ピーターパン
「あっ、あれは、ひどいよ。彼女、大切にした方が良いよ」
無関係なのに、そんな事を言ってすまった。
「あれは、彼女じゃない。商売女だ」
ボスがゆっくり立ち上がり、私達の所に来た。ユートが私の前に立とうとしたけど、そのボスが私の前に立ちはだかる方が早い。
「綺麗な黒髪だ」
ボスが私の髪を、ゆっくりと撫でる。ユートがボスの手を掴んでボスを睨んだ。
「けーこに触るな」
「あーあ。彼氏?それにしては黒髪の君、幼いな」
ユートより幼く見られ、「カー」となった。
「私は、二十歳です。れっきとした大人。ユートの方が年下で弟」
しーん。
やってしまったみたい。なに、狐に化かされたような顔を皆でしている。
大体、あの極悪の顔の人にそんな顔は、似合わないよ。さっきから一言も喋らない眼鏡の人にもイケメンにも似合わないよ。なんでカムリットは、狂ったように大声で笑って要るの。それに、なんでソファーに極悪の顔の人と並んで座っている。
「けーこ。僕は、弟じゃない。大体、ヨネさんの『男から身を守る方法第八条』の、もし相手が子供と勘違いしていたらそのまま勘違いさせとく。を、思いっきり守っていないじゃないか!」
「えっ。なんで、ユートがヨネさんの『男から身を守る方法』を知っているの?」
なんで男のユートが知っているの。
「ああ。ヨネお母さん、女の子が十二歳になるまでその条約を徹底的に教え込むんだ。それで僕達男にも、女達が覚える練習に付き合わされるんだ」
びっくり。そんなに徹底的にあんな下らない事を教えているのね。
「でも、私には出発の時にしか言わなかったよ」
「あーあ。けーこが来ていろいろあって忙しかったからね」
「ねー。男の子達にも、なにか条件があるの?」
「まあね」
ユートが反対の方向を見た。気になる。孤児院に帰ったら、キミトに問こう。
「おい。お前ら、俺の存在忘れてない。初めてだよ、こんなに明らさまに存在を無視されるのはね。まあ、良い。そこに座れ」
ボスがさっき座っていたソファーに戻り座った。私達も床に散らばっている物を踏まないように、足元に気を付けながらソファーにユートと並んで座る。
「俺はこの地を治めているリュウーヒだ。アミーヒに話をしてくれて礼を言う。ウドットのオヤジに車椅子と言う新しい物を提供してくれたそうだな。礼を言う」
なんという早い情報収集。別に頭を下げる訳でなくそう言った。この人は礼を言っても、きっと頭を下げる事のない人。
「あっ、あの。ここに入る時、どうして警備が厳しかったの?」
さっきから、なんで私は関係無い事を聞いているんだろう。
「あーあ。この土地の地主は、俺にこの土地を自由に使う許可をした。だが地主の倅が、倅と言っても後妻の連れ子だから本当の息子じゃない。そいつが、勝手にこの土地を開拓仕様としているだけだ」
「ここに住んでいる人は、スイ国の移民ですか?」
ユートがボスに聞く。
「あーあ。大概の者はそうだが。カムリットやアミーセのように、孤児院から救い出した子供達もたくさんいる」
「カムリットが言っていたような事が本当に孤児院でやっているのですか?」
ユートの真剣な声。ボスが孤児院の状態を話した。途中でユートが私の手を握る。
私がこれからしようとしていることを、綺麗事と思う人がいても、私はこのままこの知った事実をそのままに出来ないと思う。王様ともう一度、褒美の事で会う機会があるので聞いて貰おうと思う。そう心に誓いながらこの目の前の女の人に、不誠実だけどとても惹かれる人の話を聞いていた。きっと、この人はアミーセやカムリットやウドット達のピーターパン。
「あっ、あのこの土地を買わないんですか?」
ユートとボスと眼鏡の人と極悪の顔の人が私を頭の悪い子を見るように見ている。カムリットの「やっぱり。おばさん、大人じゃない」って呟いたの聞こえた。
「そんな金はない。もし、土地を買ったとしても生活を養えるお金もない」
私は私の所有しているお金を土地代に提供し、あの工場後に石鹸を作るようにして仕事を与える事を話した。ユート以外、私がトランプの生産者と聞いてビックリしていた。
そして『不思議な国のアリス』以外に、他にも何冊か本が出版されると聞いてまた驚く。今は手元にまとまったお金がないけど、将来はきっと買えると思う。この土地に新しく孤児院を作れば良い。スイ国の人も字を覚えれるように、学校を作るのも良いかも。私は、いつもの癖で一人で暴走してしまう。ボスは、しばらく黙って考え事をしていた。
「分かった。その地主の所に交渉に連れて行ってやる。明日の朝で良いな」
それから私達は、これから出版社のサイラックさんと食堂で待ち合わせをしているから、ボスも一緒に行かないかと誘った。もちろんユートはすごく反対したけど、お金の事はサイラックさんの方が分かると思うので直接話してもらった方が早い。
「ああ。分かった。俺は用を済ましたらそこに行く。ところで俺の事をリュウーヒと呼んでくれ。黒髪の愛し子」
リュウーヒは、そう言ってまた私の髪を触った。その手が、なぜか寂しそうだった。
「けーこ。行くぞ」
乱暴にユートに腕を引っ張られて、私達はその場を後にした。ケープを着て外に出たら、空が黄色と蜜柑色と赤色と紅赤色と紫色と墨色に塗られている。紅赤色がリュウーヒの片目の色と同じだった。
(かぐや姫
どうして、月に帰ってしまったの?)