はだかの王さま
さっきの事でまだ動揺していたけど、孤児院の事を思い出し勇気を出して、王様にお願いした。
「あ、はい。あの、孤児院を開く許可を下さい」
「孤児院だと?」
「はい。その他にスイ国の人達のために学校を作る許可を下さい。お金とかは、私が出すので国の負担には一切なりません。それと石鹸を作る工場を作るのでその許可を下さい。工場によって、スイ国の移民者も安定した生活が出来ると思います」
「孤児院は、国の孤児院がある。国もたくさんの支援をしておる。それをわざわざ孤児院を増やすほど孤児もこの国にはいないと思うぞ」
王様が言った。王様は知らないんだ。こう言う事は、上の人は知らないんだ。私は、本当のことを知った時の王様の事を考えて悲しくなった。あの『はだかの王様』を皆楽しんで笑って読むけど、私は読んだ時に悲しくなる。
「あ、はい。王様、どうか私の話す童話を聞いて下さい。そして、その後に私の話を聞いてお決め下さい」
それから私は、思いっきり息を吸って心を落ち着かせて『はだかの王様』の話をした。私の話を聞きながら、皆は笑いながら話を聞く。
「ははー。このわしにその話をするとはの。はは、わしのことが怖くないのか?」
この王様の言葉の意味が分かった時に気付く。私の身に付いた感覚は、やっぱりどこかで日本人の感覚。王様の一言で殺されるなんて考えていなかった。王様の一言で結婚をしないといけなかったのに。考えは、一日や一晩で養えるものじゃない。
「あ、はい。怖いけど、怖くありません!」
「それは、どう言う意味じゃ?」
「あ、はい。王様はこんな豊かな国を治めています。国の皆は、生活の中で笑っています。お城の人達は、皆優しいです。ここにおられる方々も、王様を敬っていて、でも気心を知った仲の良い感じがします。それで、だから怖くありません!」
時々私は怖い物知らずだと思う。
「ははー、そうか。そうか。流石、想像する者じゃのう。人を良く見ておる。わしは、そちをどうこうする事は決して無いじゃろう。これからは、そちをわしの娘と思うよってわしをアット殿同様、父親と思ってなんでも語り合える仲になろうぞ」
「王それは、ご自分がトランプの相手をして欲しいだけではありませんか。それとも新しい遊びを教えて欲しいとか、新しい話を聞きたいとかではありませんか?」
あの将軍様が王様に聞く。
「ははははー。そうじゃ。面白い事が無かったら王様など、やっておれぬ。ところで、そちの言ったもうひとつの話はなんじゃ?」
私は昨日の出来事を話した。話の途中で、皆の顔が険しくなる。時々、王様は他の人の方を向いて目で話し合う。私が話を終えた時に、王様が聞く。
「分かった。こっちでも調査をしてみる。ところで、リュウーヒと言う者は、『片目の豹』のアット殿の所の者か?」
「あ、はい」
「そうか。分かった。調査しだい孤児院の設立と運営の許可を出そう。きっと、わしの、いや、国の孤児院が良くなったとしても誰も入りたく無いだろう……」
王様の声に力がなく、悲しそうだった。
「そちへの、褒美はまた改めて他の物を用意しよう」
王様が言った。私もそんな王様を見て悲しくなる。その後、王様や他の人達にあいさつをして、ドレリーに付き添って貰い退室した。ドレリーと私は無言だった。
「大丈夫ですか?」
ドレリーが聞いて来たので立ち止まる。私達は王様の執務室にある建物の外にいる。
「これは不思議ですね。さっきまで晴れていたのに、今は曇っていますね。ここ二三日、とてもいい天気が続いてい
たのにどうしてなんでしょうね」
ドレリーが呟いたので空を見上げた。さっきまでの青空が嘘のように、雨雲が空を覆い始めている。青色が灰色に被われるのは、寂しいようだけど灰色の空も綺麗だ。
「けーこ」
ドレリーに呼ばれ、私はドレリーの顔を見上げた。相変わらず綺麗な顔。
「私がこの前言ったことを覚えていますか? 私は、あなた以外を愛すことは決してないでしょう」
ドレリーが跪き私と繋がれた手を両手で包んで、私の目を見て優しい声で呟いた。
「けーこ。私はあなたを愛してます。短い期間で愛など言う私のことを信じられ無いでしょうが、これから何年でもそれが事実だと証明させて下さい。愛しています。どうか私と結婚して一生側にいることをお許し下さい」
跪いているドレリーの目より私の方が目線が上だった。童話の主人公のように一目で恋に落ちることが、どうして私には出来ないのだろう。私もドレリーと同じだけの気持ちを返したい。
「ドレリー、わ、私は、あなたのことが好きです。でも愛とか分かりません! あ、あの、で、でも一緒にこれから助け合える仲好しの夫婦になりたいです。あ、あの。はい、私も一生より添えられたら、う、うれしいです!」
ドレリーが手を放して立ち上がり、私を抱き締める。ドレリーの心臓の鼓動が激しく、私の心臓の鼓動と同じ早さだ。抱き締めれながらいたら、私の心の雨雲の間から光が少し埋もれて気持ちを軽くなった。でもその光もほんのひと時だけだった。
私達はユートに会いに騎士寮に行った。どうしても、アットおじさんのことを伝えたかった。そして、ドレリーとの婚姻のことも伝える良い機会だと思った。まさかこんなに人を傷つける結果になるなんて……。
騎士寮は、意外に正門の近くにある。襲撃のあった時に、すぐに駆けつけられるためとドレリーが説明した。相変わらず空は雲に被われていて、いつ雨が降っても不思議じゃない。ドレリーが騎士見習いの男の子に、ユートを呼ぶように頼む。すぐに、ユートが騎士寮から少し離れた城壁に来た。ユートは私に気付くと笑顔を向けるけど、隣にいるドレリーを見て嫌な顔をする。彼はドレリーを無視して聞く。
「けーこ。どうしたの?」
「う、うん。あのね、本当は明日、孤児院に帰る予定だったんだけど……これからね、ずーとこの街にいることになったの」
ユートが驚いた顔をする。ユートや孤児院の皆は、すぐに感情が顔に出る。
「今日、地主さんの所に行ったの。それで、思っていた人と全然違って、とっても良い人だったの。そ、それで、一人で大きな家に住んでいてね、年のいっている人でね。そ、それで、一人で寂しいって。でね、土地を譲ってもらうには、私が養子になることで……養子になっちゃった」
私はなんかユートの顔を見ていられなくなり、下を向いた。あっさりと孤児院を出た私は皆を裏切ったことになるのかな。急に悲しくなる。
「そ、そうだったんだ。けーこ、僕の顔を見てくれ」
ユートがそう言ったので、私は首を上げてユートの顔を見た。
「きっと、けーこのことだから、皆のことを考えてそう結論を出したんだろう」
ユートの落ち着いた声と琥珀色の目が優しい。「うん」私は首を少し下げた。
「孤児院の皆は、寂しがるけどいつか皆も巣立って行く。別に孤児院を出て行くから、家族を止めるって言う訳じゃない。いつでもあそこに帰って良いんだよ」
ユートの言葉がうれしくて、涙を出さないように何度も瞬きをする。
「でも、キミトがすっごく怒るだろうな。あいつもけーこのこと、大好きだしな。きっと、十六歳になったら騎士になりに王都に来るよ」
「うん、キミトって皆のことが大好きだよね。それにキミトって騎士になりたがっていたもんね。ドレリーが孤児院に来た時は、すごく興奮していて大変だった」
ドレリーの名前を出すと、ユートはドレリーを見て私を見た。
「僕もけーこが王都に残っていてくれて嬉しい。これからは、もっと頻繁に簡単に会える。また、一緒に……街に買い物に行こう」
ユートの顔が少し赤色に染まり、彼はドレリーのいる方の反対側を見た。
「ユート殿」
今まで何も言わなかったドレリーが、ユートに話かける。
「今、王との謁見を済ませてきた所です」
ドレリーがいつもより険しい声で言うと、ユートが頷いた。
「それで、王の勅令でけーこと私は、一ヶ月後に結婚をすることになりました」
「……!」
ユートがなにかを言おうとしたけどドレリーが続けて説明をした。
「けーこの立場を、リュウーヒ殿とサイラック殿にお聞きでしょう。けーこの身の安全のために、王がお決めになったことです」
「ど、どうしてだ。僕でもけーこを守れる。けーこ、けーこは嫌だよな? こんな貴族と結婚なんて嫌だよな?」
ユートが私の肩に手を置いて聞く。王様の命令で結婚をするのは、嫌だけど……相手がドレリーでほっとしている自分がいる。
「ドレリーで、いい」
ユートの琥珀色の目が大きくなる。その目の色がペンダントを思い出させた。
「ダメだ! こんな奴と一緒になったらダメだ!! 不幸になる。僕と一緒になろう。僕はずっとけーこのことが好きだ! けーこに会う前から、好きだった。お願いだ、僕と結婚しよう!」
ユートの汗の匂いのする腕に抱きしめられた。知らなかった。本当に知らなかった。ユートが私のことを好きだったなんて。気付かなかった……でもそれは、嘘。気付かないふりをしていたのかもしれない。家族でいることが、心地良かったから……。
「ご、ごめん」
ユートの腕から逃れようとしたけど、んの腕はビクとも動かない。仕方なく首を上げてユートの顔を見た。ユ琥珀色の目をきつく閉じて苦しそうな顔をしている。閉じられた目から涙が零れ始めた。私の顔に一つ一つと涙が落ちてくる。
いつの間にか私の目から零れた涙の雫とユートの涙の雫が重なり、どっちの涙か分からない。目から溢れる涙と同様に、心の中の涙が流れる。雨が降ってきた。私の濡れた顔は、雨の雫か私の涙の雫かユートの涙の雫か分からない。
「ユート殿。これは決まったことです。けーこを幸せにすると、騎士として誓います。もし私がけーこを不幸にしておりましたら、いつでも奪いとっても構いません。絶対にそうならないように努力します」
ドレリーの声で、私を包んでいたユートの温もりが離れる。ユートがドレリーの方へ行き、ドレリーの目の前で止まる。二人は何も話さない。ユートが両方の耳に着けている黒色のピアスにそっと触り取り外した。そして、再び私の目の前に立つ。
私の右手を掴んで手の平にそのピアスを置いて、私の耳に顔を近付けて囁いた。
「愛している。二人が結ばれる日まで、これ預かっていて。これからも、ずっと愛している」
そう言って、ユートは騎士寮に走って行った。私はユートの言葉を何度も思い出して、手の中の黒色のピアスを握り締めて、彼の後ろ姿を見ていた。
ユートの姿が見えなくなった後もそうしていた。手の中のピアスにユートの温もりが少し残っている。この世界に来てからずっと私の側にいてくれた温もり。私もユートを愛していた。ううん、愛している。でも、それは家族としての愛。
「大丈夫ですか?」
ドレリーがさっきから泣き止まず佇んでいる私の肩を抱いた。このドレリーの温もりが心苦しい。贅沢だけど、今はほっといて欲しかった。
(色の国
私の童話。私が書いた童話。地球で日の出を見なかった童話。きっと、この世でも日の出を見ることのない童話。)




