表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
my tale  作者: Shiki
37/62

かぐや姫


 私達が歌い終えても、周りは静寂していた。どれくらいしたんだろう、遠くに離れている人達から拍手や私達への感謝の声が聞こえた。


「なんと素晴らしい……分かりました。この曲に人生の恩を感じる位の価値がある事が分かりました。この世にこんな歌が存在するはずがありません。それに最初に歌っていた歌詞は、どこの言語ですか?


 この世の言語は、一つだけです。まさか、これは神の国の曲で先ほどの言語は、神の言葉ですか?」


 サイラックさんが、私達のテーブルの人にしか聞こえないように聞く。私はカルメンが何と答えるのか分からず、ドキドキしながら彼を見る。


「けーこは神の国を知っている?  記憶がないんじゃなかったのか? どこから来たの? このスイ国の王子を知っているみたいだから、スイ国から来たんだよね」


 ユートが焦ったように私に聞く。そんなユートに私はなんと答えていいか分からず、他の人を見た。リュウーヒもサイラックさんもユートと同じで、私の真相を掴もうと言う顔をして私を見ている。少し怖くなり、隣に座っているドレリーの顔を見た。


 ドレリーは、別にそんな事はどうでも良いと言う顔をしていて、私と目が合うとにっこり微笑む。私の心が軽くなった。


「そうかもしれないね」


 カルメンがそう言ったので、皆が『はっ』と呟きまたカルメンを見た。


「けーこちゃんはスイ国出身ではありません。もっと遠い所から来ています。そうですね……でも神の国と言うのもあながち間違っていませんね。きっと貴殿に話したとしても貴殿に理解出来ないでしょう。そしてなにより、けーこちゃんが真実を言うだけ、みな様は信頼されていないみたいですしね。信頼を得て真実を教えて貰うのと、無理にここで真実を暴くのは、どっちが貴殿のために良いんでしょうね?」


 カルメンの言葉で皆がハッとして私を見た。私は、ミトさんとヨネさんにしか本当の事を伝えていない。どうしても、ユートやソニに本当の事を言えなかった。


「と言うことで、私はこれで失礼します」


 カルメンがマンドリンを持ちながら立ち、私の所に来た。私は椅子から立ち上がりカルメンと向かい合う。私は、その水色の目と灰梅の髪のカルメンの端正な顔を忘れないように、彼を見つめた。


「ディランド神の御子」


『はっ』、周りで息を飲む音がする。


「この世に落とされた御子。けーこちゃん、僕はずっと君の味方だよ。ディランド神を敵になど出来ない。そしてまた近い内にきっと会うだろう。でも覚えていて、僕は一生君の味方だよ。ディランド神の御子」


 カルメンは私を抱き寄せ頬に軽く唇を下ろして、店から出て行った。私を抱き寄せた時にカルメンが耳元で呟いた。もし私がカルメンに会いたい時は、教会本部の神官長補佐の『ジョウイ』に日本語で要件を紙に書いて渡したら会いに来ると言った。


 カルメンが去った後、サイラックさんに言われて私達はさっき食事をしたテーブルに戻った。誰も何も言わない。そんな私達を見て、サイラックさんがお店の人に飲み物を持って来るように頼む。


 今回は私達の異様な雰囲気に気付いたようで、女の人達はさっさと黄色の飲み物とピッチャーとグラスを人数分テーブルに置いて去った。サイラックさんが、一人一人のグラスに飲み物を注いで皆に渡す。私の前にもグラスがあった。私は緊張して喉が乾いていたのもあり、その綺麗な飲み物をイッキに飲む。飲んだ時に喉が燃えるかと思うくらい、アルコールの強い飲み物。日本でもお酒類の物は、一切飲んだ事がない。私は喉が熱くて体が熱くなったけど、体がフワフワして何だかとっても楽しくなった。


「大丈夫?」


 隣のドレリーが私の顔を伺いながら聞く。


「うん。大丈夫。もっと、頂戴」


 ドレリーがもう一度私の顔を見て、その飲み物を私のグラスに注いだ。今度は、ゆっくりと飲む。本当に周りから聞こえて来る話し声や笑い声、料理の良い匂いが漂っていてもっと楽しい。


「あははは。うん、そうそうサイラックさんにお話をするんだったね」


 急に笑い出した私を、皆心配するように見ている。


「おい。けーこ。酔っているのか?」


 リュウーヒが私の顎を捕まえた時に、彼と目が合う。


「別に。いいのよ。だって、私ね。先月で二十一歳になっていたの。さらに大人なの。だから、大人はお酒を飲んでもいいの」


 私がそう言うと皆が、「こいつが二十一歳。信じられねー」「けーこの方が三ヶ月年上ですか?」「けーこさんは、お酒に弱いのですね」「僕、けーこの誕生日を祝ってない」と、聞こえていたけど全て無視してそのグラスの飲み物を飲んでいた。グラスの中が空になったので、グラスをドレリーの方に向けて注ぐように言った。


「けーこさん、もうそのくらいにしてはいかがですか。クムリン殿も、お注ぎになさらないで下さい」


 サイラックさんがドレリーを止めようとしたので、私はピッチャーを奪い取り自分で注いで飲む。


「もうサイラックさん、うるさい。そうだ、お話。お話」


「おいおい、酔ってるぞー、こいつ」


 と言っているリュウーヒを無視して私は、『桃太郎』と『ピーターパン』の話をする。初めは私を心配していたけど、サイラックさんはいつも持参の筆ペンでノートに話を書く。


「すげー。酔っていてきちんと話をしている」


 はじめて私の話を聞いたリュウーヒが言った。私は、匙が落ちても面白くなって『桃太郎』の歌を歌う。ホラ、口を開けて私を見てないで一緒に歌おうよー、と言いたいけど口が上手に回らない。うーん、どうしてなんだろう?


「けーこ。もうそろそろ帰りましょう」



「うん。それが良いでしょう。私も馬宿までお供します」


「じゃー。俺も暇なので一緒に行くよ」


「あっ、僕が今日一緒に出掛けたので最後までしっかり送ります。クムリン様は、家に帰られて結構です。皆様も僕一人で大丈夫です」


 ユートがそう言って私の所に来た。


「はっ、なにを言うか? ユート殿はまだ新米だ。昼間だってあの時に、どんな理由があれ剣を人に預けるなんてもっての他だ。それでどうやって人を守る。腰の剣以外に何か武器を持っているんだろうな?」


 リュウーヒが言うと、ユートが下を向いた。昼間の剣って?


 あーあ、カムリッとに預けたあれね。そんなユートの肩に手を置きサイラックさんが言った。


「リュウーヒ殿、もうそれぐらいでよろしいでしょう。ユート殿も田舎から出て来てまだこの街の危険さを味わって無いのですから。とても素直な性格なのです。ユート殿もそのように落ち込まずに今度から気を付ければ宜しいことです。それでは、みんなで仲良く行くとしましょうか?」


 サイラックさんの言葉でみんなで馬宿へ行く事になった。私は体がフワフワしていて真っ直ぐ歩けない。ドレリーとユートが私の両側から腕を繋いで支えてくれた。私達の前を、サイラックさんとリュウートが時々言葉を交わしながら歩いている。


 サイラックさんが、私の桃色のバックとサートの絵を持っていてくれた。石詰めの街道に軒並の家から優しい光が木漏れ私達の進む先を照らす。どれくらい歩いただろう。私には時間の感覚がなかった。


 私はさっきよりもっと楽しくなって、いろいろな物を見ては笑っていた。私達はユートが馬を預けた馬宿に着いた。なぜかドレリーの馬も同じ所に預けている。私はまた漫画や小説にありきたりの都合の良い展開が可笑しく、大笑いする。


 ご都合主義、万歳。


 自分でもなんでこんなバカ笑いをしているのか不思議なくらいにとっても面白い。笑い過ぎて喉が痛くなって、たくさんの空気を吸うために首を後ろに傾けた。空が見える。夜空に大きな満月が輝いている。月は日本に居た時とまるっきり同じ。


(ねえ、ディランド。


 こんな変わった色彩の世界なのに空や月や太陽や雲や星は、どうして地球と同じなの? そんなんだから……私はいつまでも地球を恋しくなるんじゃないの。そして、もしかしたらこの空が日本に繋がっているのではと思ってしまうんじゃない……)


「ねえ、ディー。ディランド。どうして、どうして会いに来てくれないの。約束したじゃない。この世界に来た時に、会いに来てくれるって言ったじゃない。ねえ、ディランド。返事してー」


 私は涙を流しながら、月に向かって叫ぶ。もちろんディランドからの返事はない。


「けーこ。けーこは、ディランド神を知っているの?」


 ドレリーが、涙を流している私の涙を手の平で拭きながら聞く。お酒に酔っていた私の思考は可笑しかった。


「うん。知っている」

『はっ!!』


 周りで、息を飲む音がした。


「そ、そうなんだ。月から来たのか?」


 あはは。ドレリーって変、変な事を聞かないでよ。『かぐや姫』じゃないんだから。


「あはは。月から来るのは、『かぐや姫』。私は空から来たと思う。だってディランドがディランドの世界に送るって言った時に気絶して、次は孤児院にいたんだもん。あっ、そうだ。『かぐや姫』って知らないんだよね。お話してあげる」


 サイラックさんが何か言おうとするのを無視して、『かぐや姫』の話をする。その間、ドレリーが私の手を握っていてそれを見たユートが私の反対の手を握った。私が話を終えると、サイラックさんが聞く。


「そう、そうですか。ところでけーこさんのお迎えは来ますか?」


 サイラックさんが小声で聞く。他の皆を見ると、心配した顔で私を見ている。


「ううん。ディランドが、私はこの世界で生きないといけないって。もう、戻る事が出来ないって」


 話の途中で止まったはずの涙がまた出て来る。ユートが話しかけた。


「そうだ、けーこ。僕のケイに一緒に乗ろう」


「いや、けーこは私の馬に一緒に乗って城まで戻ります」


 ユートとドレリーが私の手を離し、私がどっちに乗るかで揉める。


「い、いや。馬に乗るの嫌。腰が痛くなる。私は、車が良い」


 きっと、私は正気に戻った時にこの時の自分を殴ったと思う。


「車ですか。けーこさん、車とはどう言う物ですか?」


 車と言う変わった単語を言った私に、サイラックさんが聞く。


「えっ、車も知らないの? 馬より何倍も速いんだよ。動物じゃなくて、生きてないの。馬車みたいだけど馬とか動物が引っ張らなくていいし、振動も少なくてとっても乗り心地が良いの。


 そして速くどこでも行けるの。きっと車で、明日マイ町に一日で帰れるね。そうしよう。明日は車で孤児院に帰ろう。早くみんなに会いたいな」


 サイラックさんは、私の言葉を聞くとしばらく黙った。


「おい、神の国にはそんな便利な物があるのか? 他には、どんな物があるんだ」


 リュウーヒの片目が子供のようにキラキラしていて、ルビーのようで綺麗。


「うん、空を飛ぶの。他にあの月にも行くの。海の底に行く乗り物もあってね。たくさんの人を馬の何千倍もの速さで運んだり、遠い人とも会話をしたり出来る」


 ドレリーとユートも私の言葉を聞いている。


「私も帰りたい。リュウーヒお願い、私を飛行機で連れて行って。飛行機だったらこの空が続いているから、私の生まれた所に行けるかもしれないでしょう?」


「サイラックさん。私のために何でもしてくれるって言ったよね。じゃあね、電話が欲しい。電話って言うのは、さっき言った遠くの人と話せる道具でね、それで、加奈子と話をしたい」


「ねえ。ユート。洗濯を手伝ってくれてうれしいけど……洗濯機があればとっても楽だから、えっと洗濯機って言うのは手で洗わなくて良い勝手に選択してくれる便利な道具なの。だから洗濯機を一緒に買いに行こう?」


「ドレリー。私を愛しているんでしょう。だったら、私を元の世界に帰して」


 みんなが寂しそうな顔をしていたのに、気付いていなかった。私は、本当にどうかしていたと思う。本当に嫌な人間だった。


「ごめん。ディランドにも無理なのに、人間に出来る事じゃないよね。無理なの分かっているの。本当に、『かぐや姫』も無理なお願いをするよね。結局、自分は月に帰れたと言うのにね」


 そう言った後に、私の体から力がなくなった。傾いて地面に倒れて行く私の体を、ドレリーが受け止めた。ドレリーの体温が温かく急に眠くなり私はそのまま目を閉じた。しばらくドレリー達の話が聞こえたけど、目を開けて聞く気力が無かった。


「おい。けーこ。酔ったあげく笑って泣いて眠ったのかよ。子供じゃあるまいし」


 この声はリュウーヒの声だよね。


「クムリン様。けーこは僕が無事に送り届けますので、けーこをこちらに渡して頂けませんか?」


 ユート。私は物じゃないよ。文句を言いたいけど体が怠いし眠たい。


「いや。いい。それより、今日聞いた事は私達の秘密にしておくれ。只でさえ、けーこの立場は難しい立場に居るんだから」


 難しい立場って、なんだろう。ドレリーに起きたら聞いてみよう。


「そうです。ユート殿とリュウーヒ殿には、私が説明をしましょう。どうです、もう一杯私にお付き合いして下さい」


 サイラックさんの声だー。


「でも、クムリン様とけーこの二人きりだし……」


 ユート。それって、どんな意味?


「ユート殿。クムリン殿は、れっきとした近衛兵です。信頼出来ます。それよりけーこさんの立場を知る事の方が、今はもっと重要だと思いますが」


「じゃ、行くぞ。俺の安全地帯に連れて行ってやるって。それにユートは、女と言う者を経験した方が良い。貧乳は…いたかどうか分からないが…よし、俺のおごりで女を知るぞー」


 私は、ドレリーの馬に乗った所まで意識があった。


(タイコじいさん


 タイコじいさんがタイコを叩いて橋を架けるためにお金を集めてように、私も話を語り孤児院を建てるためにお金を集めましょう。)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ