表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
my tale  作者: Shiki
32/62

幕間 アリとキリギリス



 粋な『色持ち』と『黒色』とただでさえその容姿を欲しがる人がいるのに、今さらに偉大な才能を示している。最初は無垢な少女を守るためと思っていた。まさか恋なんて信じてない自分が、その少女に会う度に惹かれて行っている。私は四男と言っても一応侯爵家の息子なので、今まで色々な縁組の話があった。


 どの令嬢にも、心が惹かれるものがなかった。彼女達、貴族としての自分しか見てないと思って、私は最初から彼女達に関わらないようにしている。けーこさんは私の事を侯爵家の息子とは見ておらず、ましては良い結婚相手とも見ていない。唯のサイラックを見てくれている。だからなんだろう。あの女性嫌いのクムリン殿も、けーこさんに惹かれたのは私と同じ理由だろう。


 少しでもけーこさんと過ごしたら分かる。彼女の天使のような無垢さに。このような女性は、毒の強い女性に嫌われる。母のように。


 この部屋から見える空は、彼女と一緒に馬車に乗った日のように晴れている。けーこさんが来た前の日、丁度けーこさんが怪我をした日は雨が容赦なく降っていた。


 次の日もけーこさんが城に来た時は、小降りだった。この空も、けーこさんの気分によって変わるのかとさえ思える。ディランド神の落とし子。珍しい黒色の色持ち。けーこさんの生きて行くこの先が闇に包まれ過ぎていて予想が出来ない。この澄んだ青空は今けーこさんは笑っているのだろう。今だけでも笑っていて欲しい。


『バタン』


 ドアが開き母が空色のワンピースを着た姿で入って着た。母は私の髪の色の空色がとても好きで、いつも体の一部に身に着けている。


「サイちゃん。お話をしてちょうだい。私昨日の『赤ずきんちゃん』が良いな」


 母が私の前で、幼い子供がするように両手を前で重ね私にお強請りをする。


「おかあさん。ばあやは、どうしたの」


「置いて来たの」


『ドッターン。バッターン』


 勢い良く白髪混じりの私の乳母で今は、母の面倒を見ているばあやが息を切らしながら私の書斎部屋に入って来た。


「す、す、すみません。ぼっちゃま。奥様が目を離した隙にこちらに参りました」


 年老いた乳母には、母の足に付いて来るのは大変だ。そろそろ他の者に母の面倒を頼むべきなのだが……その本人が人嫌いだ。以前の母は、人懐っこく何でも興味を持ち落ち着きのない可愛らしい人だった。


 あーあそうか、けーこさんと母は、姿形は全然似てないのに性格が似ているんだ。母は、結構大柄で優しい顔をしている少し綺麗な普通の人だ。


 母は、年老いた夫婦の晩年に出来た子供だったらしい。母が十六歳の時に祖父が亡くなり一人になって、祖父の友人の伝手でメトニン侯爵に侍女見習いで奉公し始めた。メトニン侯爵はなかなかの美男子。幼なじみで許嫁だった第一婦人が結婚一年目で懐妊しなく、ほとんどの未婚の令嬢が婚姻を迫ったらしい。


 その中で仕方なく第二婦人を娶った。その第二婦人は、結婚三カ月で懐妊した。そして三ヶ月後に第一婦人も懐妊して二人共、三カ月違いに男の子を生んだ。これが、メトニン侯爵家の戦争の開幕。第一婦人は、さらに二人目を二年後に生んだ。跡取り問題で、今もメトニン侯爵家は醜い争いをしている。 


 その奥方に挟まれて十年間過ごした侯爵は、母の優しさに気付き無理やり手を付けた。母は私を生んだ。母は侍女を辞めさせられて、妾にならなくてはなかった。


 もちろん庶民出の母は、二人の奥方の良い的になる。母は侯爵に認知された私のためだけに、唯々その仕打ちに耐えてその家にいた。もちろん兄上達に苛められていた私は、七歳になると特別な寄宿学校に入った。母は気丈に私を送り出してくれた。私はよほどの事がない限り、侯爵家には帰らなかった。母は良く寄宿学校に私に会いに来てくれる。母は私の話をいつも楽しそうに聞いていた。


 特に私が書いた話や論文を好んで、話をするようにせがまれた。母は私と会話をしてる時が一番好きだと言って良く笑って言った。母が笑ってくれるために、私は誰よりも学び努力をする。周りから神童とまで言われた。この努力は全て母のために物語を書くためだ。


 私が十五歳の時に、侯爵家から緊急連絡が来て私に戻るように馬車が来る。私が侯爵家に到着して母の寝室に入った時に見たのは、ベットに横たわっている母だった。母の頭には包帯が巻かれていた。誰も母に何があったかを私に教えてくれない。


 母が第二婦人に押されて階段から落ちたと、後で乳母が教えてくれた。母は3日後に目を覚ました。でも目を覚ました母は、以前の母では無かった。私と乳母以外の人を全て忘れていた。母は十歳の小さい子供だった。母が十歳の時は、まだ祖母と祖父が健在で幸せだったと言っていたのを思い出す。母は、その幸せな時を生きているのだろう。けーこさんも記憶を失い、包帯の頭を見た時に母と重なった。


 そんな母を見て良心の痛んだメトニン侯爵が、母と私に貴族街の端のこの家を与えた。私は侯爵家から、それ以上の支援を受けるのが嫌で出版社を設立する。主に法律書や学び書を出版した。利益は、そこそこだ。『情報を持つ者』の方が収入が多い。それが今は、けーこさんのお陰で変わり始めた。


 私は近い内に侯爵家より莫大な金を持つ事になるだろう。その時は、未だに家におり国の仕事にも就いていない兄上達と、その嫁達と子供達が私の所に財産を強請って来るだろう。私の財産は、一銭も彼らの所に行かないように今日ついでにその手続きをして来た。


「ねえ。サイちゃん。お話して」


「ああ。うん。まずは、おかあさんがばあばに謝ってからね」


 私の言葉に従い母は、乳母の所に行き「ごめんなさい」と謝った。


「いいえ。もうこの様な事はしないで下さいね」


 乳母は、母と私にとても甘い。私と母はソファーに並んで座えう。昨日けーこさんから聞いた『赤ずきんちゃん』の話をする。話を聞いて満足した母は、乳母に連れられて部屋から出て行った。『赤ずきんちゃん』だけでなく、彼女の作品はどれも素晴らしい。


 私には、分かる。きっと、けーこさんは私以外の人と結ばれるだろう。私は、けーこさんがそれで幸せならそれで良い。でも、もしけーこさんが幸せでなければいつでも全ての権力を使ってでも、けーこさんを奪い母のようにならないようにする。そして、その時けーこさんを幸せに出来る人が私だと良い。


そろそろ『私の女王様』が待っている食堂に行こうとしようか。私は呼ばれればどこへでも行く……あなたの僕。


(アリとキリギリス


 私は、こつこつ働くアリ。私は、唯ひたすらあなたを見守り愛するでしょう。そう言う愛の仕方しか出来ない小さなアリ、それが私)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ