


「あっ、けーこお姉ちゃん。リタ達になにかお話してー。もう、ずっとお話聞いてない。えとね、お姫様の話がいい!」


 リタちゃんが他の小さな子供達を連れて、私とドレリーが座っているテーブルに来た。アミーセもウドットも、私が話をすることを期待している顔で見ている。


「うん。じゃあねー。何がいいかな?」


 私はしばらく考える。その間に子供達が私が話をすることを他の人達に言って、なんかたくさんの人垣が周りに出来る。サートの座っている車椅子を押しながらカムリットとサイラックさんが、私の話を聞くために近くに来た。


 もちろんサイラックさんも紙と筆を手に持って待機。相変わらず目がキラキラうれしそうにしている。サイラックさんがサートのために車椅子を購入した。

 私はあの日から一度もサートに会いにサイラックさんの家には行っていない。でもたまに、サイラックさんの使用人に連れられてサートは孤児院に遊びに行っているので鉢合わせになることが多い。サイラックさん曰く、サートは私が訪問する時を狙って来ているらしい。


 私もサートに会えることがうれしい。最近はサートとカムリットは仲良しで、二人でいろいろ悪さをしている。サートから結婚祝いに朝日の空の絵を貰った。私の部屋にある空の絵が三つになる。部屋の中でも、空を見ていることが出来てうれしい。


 しばらく考えた後に私はシンデレラの話をする。話している間、隣に座っているドレリーが手を握っていてくれた。最後のハッピーエンドを聞いた女の子達は、顔を真っ赤に染めて目がトロンとして可愛い。ソニもヨネさんも目をキラキラしている。やっぱりハッピーエンドの恋愛って何歳になってもいいものだよね。


 私は童話を話す時に、いつもこの童話を作ってくれた作家に感謝をする。異世界であなた達の作品を話して作家の名前が私になってしまったけれど、私は決してこの話で受けた収入を自分の懐に入れないことを誓うね。名前のことは許して下さい。ごめんなさい。あなた達の作品は異世界でもこれからずっと愛され続けるでしょう。


 子供達がシンデレラと魔女の真似事をして遊んでいる。魔女が悪い人なのと聞かれたので、この話の中の魔女はいい魔女と答えた。私にとって、この時間がとても幸せな時間になった。私の結婚式はとても幸せな思い出になると思う。


「けーこちゃん」


 私にはその声の主がすぐ分かる。


「カルメン!」


 私は席を立ち上がり、こっちに来るカルメンの方に近付く。カルメンがすぐに来ると分かっているけど、どうしても一秒でも早く近くにいた。私は勢い良くマンドリンを右手に持っているカルメンに抱き付く。そんな私を彼が笑いながら受け止めた。


「あっはは。けーこちゃん。結婚おめでとう。どうぞ私にその美しい姿を見せて」


 今日のけーこちゃんはいつも以上に綺麗だよ……幸せになるんだよ。おめでとう」


 カルメンが私を少しキツく抱き締めて耳元で囁いて、その抱きしめていた腕を離した。今日のカルメンは、旅の吟遊詩人ではなく貴族の子息の恰好をしている。


「カルメン。どうしてここに?」


「リュウーヒ殿に連絡を受けた。けーこちゃんに歌を歌って欲しいと依頼された」


「ありがとう。カルメン。私、うれしい」


 少し目に涙が溢れる。皆のやさしさが嬉しい。


「けーこちゃん。花嫁が泣いたらいけないよ。何の歌がいい。やっぱり『アメージンググレース』かな?」


 私は零れそうな涙を瞬きを何度かして、引っ込めた。


「うん。英語と日本語で」

「けーこちゃん。日本語じゃなくてディランド語だよ。いくら僕の隣と言って安心しているけど、かねてから疑われる発言はしない方がいいよ」


「う、うん……」


「君のためなんだ。分かってくれ。じゃあ、その椅子に座って弾くね」


 カルメンがテーブルの開いている席から椅子を持ってきて、私とドレリーのテーブルの前に置きマンドリンを弾き始めた。彼の奏でるでマンドリンの音で周りが静まり返る。


 アメージンググレースの優しい神秘的な音色がこの春空に響き渡る。この妖精の庭で神の歌が流れ、何人かの人達の頬に涙が流れている。歌が終わってからも周りは静寂に包まれたまま。一人が拍手すると後は拍手と称讃で賑わい始めた。


「お姉ちゃん。わ、私にあの人を紹介して。お願い。お願いします。わ、私もあんな風に楽器を弾いて歌を歌いたい!」


 アミーセは目を輝かせながら聞いた。いつものオドオドした小さな声ではない、ハスキーな声にハリがある。私はカルメンにアミーセを紹介する。カルメンはしばらくこの国にいるので、時間のある時はアミーセに音楽を教えてくれることになった。


 今は手始めに桃太郎の歌を歌っている。でも、どうして桃太郎の歌なの?


 なぜか二人が歌い出すと周りの人も一緒に歌い出した。


「けーこさん。けーこさんのおかげで、この歌が今街で流行っているのですよ」


「はあ。そうですか……」


 桃太郎の歌が流行歌。元出が乙女の私になっているなんて、恥ずかしい。


「けーこさん。とっても綺麗です。さっきお話されたシンデレラのようです。シンデレラのように幸せになって下さいね」


 サイラックさんは私の幸せだけを望んでいる。私もシンデレラのようになりたい。


 でも今こうしてこの世界で出会った優しい人達に囲まれて、こんな風に私の幸せを願われて優しい言葉を言われて、うれしい。ディランド、私はこの世界に来て幸せよ。いつまでもこの幸せな時間が終わらないでいて欲しい。私の幸せな時間の魔法が切れる時間は、いつか来るの?

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