色の国
トリーの部屋に行く途中にトリーの親友の侯爵令嬢のメルットちゃんが来て、一緒にドレスの試着を手伝ってくれることになった。、ドレスの試着と言うものが戦いだと知らなかった。
トリーのラブラブピンク色とレースの部屋にも絶句したけれど、棚に置かれているお人形達を見た時に開いた口が塞がらない。この部屋だけでお人形の博物館を開ける。
どれも細密に出来ている。その棚の一つに、私の話した童話のシリーズが並んでいて、アリスと時計を持っている白うさぎや人魚姫や赤ずきんちゃん。親指姫は、まだ発売されてないから知らないんだ。トリーに聞かれた。
「ど、どうですか?」
「あっ、ごめん。ごめん。あんまりにも上手だったから見とれてた~」
「よ、よかった」
『コンコン』
「失礼します」
入って来たのがこれまたジミーな侍女達が三人、部屋に入って来る。もちろんそれぞれの手には、どうしてそんなに持てる? と聞きたくなるドレスの束がある。
トリーとメルットちゃんの前だと言うのに、服を脱がされてドレスを着せられて脱がされて、「お手直しをします」と言われて、今着ている服に針をあっちこっちに刺される度に私も刺されるんじゃないかなーと、ドキドキハラハラ。ドレスを着させられた時に、胸の話が私以外でされた。胸に詰め物をするかしないか?
どうしてそこで、今から大きくしてもらいましょうと、言う提案が出るの?
胸が大きくなる方法なんて、幻の方法がこの世界にあったの。と一瞬喜んだ私は、思いっきりバカだった。本当に真剣に聞いたんだよ。一言も漏らさずにね。
なんでも伯爵婦人はもっと貧乳だったけど、伯爵にモミモミされて大きくなったらしい……。だから私もドレリーに……だって。真剣に聞くものでもなかった。途中で耳に指を入れて口であーあーと言いたかったけど、針を刺している侍女達がいて出来ない。
「くすくすくす。わたくしもコナット様に胸を揉まれたいです!」
今まで大人しかったメルットちゃんが壊れた。大体コナットって、あのコナット?
「わたくしコナット様と同郷のけーこ様とお友達になりたかったのでございます」
「あっ、あのー、わ、私はコナットさんに会ったことないよ」
それに一生会うことはないだろう。
「いいんです。コナット様のお育ちになられた場所を知っておりますことが、とても重要でございます!」
意味分かりません!
やっぱりクムリン家とお付き合いのある人も異常なんだ。
それから、ソニのお喋りがまだ可愛いくらいメルットちゃんが話を一人でしている。もちろん話の内容はコナット一色。メルットちゃんはコナットのファンクラブ『好き好きコナットの乙女達』の会長だって。その名前を聞いて、顔が引きつる。
会員のルールを聞いてまた背筋が寒くなる。こ、怖い。その抜け駆けをした女の子への凄惨って何?
これは、ソニに知らせるべき?
もう一生、絶対コナットに近づかない。私は自分の命が大切。大体何で、会ったこともないコナットのことを全て知ることになったの?
私が侍女達の針が怖くて身動きが出来ないことを良いことに、どうして聞きたくないコナット情報を聞かされるの?
コナットが金髪青目の童話の王子様の姿だったなんて、生きて行く中でいらない情報。脳みそがもったいない。
「コナットは長髪で……」
ロン毛? 三つ編みしているの?
「真っ直ぐした髪で……」
直毛? ちなみにすね毛も?
「金色にキラキラ光……」
キュウティクル? トリートメントを教えて?
「笑った時に見える真っ白な歯……」
歯磨き粉の宣伝? どこの三枚目の役者?
「お痩せしていると思ったら引き締まったお体……」
細マッチョ? おい、いつ服を脱がしたの?
「抱かれた時の匂い……」
「えー! いつ抱かれたの? メルットちゃん!!」
一大事。きゃー、直毛ロン毛金髪青目コナンと令嬢の……って一大事です!!
「ええ……そ、それは……あー、お恥ずかしい……でもここだけのお話ですよ。じ、じ、実は先月コナット様を学校の門でお待ちしておりまして」
う、うん。デートの始まりね。
「そ、それで、体がほっ照り……。コナット様が出て来た時に、クラッと来て……。そのまま倒れた時にコナット様がわたくしを受け止めて下さり、わたくしを学校の医務室に連れて行って下さりました」
はあ~、はあ~そうですか。今なんだかとっても疲れた。
「やっぱり、コナット様の魅力でクラッとしたのでしょう!」
メルットちゃんがそう力説してまたコナットの魅力について語り出した。それって、只の日射病だと思う。疲れた。クムリン家訪問は、疲れた。自分がこの家族になると言う未来を考えて、疲れた。
ドレリーのお家訪問から帰ってかなりの日数が過ぎた。カレンダーがないし、日にちを数えることが難しくてしてない。でも明日は結婚式。騎士との王道結婚。あの地獄のドレス試着の成果で多くの服がクローゼットにあるけど、ついつい孤児院から持って来た服を着ている。その服の方が動きやすいし、一人で着れるからいい。
でもお城に行く時はドレスを着ている。これは七五三の晴れ姿よりひどいと思う。大人の私が着たらアニメのコスプレ。ドレリーとお母様とトリーは、あれから何回もこのラブホに来る。もうアットおじさんとお母様の熱の温度差の方が、私とドレリーより熱い。サイラックさんもよく会いに来てくれる。トリーはサイラックさんに会いたいために、ラブホに来ていると思う。
石鹸工場も動き始めて、孤児院もスイ国の人達によって建てられた。ベアーさんに会いたかったけれど、今月はスイ国に行っていて会ってない。今の私にはベアーさんの癒しが必要なのに……。
私の日常はリュウーヒと一緒に孤児院を見に行ったりソニに会いに行ったり、お城に王様とトランプをしたりして忙しくしている。お城には二度と行くつもりがなかったのに、王様のお誘いと言う名の命令で仕方なく行く。
もうトランプに私が飽きがきて、オセロを教えたら王様がお城お抱えの大工に特注して、今ではトランプ並びに大盛況。本当にトランプとオセロって、トリップした人が必ず広めるよね。
あーあ、私もその一人になった。大衆ゲームは、トランプとオセロの王道だね。ここで王道展開なのは、しゃくなので「あやとり」を密かに広めることにした。今にこの異世界で「あやとりブーム」の先駆者になって見せる!!
そんなことより、本当にトリップした人の王道を歩んでいる自分が恨めしい。最近の私の楽しみは、儚かった夢の『THE 平凡’s』しかない。夢の中で妄想する……。
三日前にミトさんヨネさんと孤児院のチビちゃん達がラブホに来た。もうヨネさんの抱擁で、ディランドにとうとう会えると思った。
ヨネさんは三日前からずっと口を開けている。ヨネさん達が来てから、リュウーヒやサイラックさんやお母様やトリーがこのラブホに来なくなった。アットおじさんも、仕事と言ってラブホに帰って来てない。
「結婚式には帰ってくるよ」と言って出て行った。
今頃「どうしてけーこの家族の皆をお城に行くことを止めて、自分の家に招待したのだろう」と後悔していると思う。私だって、あのヨネさんのお喋りは、久しぶりに聞いたら一期に疲れた。ドレリーはヨネさんの話を初めの頃は丁寧に聞いていたけれど、ヨネさんの「けーこを騙して結婚をする悪い男」とかそれらしいことを言われてからは、ヨネさんに睨みを効かせて思いっきり無視をしている。
その度にヨネさんを落ち着かせるミトさんがいる。この三日間の間にミトさんの頭が薄くなったのは、私の気のせいかな?
チビちゃん達はラブホ探検をしたりして楽しんでいる。ソニも昨日皆に会いに来た。一番納得いかないのは、ソニとヨネさんがこのラブホが綺麗と言ったこと。この世界の色彩感覚は狂っているのか、それともこの二人が狂っているのか?
「けーこお姉ちゃん。ユートお兄ちゃんが来たよ」
リタちゃんが勢いよくドアを開けて部屋に入る。ユートの名前を聞いて私の心が飛び上がる。あれから彼に会っていない。どんな顔で会ったらいいのか分からない。
「はやく! ユートお兄ちゃんがけーこお姉ちゃんに会いんだって!」
いつまでも逃げていることが出来ないので、私はリタちゃんと手を繋いでユートに会いに行く。私の首には琥珀色のペンダントがある。もうドレリーはこのペンダントのことをなにも言わない。もちろんドレリーから紫色のペンダントを貰った。
私はそっと手の繋がってない右手で琥珀色の石を触る。部屋で待っていたユートは、なんか前より大人になった感じがしてドキっとする。私達はお互いしばらく観察していて、リタちゃんの話しを聞いていた。
この時だけ、リタちゃんのお喋りに感謝する。もし部屋が静寂していたら、緊張のあまり逃げ出したと思う。リタちゃんのお喋りの間に覚悟が出来た。そんな覚悟も水の泡だった。
ユートはもなかったように接して気が抜ける。ユートに誘われて遠出をすることになった。リタちゃんも行きたなにがったけど、ユートが馬に三人は乗れないからと説得する。
リタちゃんがしぶしぶ頷いた後に「浮気をしたらダメよ。それと、駆け落ちなんてしちゃダメよ」と注意をされる。リタちゃん五歳なのに、ませている。ヨネさんがお母さんと言うことは、性格上でよくないのでは。お、おそろしいヨネさん教育?
ユートの赤馬「けい」に相乗りをしてお城と反対の方向に向かった。しばらく行くと家がほとんどなくなり、林が見えて来たころになると人の気配がなくなった。
私達はけいちゃんから降りて木にけいちゃんを繋いだ。けいの足元に草が生えていて、うれしそうに食べている。
私たちは手を繋いで、森を歩いた。十分位歩いて、王都を遥か彼方に見渡せる丘に着いた。絶景にしばらく見とれてる。ユートに促されて黄色い草の生えている所にユートと座り、お互いに無言で景色を眺めていた。
「明日結婚式だね」
ユートが話を切り出したので、「うん」私は頷いた。
「どうして、僕じゃダメなんだ?」
私はユートの言っている意味を理解したけど、どう答えたらいいか分からない。
「僕はけーこのことを愛している。でも、けーこは僕のことを弟と思っている。どうしたら僕を男として見てくれるんだ?」
ユートに説明出来ない。ただ前に私が書いた童話を思い出した。
「えとね、私の話を童話を聞いて欲しいの。それから、説明をするね」
少し息をすって落ち着く。自分の作品を話すことが、こんなに緊張するんだ。
『色の国
昔、昔、ある所に神がいました。その神はどうしても自分の国を作りたかったのです。そしてある日、その神はいつも心を楽しませてくれる色の国を作ろうと思ったのです。
神がある国を作りました。その国を「色の国」と名付けました。次に、色のクレヨンを作りました。神が作り出せた色のクレヨンは、白色と黒色と赤色と緑色と青色だけでした。クレヨン達はそれぞれ心を持っていました。
神様がクレヨン達に与えた初めの仕事は、色の国に色を付けることでした。初めは皆仲良く色を塗っていました。でもしばらくして、みんな気付いてしまいました。この「色の国」の色はあまり綺麗じゃないと気付きました。赤色と緑色のクレヨン達が、悲しさのためにお互いに肩を抱き泣き始めました。
すると、二人の流した涙から黄色のクレヨンが出来ました。
それを見て青色と白色が手を繋いで「僕達にも新しい色のクレヨンを下さい」と言うと水色のクレヨンが出てきました。
それで、みんなでいろいろ試しました。手を繋いでいる時に本当に心からお願いをしないと新しい色が出来ません。そして、なぜか黒色と他の色との間に色が出来ませんでした。
その反対に白色とは、どの色とでも柔らかい色が出来ました。一人で悲しんでいる黒色に白色が自分と色を作りましょうと励ました。黒色と白色が合わせて作ったクレヨンは、どれも灰色でした。
黒色はとても悲しくなりました。それを見た赤色と緑色と青色はそれぞれ手を繋いで泣きました。その涙から黒色の小さなクレヨンが出来ました。
「そうなんだ! 黒色は皆で出来た色だから特別なんだ。だから落ち込むことなんてないんだよ。色はそれぞれに意味があるんだよ。ただ、その色に合うか合わないかなんだよ。黒色クレヨンと僕白色クレヨンがとっても合うんだよ」
それを聞いた黒クレヨンはとても嬉しくなった。こうして「色の国」は綺麗な色で塗られて、たくさんの色クレヨン達によって楽しくすごしています。
おわり』
私は一息を吐いて、ユートを見上げる。
「やっぱり、いつ聞いてもけーこの童話はすごいな」
私は今のユートの言葉が嬉しい。これは、私の童話。私の童話が褒められた。でも、これをこの世界で誰かに話すことはない。他の偉大な作家の作品を発表している私には、自分の作品を発表する資格がない。
「あ、ありがとう。だ、だからね、ユートと私は合わないの!」
ユートが私を不思議な顔で見た。
「僕の髪の色のことを言っているの?」
「うん。髪の色もかもしれないけど、私とユートは近すぎるの。黒色と茶色は似た性質なの。だから二人でいる時は落ち着くけど、それだったらなにも生み出さないんだよ。
私の悪い所をユートはなんでも仕方ないって優しく許してくれる。サイラックさんは、空色。サイラックさんとは、なにか新しいことを生み出すと思うけど、私の色が強いと飲み込んでしまう。リュウーヒも一緒。ドレリーの銀色がドレリーの性格が私の黒色でこの性格に一番合っていると思うの。
私を止めてくれるの」
きっと私の言っていることは無茶苦茶だろうと思う。説明の後はユートは何も言わなかった。二人で只そこに座って夕日を見た。さっきまで曇っていたことが不思議なくらい、晴れた空に真っ赤な夕焼けだ。ユートがぼそっと言った。
「明日は、いい天気になる。真っ赤な夕日の次の日はいい天気になる」
「もし僕とけーこが近い者同しだったら、どこに居てもお互いのために寄り添って生きよう。もしけーこが悲しい時や危険な時は、僕が一番に側にいるよ。だから覚えていて、僕がけーこを一番愛していると……」
(シンデレラ
王子様と結婚して、本当にめでたしめでたしでしたか?)




