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my tale  作者: Shiki
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かぐや姫



「きゃー。すてきー」


 侍女達の雄叫びより大きい黄色い声が聞こえたと思ったら、弦楽器の音が聞こえる。

その音色を聞いて、私は震えた。ダメ、どうして。心臓の鼓動が激しくなる。


「おい。大丈夫か?」


 さっきまでバカ笑いをしていたリュウーヒが焦ったように私の肩に手を乗せて聞く。


「けーこ。どうしましたか?」


 ドレリーとサイラックさん、ユートの声が聞こえたけど今の私には返事が出来ない。


 私はこの音色を知っている。この曲は、とても好きで何度も歌ったことがあった。

どうしてこの世界に、この曲が存在するの? 私と同じでトリップした人がいるの? 


 私は席を立ちその音色の方へ走る。その音色は、『アメージンググレース』だった。『アメージンググレース』私はこの曲をアメリカの黒人の女の人が、スポーツの開会式で歌ったのを初めて聞いた時に体が震えるほど感動した。次の日にその曲の英語と日本語が一緒に入っているCDを買いに行った。


 それから何度この曲を英語と日本語で聞いてそして歌詞を覚えるくらい歌った。その曲を、この世界にありえない曲をこの弾き手が弾いているの?


 目から涙が一粒頬に滑り落ちる。


 私はその弾き手に会いたくて、前の女性達の人垣の間に入ろうとする。


「けーこ、どうしたと言うのですか?」


 ドレリーが私の腕を引っ張ったので、私は前に進めなかった。


「お願い。私知っている。この曲を知っているの。同じ故郷の人かもしれないの」


 やっと口にした声は音色と共に響く。私の後ろにユートとサイラックさんとリュウーヒが私を心配している顔で立っている。ユートが聞く。私は何も答えなかった。


「記憶戻ったの?」


「分かった。俺がこの弾き手に会わせてやる。だから、泣くな」


 ちょうど音色が止まった。リュウーヒが私の涙を自分の人差し指で拭く。リュウーヒが「そこをどけ。俺達はその弾き手に用事がある」と言うと女の人達は、不満げだけど、リュウーヒの言葉に従い、其々の持ち場や席に戻って行った。私はその開けた場所を歩いて、『アメージングレース』を弾いていた人の所に行った。

 その人は、目の色が水色で髪の色は灰梅のこの世界の人だった。その人も人垣が散った原因の私達を見ている。私の姿を見て目を大きくして、息をゆっくり吐く。私達はその人の前で、立ち止まる。その人はマンドリンに似た弦楽器を隣のあるテーブルの上に丁寧に置き、聞いた。


「どのようなご用件ですか?」


「ど、どうして、この曲を『アメージンググレース』を知っているの?」


 私の言葉を聞いて、その人はまた驚いた顔をする。しばらく私を見た後に、隣で私達の様子を見ていたドレリー達に聞く。


「少しこのお嬢さんと二人だけで、お話をさせて下さい」


「いや。二人だけと言うのは……」


 ドレリーが言葉を濁して言った。私はもう気持ちだけが焦って仕方ない。


「お願い。私もこの人と二人だけで話をしたいの。話をしないといけないの」


「この場で話すので、皆様は少し離れた所から私達を見ていてかまいません」


 その人がそ言うとサイラックさんとリュウーヒが頷き、まだ納得いかないドレリーとユートの背を少し押して私達から少し離れたテーブルに座った。私はその人の座っているテーブルの開いた隣の椅子に座る。私達は肩をくっ付けて小声で話をした。


 その人は端正な顔立ちをしている。ぱっと見では、その美しさに気付き難いけど近くで見るとドレリーやリュウーヒとは違った幼さの残る綺麗な顔をしている。


「僕の名前は、カルメン。唯の吟遊詩人。それで、お嬢さんは?」


「……『カルメン』。意味はラテン語で『歌』」


 私の言葉を聞いてカルメンが楽しそうに笑う。その笑顔はとても柔らかく優しい。

よく分かったね。君は僕と同じで記憶を持つ者なの。それとも、でもその容姿は、あの世界の人達にそっくりだ。トリップ……まさか、そんな事実は存在しない。聞いた事がない。


 やっぱり、君は僕と同じで記憶を持つ者なの?」


 彼は転生者?


 でも、トリップが存在しないと信じている。本当はここで嘘を言って転生者にした方が良いと思ったけど、なぜかカルメンには本当の事を言いたかった。


「ト、トリップしたの。名前は、杉山けいこ。日本から来たの」


 本当の事を言ったらカルメンは、なぜか納得した顔をして頷いた。


「そう。ディランド神も知っているんだね」


 その言葉は、質問ではない。


「じゃあ、カルメンは転生者なの?」


 この世界に、前世の記憶を持って生まれる人がいるのだろうか。でもそれが、どうして違う世界からの人なんだろう。


「いや、違うと思う。僕は今の僕が本当の自分と分かる。僕の記憶の端にこの歌を歌っていた男の人の記憶がたまに出て来るんだ。どう説明したらいいか分からないが、彼と僕とでは違うんだよ。


 同じ思考や性格ではない。ただ彼の記憶の片隅を俺が持っているだけなんだ。だからこの曲の音色は知っていても、題名も歌詞も知らないんだ。だから転生者ではないよ」


 カルメンの言っていることは、分かるようで分からない。


「けーこちゃんは、この歌詞を知っているんだね。僕にも教えてくれないか」


「う、うん。いいよ。日本語それとも英語?」


 カルメンはどっちも聞きたいと言ったので、私は字が書けないことを伝えてはじめに『アメージンググレース』の日本語の歌詞を伝えた。


 カルメンは、私の言った歌詞を紙に書く。次に英語の歌詞も伝えたけど、これは、ディランド語に変換されなかった。英語の歌詞を伝えた時にカルメンがアルファベットでその歌詞を綴る。途中からは私の言葉も待たずに、一人で歌詞を書いた。


「どうして?」


「あ、うん。彼の記憶がこの英語と言う言語で覚えているみたいなんだ。彼は君と似た造りの顔や髪の色をした人達の所にいたけど、空を飛ぶ物に乗って肌の白い、僕達に似た造りの人や肌の黒い人や肌が茶色の肌の人達がいる国に行って勉強をしていた。


 その国では、この英語と言う言葉を話す人が大勢いたんだ」


 その空を飛ぶ乗り物と言う物は、飛行機。じゃあ、その人ってつい最近の地球に住んでいた人って事なの?


「ど、どうして。どうなっているの。ディランドが私の事を知っているってどうして納得出来るの。どうして違う世界からの記憶を持っているの。飛行機は最近のじゃない。一体どうなっているの? なんか私には分からない」


 頭がパンクしていて、何が何だか分からなくなった。カルメンはそんな私の両肩を、軽く壊れ物を抱くように抱く。とても近いカルメンからレモンの匂いがする。


「大丈夫だよ。心配する事ないんだ。ただ僕は日本語知っているからなんだ。


 けーこちゃんの口元が日本語を話しているのに口からはこの世界の言葉、つまりディランド語が出てきている。そんな事が出来るのはディランド神以外はいないだろう」


 カルメンは、そう言って私の背中を優しく擦ってくれた。


「ねえ、けーこちゃんはディランド神の事を呼び捨てなんだね」


 私は頷く。こっちに来て初めて何も隠さずに、一緒にいれる人に出会えて安心する。


「うん。ディランドはディーって呼んで良いって言ったけど、アイツはディランドで良いの」


「この世で、ディランド神をアイツと呼べるのはけーこちゃんだけだよ。ははは。けーこちゃんは、ディランド神に愛されているんだな」


 彼が笑い出す。私は別にディランドになんて愛されてないよ。だって下僕だよ?

 それより何でだろう。今出会ったばっかりの人に抱きしめられているのに、とっても安心する。このままカルメンと一緒にいたいと思えた。


「おい。離れろ。けーこから離れろ」


 ドレリーが、カルメンの腕を私から剥がす。


(ちょっと!)


 私は文句を言おうと思いドレリーの方を見たら、彼がカルメンを殴ろうとしているのをリュウーヒが止めた。


「クムリン殿、お止め下さい。この巷を治めている者として、そのような行為を見過ごす事は出来ません。お控え下さい」


 リュウーヒが言ったら、ドレリーがリュウーヒを睨んで私の横の椅子座った。


「王子も、なぜこのような所に、いらっしゃるのですか?」


 リュウーヒが丁寧にカルメンに聞く。今、王子って言った?


「そうか、私の事を知っているのか?」


 カルメンがリュウーヒとサイラックさんを見て返事をしたら、二人共頷いた。


「少しお話をして、よろしいですか?」


 サイラックさんが、テーブルの反対側の椅子に座る。リュウーヒもサイラックさんの横に腰をかけた。ユートは私と一緒で、今一この状況を分かっていない様子でドレリーとリュウーヒの間に椅子を持って来て座った。


「スイ国の第八王子カラクッチ王子で宜しいですね」


 サイラックさんが聞く。スイ国の王子? カラクッチって辛口?


「ええ。今はカルメンと名乗っておりますので、そちらで呼んで下さい。メトニン侯爵令息殿。そちらに居られるのは、カイライ王の近衛兵の伯爵令息のクムリン殿と『テト』のリュウーヒ殿と後は新米の騎士見習いのユート殿ですね。


 とても不思議な組み合わせですね。ところでみな様は、けーこちゃんとどのような間柄ですか?

その答えによりこれから皆様の質問の私の答えも変わります」


 間柄って、知り合い? それよりカルメンは、どうして皆の事を知っているの?


「私の事は、サイラックでかまいません。私達はけーこさんを守る者達です。決して害を与える事はありません。それでカルメン殿の方は、どちらなのですか?」


 なんで私は、守られなければいけないんだろう?


「私はけーこちゃんにこの歌詞を教えて頂きました。この恩は、一生分に値しますので決して敵に回る事はありません」


「だが、たかが歌詞一つで、国を裏切ると言うのか?」


 リュウーヒが静かで、それでいて迫力のある声でカルメンに聞く。


「たかがと言うが、この曲を聞いてないから言える。きっと、この曲を聞いたら分かると思う。そして私は、国を裏切ってはいない」


 カルメンはがテーブルの上からマンドリンを取り、『アメージンググレース』を弾く。カルメンが英語の歌詞を歌ったので、私もつい一緒に歌った。とても懐かしくうれしい。英語の歌詞を歌った後に日本語、ううんディランド語の歌詞を歌う。私達がディランド語で歌を歌い始めた時に、周りがさらに静かになり私達の歌声しかしない。

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